りとるとらべる(転生トリップ)<前編>
昨今は物騒になった――よく聞いた、そんな台詞。
けれど、ニュースで見かける痛ましい事件も、怖いとか被害者が気の毒だとか思いはしても、所詮他人事だった。
画面を通した事件は、自分の日常からは遠く。
誰もが思う『まさか、自分が』というそのまさかが現実になるなんて、思いもしなかったのだ。
――その瞬間のことは、ひどく断片的にしか思い出せない。
しかし強く記憶に残っているのは、腹部を襲った激痛と、襲撃者の酷く濁った瞳……。
気が付けば、意識は喪われ。
そうしてふっと気が付いた時、私はうまく身体を動かせなかった。視界に入るのは、ぷくぷくとした、紅葉のように小さな手のひら。
――なんと、赤ん坊になっていたのだ。
ショックを受けない為か自分という意識が目覚めるのは酷く短時間で、後から思えば授乳だとかオムツ交換だとか、精神的に恐ろしく負荷のかかりそうな出来事は覚えていないが、とにかく。
平凡ないち社会人女性だった私は、通り魔に刺殺され、生まれ変わったらしかった。
――そして、月日は流れ。
四歳にしては落ち着いて頭の回る日本人の少女として一般家庭で育っていた私は、ある日突然にして天涯孤独となった。
いくら前世の記憶があるとはいえ、今世の両親も大切な家族。悲しみを堪えながら児童養護施設に入る準備をしていた時のことだ。
眩しい光を感じたと思ったら、どこか見知らぬ場所に立っていたのは。
もこもこした兎のルームシューズ、薄いピンク色をしたワンピース型パジャマ――嬉々とした両親に買い与えられたそれらを身に纏ったまま、やけに眩しい場所にいた。
流れていた優雅な音楽は止まり、唖然とこちらを見る人々の顔、顔、顔。
今まで、こんなに大勢の人間に注目されたことはない。しかも、明らかにそこにいる人々は皆、日本人のようなアジア的な容姿ではなく、西洋人のように彫りが深く、それ以上に平均して美しい容貌の人々ばかりだった。
髪や瞳に鮮やかな色彩を持つ人々の中でも、一際目映い光を弾く金髪に深い空の色をした瞳を持った人物が歩み出て、真剣な眼差しでこちらを見たかと思うと――ふわりと相好を崩し、柔らかく微笑む。
あれよあれよという間に、何だか丁重に扱われ、非常に贅沢な生活が始まった。
それが俗にいう異世界トリップというやつで、歩み出てきた女帝に保護された自分は、『神の愛し子』とかいう異称を頂いていたのだけれど。
それらを知るのは、その世界の言語や常識を身につける、一年と少し後のことだった。
平凡→転生→異世界トリップ(幼女)。
なんかこんな感じのことが頭に浮かんだので。
長編にしてもよかったんですが長くなりそうだったのでお試しで短編に。後編はいつになるかわかりません。