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福音の鍵(トリップ)<前>


それは、生まれ落ちた時から定められていたこと。

貴色と謳われる暁色の双眸を開いて周囲に向けた時から、自分の運命は決められていたのだ。

――女じゃなくてよかった、というのが、たった一つの救いか。


燦然と輝く太陽に舌打ちをして、その熱い光から逃れるように、森の木々の陰に横たわる。

柔らかな草は、白く滑らかな肌を傷付けることもない。

ふう、と息を吐いたその時、がさがさと何かが勢いよく、茂みの間から突進してくるのがわかった。

獣か、と警戒した瞬間、現れたのは――己の腰程の高さの、幼い子ども。

清潔に整えられていただろうと思われる短い黒髪には葉っぱが絡み付き、衣服も汚れている……そう思った途端、べちゃ、と目前で子どもが転んだ。

思わず駆け寄って手を伸ばす。

どんぐりのような丸い焦げ茶色の瞳から、ほろりと大粒の涙が転げ落ちた。


「っ痛いぃ…」


膝頭が見える程に短い丈の脚衣、不思議な形の靴。簡素でありつつもどこか丈夫そうに見える白い上衣――それがTシャツと呼ばれるものとは知る由もなかった――見たことのない服装のその子どもの何処に、それほど惹かれたのかはわからない。

一見すればどう見てもやんちゃな幼い少年であるというのに、相手が少女だとわかったのは、本能のなせる技か。


「――大丈夫?」


近寄って、小さな体を抱き上げた。

きょとんと瞬きをするその表情は、小動物のようで愛らしい。


「おねえちゃん、だれ?」


泣きながら驚いたように尋ねてきた彼女があまりに可愛かったから――彼がそうしてしまったのも、仕方のないことではないだろうか。


「私は女ではないよ」


ふふ、と笑みを零して、柔らかな前髪を掻き上げる。その額に、祝福のようにくちびるをひとつ落として、印を刻む。


「――彼女に決めた」


凛とした声音で、彼は宣誓の祝詞を唱えた。

前後篇。何が何やら。男の子みたいな女の子と女の子みたいな男の子のロマンスが好きすぎるという自覚はあります。後篇遅れたらごめんなさい。

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