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繋がる扉(トリップ)

それは、ある日の出来事。


夜中にぱっちりと目を覚ましたわたしは、喉の渇きを感じて、しょぼしょぼと眠い目を擦りながら、階下へ降りて台所でお水でも飲もうと、自室のドアノブに手を掛けた。

欠伸を噛み殺しながらガチャリとドアを開け、一歩向こうに踏み出そうとした瞬間、何故か壁にぶち当たった。

……ごちん、ではなく、ぼふっという感じだった。


ほえ、と気の抜けた声を上げてよく見ると、ベッドの小脇に点けた小さなライトの光の中、ぼんやりと浮かび上がっているのは、暗い色の服。

見上げてしまった目には、眠気も一瞬でぶっ飛ぶような精悍な美形のおにーさんが立っていた。

赤みがかった金髪に、青い瞳。がっしりとした身体。明らかに、日本人ではない。そして、全く知らない人だ。

ぽかんと見つめていると、相手も何やら知らない言葉で何事か呟いて、次の瞬間そのちょっと野性的な美貌が近づき――。


「ふぎゃああああああああああ!!」


思わずぶん投げてしまったのは条件反射だと思う。だって、生まれてこの方二十二年、そんなことをされた経験はなかったし、幼いころから護身の意味で習っていた柔道はすっかり身についてしまっていたのだから。

まさかそれが、更なる墓穴を掘ることになるなんて。



全く気付いていなかったのだけれど、その時私の部屋のドアは、何故かたまたま、相手の部屋のそれと繋がってしまっていたらしい。

で、混乱したまま部屋の外に出た瞬間、ドアは閉まってしまい、向こう側に出たわけで。

投げ飛ばした後、たまたま、相手の部屋を片付けていたらしいメイドさんらしき人たちと目がばっちりあってしまって。

再び開いたドアの向こうはもう、わたしの部屋ではなくて。

――あれよあれよと言う間に、何故かわたしはその相手と結婚することになっていた。



聞けば、地球ではない異世界のその国の王様の二番目の弟であるらしい彼は素晴らしく能力の高い軍人さんらしく、色々あって、周りは彼をさっさと結婚させたかったらしいのだけれど、何でも結婚したくなかった彼が出した条件が、『自分よりも強い相手』というもので――。

みんな、これ幸いとちゃっちゃか話を進めてしまったわけだ。

いやいやおかしいでしょ。明らかに得体の知れない相手をなんでそんなに簡単に奥さんにしようと思うわけ。

しかも、誰より乗り気だったのは金髪碧眼のその彼だった。

見た目が好みだったから会った瞬間あんなことをしたとか――強制猥褻罪だ! ――投げ飛ばされてますます好みだと気付いたとか――あんたはマゾか! ――散々結婚を渋っていたわたしが聞かされた話は、信じられないようなことばかり。

だって、別にわたしはどこにでもいるような平凡な容姿の女だ。

この間、大学を卒業したはいいけれど就職先が決まらずに暗澹とした思いでアルバイトに励んでいた二十二歳。

あばたもえくぼとは言うけれど、なんでわたし。

与えられた部屋でクッションのようなものを抱え、じろっと不審な目で見るわたしの前に、彼はなんと跪くようにして、手を取ってきた。

何故か通じる言葉で、真摯に口説く。その求婚は連日続き、三か月程の末に、わたしは根負けしてしまった。

頷いた瞬間の彼の嬉しそうな笑顔が忘れられない。



数年後、生まれたばかりの子どもをあやしながら、こっそりと囁かれた言葉でうっかり泣きそうになったのは、わたしだけの秘密だ。

会った瞬間、わたしだって物凄く相手が好みで一目ぼれしてしまったことも、悔しいから絶対に言ってやらない。

分不相応かもしれないけれど、わたしだけを心の底から想ってくれるひととしか結婚したくなかったから、返事を渋っていただなんて。


――彼と出会う一週間前に、わたしは地球での家族を事故で全て失くしていた。

誰もいなくなってしまった築三十年の二階建ての家は広すぎて、悲しくて。

夜、いつも浅い眠りばかり繰り返していた。

わたしの心をあたためた、彼の一言。

幼い頃に母を失くしたらしい彼もまた、寂しいひとだった。わたしを見た瞬間、思ったそうだ。

わたしとだったら、子どもをとても大切に愛していけると。

なんでそんなことを閃いたのかは知らないけれど、再びできたこの家族が、わたしの居場所だ。

毎晩彼が眠った後、こっそりとその腕の中で囁く。ありがとう、だいすき、と。


わたしは知っている。彼がいつからか寝たふりをしているのを。明るいところで顔を見て素直に言えない妻の言葉にタヌキ寝入りで喜んでいるのを。

この世界に来てわたしは新しい家族を手に入れた。それは何にも代えがたい、愛しいものだ。

もう、ドアを開いても向こう側にわたしの部屋はないけれど。

わたしはここで、ずっと生きていく。

ふっと思い浮かんだものを書いてみました。気晴らし気晴らし。

色々シチュエーション的なものが浮かんだら書いてみたいとおもいます。

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