アピールポイントは首を斬るのが上手いことです
「つまりアッシュ様は異世界での再就職先を探したい、と」
ヒアリングした希望内容をデータ入力し、再度受付窓口に座る男と向き合う。
筋肉隆々。屈強な身体。巨大な石壁と見間違うほどの背丈。死線をくぐり抜けた証として携えた傷跡。眼力で人を瞬殺できてしまいそうな圧と人相。
ぶっちゃけると担当したくない。というか今すぐ逃げ出したい。急に上司に呼び出されたかと思えば、押し付けられ……いや怒ってないですよね? 目が怖いんですけど。
大体「再就職支援窓口異世界転移課」は、魔法や規格外の設定が蔓延る世界で、ごく普通の人が住みやすい場所へ移住するのを目的としている。
目の前にいる男はどう見ても適応した能力を持っているはずだ。だというのに異世界で再就職先を探したいなんて、のっぴきならない事情があるはずだ。
「差支えがなければ異世界転移での転職に至った経緯など教えていただければ」
助かります。と言い切る前に更に眼圧を強めた視線で見下ろされる。マジで怖いって。案内を乞う側がメンチ切ってくるっておかしいって。
内心ビビり散らかしている私を他所に、先程までの威圧が嘘のように男はしおらしい表情を浮かべ始めた。
「自分、死刑執行人なんすけど」
「えぇ」
「異世界からの"悪役令嬢"の再就職が流行りすぎて、改心しちゃって仕事がないんすよね」
「……あぁ」
ご愁傷様としかいえない同情がわく。確かに最近異世界先からの悪役令嬢の求人倍率が高い。しかも大体改心した悪役令嬢だ。
そりゃ開幕首斬りから始まる物語がなくなっていくのだから、仕事がなくなるのも当然だ。(戦士でもやっていけそうな気もするが)
「こんな自分でも向いてる職、ありますかね」
身体を縮こませて俯く男の、入力した職歴を見つめてから微笑む。最大のアピールポイントは何も命を奪うだけではない。
「えぇ。異世界先でも"首斬り"の仕事はございますから。きっと貴方の"死刑宣告"は誰よりも威力がございますよ」