表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/27

解答 美並菜水 第一話 格差

 私、美並菜水(みなみなみ)は、名前の通り平凡な容姿をしていると思う。そんな風に考えると、同じクラスの姫川悠子(ひめかわゆうこ)さんは悠久の姫とでも言わんばかりの、絶対的な美しい容姿をしていた。


「美並菜水です。逆から読んでもみなみなみです」


 中学に入学してすぐの自己紹介で、そんなことを言ったのを思い出す。少しは笑ってくれる人もいるかなと思ったけど、反応は特になかった。

 一方で、姫川さんは名前を名乗っているだけで注目の的になっていた。ほんと、容姿の差って残酷だ。


 一年の一学期の中間テスト、私は八位に入っていた。


 小学生の時は順位が付けられることはなかったけど、テストの点数は良かったし、勉強はできる方であったのだろう。


 十位以内は貼り出しがあり、そこに名前が載るのには特別感があった。


 でも、クラスで私が話題になることはなかった。それより上の順位、それも一位の座に、麗しの姫である姫川さんが二位を大きく突き放す点数でいたのだから。


 姫川さんの周りには、いつも誰かがいる。私は大抵一人きりだ。天は二物どころかいくつもの才能を彼女に与えたようだった。


 勉強くらい私が勝ったっていいのに。でも、(モブ)(ヒロイン)に勝てないよね。そんな風に思っていたときに受けた、一学期の期末テスト。


 一位 姫川悠子

 二位 本陣優(ほんじんすぐる)


 九位 美並菜水


 知らない名前。別のクラスであることはもちろん、前回十位以内に入っていた生徒でもない。

 そう、前回は十位圏外だったのだ。十一位であるかもしれないし、三十位であるかもしれないのだ。それが二位にまで上がっている。それも、一位である姫川さんと数点差という僅差だった。私よりも下の順位だったのに、あわや勝つところまでいったことに衝撃を覚える。


 本陣くん。彼に触発されて、とある欲が私に芽生えてしまった。


 (モブ)でも姫川さん(ヒロイン)に勝てるの? 勝っても、いいの?


 そこから私は、前以上に勉強に力を入れて日々を過ごした。


 そして、二学期の中間テストにて。


 一位 美並菜水

 二位 本陣優

 三位 姫川悠子


 勝った。私が姫川さんに。モブがヒロインに勝てた。


 私だけでなく、本陣くんも姫川さんに勝っている。顔は知ったけど、話したことはない本陣くん。勝手に仲間意識を持っていた私は、二人とも姫川さんに勝ったことを嬉しく思った。


 しばらく貼り出された紙を見て余韻に浸っていると、近くに姫川さんがいることに気が付いた。見始めた時はいなかったのに、それだけ勝利を噛み締めて長くいてしまったのかもしれない。悪いことをしたわけではないけど、何となく気まずいのでその場を離れようとした時、姫川さんもこちらに気が付いた。目が合ってしまう。


「美並さん、随分と順位を上げてきたんだね。負けちゃった。次は負けないからね」


 姫川さんは笑顔でそう言うと、軽く手を振って行ってしまった。それに一緒に見に来ていた女子生徒たちが続いていく。

 姫川さんは何とも爽やかな感じだった。負けたことにショックなんて全く受けていないような。


 そうだよね。勉強で負けたところで、勉強以外全部勝っているようなものだもんね。


 どちらかといえば、一緒にいた女子生徒たちがショックを受けていたようで、私に面白くない顔で一瞥をくれていたように思えた。


 思ったことは確かだったようで、その後、クラスの数名の女子たちが余所余所しくなった。元々仲良しだったわけではないから、尚のことと付けた方がいいかもしれない。

 お姫様が私みたいな何処にでもいそうな女子に負けたのが許せないのだろうか。私は努力して、その結果、勝っただけなのに。

 

 二学期末テスト。


 一位 姫川悠子

 二位 本陣優

 三位 美並菜水


 中間テストの結果に浮かれはしたけど、決して油断したわけではなかった。姫川さんや余所余所しくなった女子たちに遠慮したわけでも、もちろんない。今回も同様に一位を狙って、その分の勉強もしたつもりだ。でも、姫川さんと本陣くん、二人に負けることになってしまった。勉強量の差か、元々の実力なのか分からないけど、このままにはしない。次は負けない。


 学年末テスト


 一位 姫川悠子

 二位 本陣優

 三位 美並菜水


 二学期末テストと同じ結果。


 ただ、あのときは数点の僅差で三人並んでいたのだけど、今回は姫川さんが本陣くんに二十点ほど、私とは三十点ほど差をつけている。高得点ではあるものの、他と比べると低めな教科のせいだろうか。いや、それだけではない。単純に、姫川さんの点数が高い。

 二学期中間テストの順位貼り出しの際、そんな素振りは全く見せなかったが、実は悔しかったのではないか。そして、前回大差をつけるつもりができなくて、引き離しにきたのではないか。そんなことを思った。答えは分からないけど、そうだとしたら、この姫は大層な負けず嫌いだ。


 でも、それは私も同じだ。特に、一つくらい、勉強くらい私が勝ってもいいじゃないか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ