その後 姫川悠子 文化祭(いちかの版)
姫川が続投する作品(これより下、続編)での二人のゲスト出演回
話を順番通りに作っておらず、続編では相当先のお話のため、いつ公開できるか分からず、私に何かあるかもしれないので、先行して公開します。
続編は姫川の高校が舞台です。
これは、姫川の高校の文化祭に二人が訪れたお話です。
続編のこの話に至るまでの経緯が読者様には不明のため、知らない部分をカットするなど『いちかの』用に改訂しています。
文化祭の出し物。私は休憩中にそれを外側から眺めている。
うん。うまくいってよかった。
「姫川、さん?」
後ろから不意に名前を呼ばれたので振り向くと、そこには見知った顔が二つ並んでいた。
「美並さん、それに、本陣くん」
二人は中学のころの同学年だ。同じクラスになったことはなく、そんなに親しかったわけではないけど、定期テストとなれば、ほぼ不動で私たち三人が一位から三位を占めていた。
美並さんと本陣くんはいつのころからか一緒に勉強していたようで、付き合っている噂もあった。あくまでも噂で付き合ってはいないようだったけど、お似合いだなとは思っていた。
でも、今日二人で来るようならもしかしたら。
本陣くんは相変わらずとしても美並さんはよりかわいくなったし、それに、二人の距離感が大分近い気がする。
「何だか二人いい感じだけど、そういうこと?」
「あっ、それは、その」
美並さんが顔を赤らめてしどろもどろに話し出す。もう反応が答えを出しているな。
「どういうことだ?」
本陣くんは何を言っているのか分からないようだ。天然、いや鈍感なのだろうか。
「う、うん。お付き合いしています」
そんな本陣くんを横目に、美並さんがかわいらしく丁寧に答えてくれた。
お似合いだと思っていたこともあって嬉しいな。
「いつから? 高校入って割とすぐかな?」
二人は、私の地元地域の屈指の進学校に通っている。二人なら、十分そこでもやっていけているのだろう。今日文化祭に来ているくらいだし、表情にストレスも感じない。
「あ、えっと、それは卒業式の日で」
意表を突かれた。
当然、中学の卒業式の日だろう。その日は、本陣くんが私に感謝を述べていった日だ。私が成績上位にいたから自分も頑張れたと。その裏でそんなことになっていたとは全然知らなかった。
思わず、私は興味津々になる。
「どっちから? どっちから告白したの?」
にやけた顔で、目を輝かせて聞いてみた。美並さんが若干引いているような気もするけど、押し切ろう。
「それは優からで」
名前呼びで呼び捨て! うう。いいなぁ。憧れる。
「どっちからだっていいだろう。ほんと、女子はそういうの気にするよな」
「よくない!」
本陣くんの無神経な発言に、私と美並さんが同時で言う。その同調がおかしく、私たちは二人で笑い合った。
「告白はともかく、好きになったのは菜水の方が先だぞ」
その話、詳しく。
「優が自分の気持ちに気付いていなかっただけでしょう?」
「気付いていなかった期間を入れたら、やはり菜水の方が先だと思うが」
「はぁ?」
いけない。詳しく話を聞きたいけど、どうも話を聞くどころではなく、むしろ喧嘩が始まってしまいそうだ。ここは、話題を変えよう。
「ウチの文化祭はどう? 楽しんでる?」
「うん、もちろー」
美並さんの言葉が遮られる。
「まぁまぁだな。俺は別に来たくなかったんだが」
本陣くんがそんなことを言ったからだ。
「ちょっ、姫川さんの前で何てこと言うの!」
空気を読まず、素直に言いたいことは言う。話には聞いていたし、卒業式での私への謝辞もそれが表れていた。
美並さんは恋のせいか、かわいくなったけど、本陣くんは何も変わっていないんだなぁ。
「来たくなかったってだけで、楽しさはまぁまぁだって言っているじゃないか」
「まぁまぁも十分失礼だよ! もう、そんなこと言うなら来なきゃよかったじゃない」
「菜水が行きたいって言ったんだろ」
「私は優がそんなこと言うなら、友達と来たよ」
まずい。話題を変えた先でも不穏な空気になってきた。どうしよう?
「そうしたら、俺は今日一日菜水と会えないだろ」
「ぐっ」
お。
美並さんがまた顔を赤らめて、軽くうつむいた。かわいい。
意外とこういう喧嘩みたいなやり取りをしては、本陣くんのこんな言葉で美並さんがやられて終わるんだろうな。羨ましい。
「はいはい。惚気を目の前で見せられている、私の気持ちになってもらってもいいですか」
「別にそんなつもりでは」
表情を変えずに冷静に返す本陣くん。
「ごめんなさい」
軽くうつむいたまま、まぶたを閉じてそう言う美並さん。
「そうだ。折角姫川に会ったんだ。聞いておきたいことがあるんだが、どうしてこの学校を選んだんだ? 姫川の学力なら、俺たちの学校も余裕だったはずだ。遠方で、偏差値もそんなに高くないこの高校を、何でだ?」
「ちょっと優、言い方」
中学でも、先生や仲の良かった生徒に散々言われてきたことだ。かつて女子校だったここの校風に憧れて、なんて言っていただろうか。その理由もなくはないけど、そんなに割合を占めているわけじゃない。
もう違う学校のこの二人になら、言っても構わないだろうか。
「私の好きな人が、この学校にいるってのはどうかな?」
さすがに少し濁した。その理由はどうでしょうかと本心ではなさそうな言い方と、好きな人が一年生から三年生まで範囲の広い中にいるような言い方で。
「そうなのか? 姫川がそんな情熱的な恋をしているとは知らなかったな」
隣で私の言葉に驚いている感じの美並さんを余所に、本陣くんは動じずに返してくる。
「お気に召さないかな?」
「いや、いいんじゃないか。どんな理由でも、否定する気はないさ」
意外だった。本陣くんは『それで高校を選んだのは愚か過ぎる』なんて言うかとも思っていたのだけど。いや、本陣くんも恋をして美並さんと付き合っているのだから、その気持ちも分かるのかもしれない。
「そりゃあ、否定できないよね。中学のころ、一位を取ったら姫川さんに告白しようなんてしていた人は」
美並さんが口を挟む。恋人である本陣くんが他の女子である私と、自分を介さずに話していることが少し気に触ったのかもしれない。
というか。
ええ?
「ここで言うか、それを。悪いな、姫川。気にしないでくれ。好きと言っても、勘違いの恋ってやつだ」
そ、そうですか。確かに、ほとんど話をしたこともないわけだし。
でも、高校では私のことを大して知らずして告白してくる男子がいるから、おかしい話ではないのかもしれない。本陣くんもそんな男子と同様だったのは意外だけど、中学在学中にそういうのは卒業して、ちゃんと好きになった美並さんと付き合っているのだから、目が覚めるのは早かったのではないだろうか。
「そ、そうなんだ」
他に何て言ったらいいのか分からないので、それだけ言っておく。
それにしても。
「ところで、美並さんが知っているということは、本陣くんが教えたの?」
「そうだが」
素直過ぎるなぁ。言わなくてもいいと思うけど。本陣くんではなく美並さんのために。
美並さんは今のこの会話をどう思っているのだろう?
美並さんに目を移すと、楽しそうに微笑んでいた。少しだけ意地悪をしたかったのかな? 楽しそうで何より。
「姫ちゃーん、悪いんだけど、そろそろいい?」
クラスメートの一人が遠くから私を呼ぶ。
休憩時間を少し過ぎている。話し過ぎてしまったようだ。
「ごめーん。今行くー」
大声で彼女に応える。
彼女は、大きく手を挙げて『分かった』と言うような合図をする。
「ごめん、二人とも。私、そろそろ行かないと」
「うん。長く引き留めてごめんね。行ってあげて」
美並さんは、最後までかわいいし優しい。
「じゃあ、またね。今日はもっと楽しんでいって。会えて、話せてよかった」
そう言って、私は二人に手を振った。
美並さんは手を振り返してくれて、本陣くんは手を軽く挙げた。
並んだ二人を見て、いいなぁと思った。
二人に背を向けて、クラスのみんなのところに戻る。
私も、頑張らないとね。




