終章 姫川悠子 卒業
卒業式。
続々と卒業生たちが帰路につく中、同じ卒業生の私もまた、友人数名と学校のアプローチ(昇降口から校門までの間)を歩いていた。
「姫と離れるなんて、寂しいよぉ」
友人の一人が言う。
姫とは私のこと。姫川悠子の姫からきているのだと思う。大抵の友人がそう呼んでいた。
「うん」
「そうだね」
最初の一人を皮切りにしたように、皆が続けて何かを言っていく。少し泣いている子もいる。
「やだよぉ」
「そんなこと言わないで。会おうと思ったらいつでも会えるじゃない」
その言葉にパァっと笑顔になる子もいれば、更にワッと泣き出す子もいた。
会おうと思ったら、か。
嘘ではなかった。でも、お互いに強い気持ちがなければ、難しいだろうなとは思っていた。
私は地元を離れて、この中の誰も行かない遠方の学校に行くのだから。
よく言うな、私。
少し自己嫌悪に陥りそうな時、私たちの方に向かってくる男子生徒の姿があった。
本陣、くん? え? ここに?
もしかしら違うところに向かっているのかとも思ったけど、本陣くんは私たちの前で止まった。
「よかった。姫川、まだ帰っていなかったんだな」
しかも、目的の相手は私のようだ。
本陣優くん。私と共にテストで上位三名によく入っていた男子。
あいさつ程度と、少し話したことしかなかったと思うけど、どうしたのだろう?
「ちょっと、伝えたいことがあってな」
真剣な表情で、本陣くんが言う。
周りの子たちも圧倒されているのか、何も言ったりはしない。固唾を呑んで見守っている。
一体、何だろう?
「姫川、テストではいつも上位にいてくれてありがとう。姫川のおかげで俺も頑張れたし、競うことができて楽しかった」
え?
本陣くん、も。
競うことができて楽しかったのは私も同じだった。
『姫には敵わないよ』
そんなことを言って、本気で向かってきているか分からない人たちもいる中で、本陣くんや美並さんとは本気の勝負ができていた気がするから。
「う、うん。私の方こそ、楽しかった。ありがとう」
自然と笑顔になって、私も感謝を伝えた。
本陣くんは、軽く頷いただろうかというくらい、僅かに首を動かした。
「それだけだ。時間を取らせて悪かったな」
そう言うと、本陣くんはすぐに背を向けて歩いていった。
そして、やがて駆け出した。急いで行こうとしている場所があるのだろうか。
呆然としていた周りの子たちだったけど、徐々にその様は解けていく。
「え? 何? 今の」
「キモ」
さすがに人の真剣な言葉にそれはないと思って、反応する。
「失礼だよ」
私に言われた子が顔色を変える。
そこまで強く言ったつもりはなかったけど、そう感じたのだろうか。
「ご、ごめん。姫」
すぐに謝ってくる。
私に謝ることではないと思うけど。
気を取り直そう。
「行こっか」
明るくみんなにそう言って、私たちは再び歩き出した。
中学生活もこれで終わり。
いいこともあれば、悪いこともあったなぁ。最悪な事は思い出したくもないけど、決して忘れてはいけない。
一人の人を想い浮かべる。高校が一緒のあの人のことを。
ごめんなさい。でも、もう少しだけ、あなたの近くにいさせてください。




