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「一生の不覚だわ」
ベルナデットは自室のベッドの上で組んだ手を口に当て、深刻な顔をしていた。
例のギャン泣き事件は屋敷内にまたもや衝撃を与えた。
あの剣術の稽古が大好きで、オングルを倒すような規格外のお嬢様のまさかの弱点。
彼女の十分の一程度の大きさしかなく、歩くこともままならないような可愛らしい子犬を怖がって近づくこともできない。
「良くない……このままじゃ良くないわ」
良かれと思って連れて帰ったランベールも娘の予想外の反応に落ち込んでいたし、一度貰ってきたんだからとジェレミーとリディの希望によって彼は結局ディアマン家の一員となった。
名前はジェレミーがマカロンと名付けた。
「なんとかして克服しないと……!」
とはいえ、トラウマなのだから簡単にどうにかなるものではない。
ベルナデットはしばらくベッドの上で唸っていたが、もともと考えるのが苦手な彼女は何も良い案が浮かばず考えるのを止めた。
ちょうどそのタイミングで部屋の外からアランの声がかかった。
「お嬢様、剣術の稽古のお時間ですよ」
「あら、もうそんな時間? すぐ行くわ」
アランに抱き着いて情けない姿をさらしたことも後悔していた。
あの後しばらくの間ベルナデットは気まずくて軽く挙動不審になってしまったが、アランもアランで挙動不審だった。
具体的にはベルナデットと話をしているというのに全く目が合わなかったり、不自然に距離を取ろうとしたりしていた。
そして何故かそれ以来、剣術の稽古をこれまで以上に真剣に取り組むようになった。
(きっとこんな情けない奴より弱いことが許せないのね)
ベルナデットは見当違いな結論を出し、やはり早いうちに克服しないと、と決意しながら剣術の稽古に向かった。
「先生、私はやってやりますわ!」
「おやおや、お嬢様は今日もやる気に満ちて結構なことでございますね」
「うふふ。私、今新たな目標を見つけて燃えていますの!」
「それはそれは。その目標というのをお聞きしても?」
「ええ! 私、マカロンに勝ちたいの!」
ベルナデットが胸を張ってそう宣言すると、その場には微妙な空気が流れた。
「勝つって……ベル、マカロンを傷つけるようなら怒るぞ」
ジェレミーがジトっとした目でベルナデットを見ながら釘をさすと、ベルナデットは心外だと言わんばかりに頬を膨らませた。
「まあお兄様! そんなことするわけないじゃない!」
「じゃあどうやって勝つのさ?」
「そんなの決まってますわ! マカロンに『おすわり』をさせるのです!」
「…………は?」
「それだけじゃないわ! 『お手』も『おかわり』も『とってこい』もさせて、最終的には無防備にひっくり返しておなかを撫でまわしてやりますわ!!」
拳を突き上げて鼻息荒くどこまでも平和な目標を宣言するベルナデットに、ジェレミーとアランはほっとしつつも先日のギャン泣きを間近で見ているだけにその目標が達成できるとは思えなかった。
事件当時その場にいなかったマティアスだけがにこにことベルナデットの宣言を微笑ましく応援している。
「苦手なことにチャレンジするのは良いことです。では今日は精神面を鍛える訓練にいたしましょうか」
「よろしくお願いしますわ!」
「「いや、無理だろ」」
思わず少年2人は声を揃えて呟いてしまったが、幸いにもその声はベルナデットの耳には届かなかった。




