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◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 犬に追いかけられてシャルルに謝罪されてからは、特に何事もなく平和な日常が続いた。

 その後にあったエリックとの手合わせの時に、彼がどこか落ち込んだ様子でチラチラとアランの方を見ていたのが少し気になったが、変わったことといえばそれくらいのものだ。


 そして今日は星祭り当日。


 ベルナデットがリディと共にエントランスホールに入ると、すぐにリディの相手がやって来た。

 一頻りリディのことを褒め称えた後、ベルナデットの存在に気づいた彼が慌てて謝罪した。本当にリディしか見えてなかったのだろうその様子に、ベルナデットは微笑ましく思った。


 アランはどこかしらと辺りを見渡すが、それらしき姿は見えない。

 アランがベルナデットを待たせるとは思えないので首を傾げると、リディがベルナデットを促して歩き出した。

 不思議に思いながらついて行くと、女の子たちが固まっていて先程の場所からは見えなかったところにアランの姿があり、その横にはローズとシリルの姿があった。


(なんだか、アランがアランじゃないみたいだわ)


 舞踏会ということで着飾ったアランを見て、ベルナデットはドキドキしながらそんなことを思った。心なしか顔が熱い。

 まだ少し距離がある場所で足を止めたベルナデットにリディも足を止めてその顔を見、驚いた顔をした。


「ちょ、ちょっと待って、リディ、心の準備が……」

「何言ってるんですかお嬢様、相手はアランですよ?」

「や、そうなんだけど、そうなんだけど! なんか、いつもと違う恰好だからまるで違う人みたいで……」


 自分で言った言葉に、いつしかエマが言った言葉が重なる。


『いつもと違う姿にときめいたり』


(や、まぁアランってあんなに恰好良かったかしらとは思ってしまったけれど、別にきっとアランだからっていう訳でもないかもしれないし!)


『ふとした瞬間にドキッとしたり』


(一生一緒にいる宣言とかペルル先輩の犬から守ってもらった時は確かにちょっとドキッとしたけど!)


『一緒にいるのが当たり前過ぎていないと寂しくなったりないですか??』


(いやいやいやけどそれはリディだってそうだし!?)


「お嬢様?」

「ひゃい!?」


 ベルナデットがひとり百面相しながら考え込んでいる間に、いつの間にか目の前にアランが立っていた。


「あ、あら? リディは?」

「リディなら僕を呼びに来てからそのまま会場へ行きましたよ。それよりお嬢様、少し顔が赤いようですが、具合が悪かったりしますか?」

「え!? いえ、そんなことないわよ!? ただちょっと、そう! 暑くて!」

「そうですか? 体調が悪かったらちゃんと言ってくださいね?」

「ええ、わかったわ!」


 元気よく返事をするベルナデットに少し不審に思ったがまあいつものことかとアランはとりあえず納得してくれたようだ。

 せっかく誤魔化せたのでベルナデットはこれ以上不審に思われる前に会場へ入ってしまおうと思ったのだが、アランがジッとベルナデットを見たまま固まっている。

 やっぱり誤魔化しきれなかったのかしらと思ったが、ベルナデットが首を傾げると少し困った顔で何かを考えた後、緊張した様子でベルナデットの目を見て口を開いた。


「お嬢様、とてもお綺麗です。そんなお嬢様の隣に立つ者として選んでいただき光栄に思います」


 不意打ちでそんなことを言われ、ベルナデットは真っ赤になった。

 着飾った女性を褒めるのはマナーであるし、先程リディもこれでもかという程美辞麗句を並べ立てられていたのを横で普通の事として見ていた筈なのだが、いざ自分が言われる立場になると物凄く恥ずかしい。

 当のアランは「すみません、こういうのは苦手で……」と少し赤い顔で申し訳なさそうにしているが、ベルナデットにとっては十分すぎるほどの破壊力だった。

 寧ろこれ以上になると卒倒してしまっていたかもしれないと思い、ベルナデットは逆にアランが不慣れであったことに感謝した。


「では行きましょうか」


 差し出された手を取って、隣に並んで歩く。まだドキドキと心臓はうるさいが、同時にいつも傍にある存在に安心感も覚え、なんだか幸せな気分になった。


 会場に入ると魔法で星空を模した天井の下、それぞれが思い思いに過ごしていた。

 王族も平民も入り混じった会場は、これまでレティシアと訪れたパーティとは違い皆自由にダンスを楽しんでいる。

 会場の中程まで来たところでかかっていた曲が終わり、次の曲が始まった。

 アランがベルナデットの正面に周り、恭しく手を差し出す。


「一曲踊っていただけますか?」


 その姿にせっかく落ち着いていた顔の熱が再び上がって、ベルナデットはそれを誤魔化すように俯いてその手を取った。


「そんなのいつの間に覚えたの?」

「そりゃあ僕はお嬢様の侍従ですから」

「侍従にそのスキルは要らないでしょう?」

「備えあれば患いなし、ですよ。実際今役に立ったでしょう?」


 そんな会話を交わしながら、ゆっくりとステップを踏む。



「お嬢様、今日は舞踏会と言っても、平民の方も参加している自由なパーティですし、相手は僕です。ちょっとくらい自由に踊っても大丈夫だと思いますよ?」


 暫く踊っていると、アランがそんなことを言い出したのでベルナデットは驚いた。

 言われた内容に、ではなく、いつもつまらないと思っていた形式通りのダンスが楽しく、アレンジしようなんて考えが全く浮かばなかった自分にだ。

 それどころかこのままずっと踊っていたいなんて思っていたことに気づき、ベルナデットは大いに動揺した。


「お嬢様? やっぱりお体の具合が悪いんじゃ……」


 いつもと明らかに様子が違うベルナデットを心配してアランがその顔を覗き込みながら尋ねた。

 至近距離で見つめられ更に動揺し、「えっと」「あの」と意味のない言葉を繰り返していると、アランは「少し休憩しましょう」と言って給仕から2人分のグラスを受け取るとベルナデットをバルコニーへと誘導した。

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