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不思議な犬に会った翌日、ベルナデットは何故かシャルルとその友人から謝罪を受けていた。
「怖い思いをさせてしまい、本当に申し訳なかった」
「巻き込んでしまってごめんね」
頭を下げる2人にベルナデットは慌てて顔を上げるように促した。
「えっと……つまりあの犬はペルル先輩の飼い犬ってことですか?」
「うーん、まあちょっと違うんだけど似たようなものかな?」
「成程」
二コラ・ペルルという名の彼は留学生らしい。彼の祖国であるガルデニア王国はオルタンシア王国の隣国で、辺境伯であるディアマン家の領地のお隣さんだったりする。
「あの、質問してもいいですか?」
「ああ」
「何故私が昨日彼に追いかけられたことを知っているのでしょう?」
確かにベルナデットは昨日長い時間彼に付きまとわれていた。
しかし彼が現れた時は周りに人気はなく、校舎の屋根に上るまでも人の姿は無かった筈だ。
(まさかペルル先輩は犬と話すことが出来たりするのかしら!? そうだとしたら是非私にもやり方を教えて欲しいわ! そうしたらきっとマカロンのことも怖くなくなるもの!)
そんなことを考えていたベルナデットだったが、目の前の2人は渋い顔だ。顔を見合わせた後、シャルルが口を開いた。
「国家機密に関わってくるからあまり詳しい事は話せないんだけど、ちょっと今僕らの周りが騒がしくてね。ベルナデット嬢が何度か偶然僕らを助けてくれたから、相手方から『邪魔だ』と判断されてしまったらしくて」
「?????」
シャルルが説明してくれているのだが、ベルナデットは彼が何の話をしているのかさっぱり分からない。
困ってアランを見ると、彼は不機嫌そうに眉間に皺を寄せていた。
「カロリーヌ殿下を助けたから、国家間のいざこざにお嬢様が巻き込まれた、と?」
アランの問いかけに、シャルルは申し訳なさそうに頷いたのでベルナデットは驚いた。
「え!? 私が犬を苦手としていることって、国を超えて広まっているの!?」
「お嬢様、問題はそこではないです」
「何を言っているのアラン! 大問題よ!!」
そんなに自分の弱点が広まってしまっているなんて、一刻も早く克服しなければならないとベルナデットは決意を新たにした。
そんなベルナデットの様子に毒気を抜かれて、アランがひとつ息を吐くとピリピリした空気は霧散した。
「失礼な態度をとってしまい申し訳ありませんでした」
「いいよ。学園では皆平等だ。カロリーヌもいつも言っているでしょ? それに君の怒りも最もだ。恋人が危険な目にあったらそりゃあ冷静でいられないよね。今回の件に関してはきちんと解決したから安心して?」
「え?」
「え?」
「え?」
シャルルの発言に、ベルナデットもアランも固まった。
その反応にシャルルも首を傾げている。
「え? カロリーヌ、いつも言ってるよね?」
「あ、え、ええ、はい。いえ、そこではなく」
「あ、事件の方? 教えてあげたいのは山々なんだけどちょっとこれ以上は難しくて」
「ええと、その、そこでもなく……」
混乱しているアランに対して、ベルナデットは最近似たようなことを言われたことを思い出した。
「もしかして、カロリーヌから何か聞きましたか? それとも噂の方でしょうか?」
「うん? 何が?」
「私とアランは恋人ではありませんよ」
ベルナデットがそう言うと、シャルルは驚いた顔をした。
アランはどこか複雑そうな顔をしているが、ベルナデットとしてはこの反応も慣れたものだ。
「そんなに恋人同士に見えますかね?」
「まあいつも一緒だし、主人と使用人にしては距離も近いしね」
「私とアランは幼なじみでもあるので!」
「ふうん?」
嬉しそうにそう言うベルナデットに対し、シャルルは相槌をうちながらちらりとアランを見る。それに対しアランは居心地が悪そうに身じろいだ。
「じゃあ今度の星祭り、ベルナデット嬢は誰と行くの?」
「う゛……ま、まだ未定です」
「彼じゃないんだ?」
シャルルの言葉に、ベルナデットはポカンと口を開けた。
「その発想は無かったですわ」
「あー、これ僕余計な事言っちゃったかな?」
シャルルがどこか遠くを向いて誰かに謝っているが、ベルナデットはそんなことはどうでもよかった。
期待を込めた目で見つめるベルナデットに、アランが動揺する。
「けれど僕は使用人ですし……」
「学園では全ての生徒が平等よ。アラン、私、今とっても困っているの」
ベルナデットに見つめられ、アランは真っ赤になって視線をうろうろと彷徨わせていたが、やがて覚悟を決めてベルナデットの目をしっかりと見つめ返した。
「お嬢様、僕に貴女のエスコートをさせていただけないでしょうか」
アランの問いかけに、ベルナデットは本当に嬉しそうに微笑んだ。
「ええ、喜んで」




