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ベルナデットは星祭りに参加する


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 テストも無事赤点回避に成功し、あと1ヶ月もしない内に冬期休暇がやってくる。

 冬期休暇の前には『星祭り』という新年を祝う舞踏会があるらしいが、ベルナデットは浮かれる女子生徒たちと違い星祭りをそれほど楽しみにはしていなかった。

 というのも、ベルナデットはダンスというものがあまり好きではないからだ。正確にはダンスは好きだが、舞踏会で踊るダンスが好きではない。


 淑女の嗜みとしてダンスを教わり、いざレティシアに連れられて領内の小さなパーティに参加した際、最初のダンスはノリノリで自由に踊るベルナデットに相手がついていけず目を回してしまいレティシアに叱られ、2度目のダンスは相手が目を回さないように自分だけがノリノリで踊り相手を困らせレティシアに叱られ、3度目のダンスは控えめにしたもののアレンジしすぎて優雅じゃないとレティシアに叱られた。

 4度目からは習った通りのダンスをきちんと踊ったが、相手は毎回違うものの何度も何度も(ベルナデットにとって)大人しすぎる同じダンスを踊るのは窮屈で、アレンジをしたい衝動を抑えるのが大変だった。


 そんなわけで、ベルナデットは初めての行事が楽しみではあるのだが、優雅なダンスを踊らなければならない為どちらかというと憂鬱だった。

 あと単純にドレスが動きにくくて好きではない。


「舞踏会でなくて武道会だったら良かったのに」

「そんな風に思っている女子生徒はたぶんお嬢様だけですよ」

「そんなことないわよ。きっとお姉様も同意してくれるわ」

「フェリシテ様はジェレミー様と踊るのもお好きだと思いますよ」

「確かにそれはそうね」


 ため息をつくベルナデットに、アランがどこかそわそわした様子で尋ねた。


「お嬢様、エスコートのお相手は決まりましたか?」

「…………全く考えていなかったわ!」

「お嬢様……」


 尋ねられた内容にベルナデットは暫くきょとんとしたまま固まり、ハッと今気が付いたというように叫ぶとアランに残念なものを見るような目で見られた。


「そういえばそうよね! いつもはお兄様がエスコートしてくれていたからすっかり忘れていたけれど、星祭りにはお兄様がいないわ! というか、今後パーティではお兄様はお姉様のエスコートをするわよね? ……次回からそれを理由にパーティを断ろうかしら」

「お嬢様、思考が逸れています」

「はっ!」


 アランの指摘で星祭りのエスコートをどうするかの話をしていたことを思い出したベルナデットは、自分の周りにいる相手を思い浮かべる。

 ローズは好きだと言ってくれているが女性である。シャルルは論外。クラス仲は良いのでクラスの男子生徒は皆そこそこ仲が良い。エリックは頼めばやってくれるかもしれないが。


「そもそもこちらから誘うのは良くないのよね」


 禁止というわけではないが、こういった場合男性から女性を誘うのがマナーだ。何故そんなマナーがあるのかとベルナデットは理不尽に思った。


「そういえばリディはどうするのかしら? あ、もしかしてアランがエスコートするの?」

「しませんよ。そもそも僕が誘ったらアイツは絶対断るでしょう?」

「そんなこと……ないかもしれないじゃない?」

「別に僕も誘いたいわけではないので無理にフォローしなくていいですよ」


 アランのため息交じりの言葉にベルナデットは笑って誤魔化した。ベルナデットにもリディがアランの誘いをバッサリと断る姿しか想像できなかったからだ。


「心配しなくてもリディは結構人気があるみたいだから大丈夫ですよ」

「まあ! そうなの?」

「まあ『踏まれたい』とか『蔑まれたい』とかいう変態も一定数いるみたいですが」

「まあ……そうなの……」


 ベルナデットもそういう性癖の人がいるのは知っているし、リディには悪いが確かに美人ではっきりした性格の彼女はそういう人たちから人気がありそうだと納得してしまった。


「じゃあリディの相手の心配は要らなそうね。それより自分のことが問題だわ」


 唸るベルナデットに、アランが言おうか言うまいかそわそわ視線を彷徨わせて迷っていると、アランが口を開くより先にぱっとベルナデットが顔を上げた。


「そうだわ! 誘うのははしたないって言われるけれど、誘ってもらえるように誘導するのはきっとセーフよね? 次のエリックお兄様との手合わせの時にさり気なく相手がいなくて困っているとアピールするのはどうかしら? 優しいエリックお兄様ならきっと誘ってくれると思わない?」


 名案だと言わんばかりの笑顔で問いかけてくるベルナデットに、アランは返事をすることが出来なかった。

 ベルナデットの言う通りエリックはベルナデットが困っていると言ったなら誘ってくれるだろう。そもそもそんなこと言わなくても次回顔を合わせた際にはエリックから誘ってくるのではないかとアランは思っている。

 ベルナデットは別にエリックが好きだからエスコートして欲しいわけではなく、エスコートしてくれそうな相手としてエリックを選んだだけだ。だからもしアランがここでベルナデットを誘ったとしたらきっと喜んで頷いてくれるだろう。

 しかしそれはベルナデットの為にならないのではないか。でもベルナデットが他の男にエスコートされているところなど見たくはない。

 アランがそんなことを考えているとは思わないベルナデットは、その反応に「やっぱり駄目かしら」と再び唸り始めた。


 2人して道の真ん中で悩んでいる時だった。背後から突然鳴き声が聞こえた。

 今は放課後。いつも通る教室から訓練場に向かう道の途中。

 聞こえる筈のない声がはっきりと聞こえ、ベルナデットは蒼褪めながら振り返った。


「何でこんなところに……?」


 同じく振り返ったアランが怪訝な顔で呟く。

 そこにいたのはベルナデットの天敵。しかもマカロンより一回りは大きく、何故かこちらを牙をむき出して威嚇している。

 今にも襲い掛かってきそうなその様子にベルナデットはパニックを起こしそうになったが、その時ふわりと体が宙に浮いた。アランがベルナデットを抱き上げたのだ。


「大丈夫ですから、お嬢様、しっかり捕まっていてくださいね」


 耳元で優しい声音で囁かれ、安心すると同時にドキドキと胸が高鳴り、とりあえず言われた通りにアランの首に手を回しギュッとしがみついた。

 それにアランが一瞬びくりとしたが、直後に聞こえた吠える声とこちらに近づいてくる足音にベルナデットを抱える腕に力を込めて走り出した。

 逃げればいつまでも追ってくるだろうと思ったアランは手っ取り早く振り切ってしまおうと、身体強化を使い近くの木に飛び乗った。そのまま今度は渡り廊下の屋根を経由して、更に高い校舎の屋根へ。

 彼が何に怒っていたのかは分からないが、こちらは何もしていないし、手の届かない場所に逃げられれば流石に諦めるだろう。ベルナデットもアランもそう思ったのだが――



「まだこっちを見ていますね」

「私、彼に何かしてしまったのかしら……」

「いや、そもそもお嬢様が犬に何かするとか不可能でしょう」

「彼らを怖がっているのが気に入らない……とか?」


 2人の視線の先には、ぐるぐると登れる場所を探しながら時折降りてこいと言うように吠える犬の姿。

 離れた場所から降りようと移動しても追いかけて来て、かれこれ1時間は経っている。


「危害を加えるのは気が引けますし、どうしましょう」

「そもそも彼はどうしてこんなところにいるのかしら?」

「毛並みも綺麗ですし、誰かの飼い犬ですかね?」

「けれど首輪が無いわ」

「外して脱走したとか?」

「なら飼い主に引き取ってもらうのが一番ね」


 そんな話をしていた時だった。2人の視線の先にいた犬が突然姿を消した。

 驚いて2人で顔を見合わせたが、消えたように見えただけで近くに隠れているのかもしれないととりあえずアランが降りて周りを探してみたが、結局その犬を見つけることは出来なかった。

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