従者たちの報告会6
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side:アランとリディ
「で、誰なんですか?」
「突然なんだよ?」
「噂の『お嬢様』ですよ」
「噂?」
待ち合わせ場所に着くと珍しく時間通りにやってきたリディに開口一番そう聞かれ、何のことか分からなかったアランは怪訝な顔をした。
なのでリディが先程エマに聞いた空き教室での勉強会の噂の話をすると、アランは「あー……」とバツが悪そうに視線を逸らした。
「ちょっと? まさか本当にどこぞのご令嬢と密会してるわけ?」
「人聞きの悪い言い方は止めろ! ……空き教室で勉強会をしているのは本当だよ」
「このヘタレ浮気男が」
「だから僕はお嬢様一筋だ!!」
「だからそれはお嬢様に言いなさいよ」
「言えるわけないだろ!?」
いつも通りのアランとのやり取りにリディはため息をついた。
「それで? 何でどこぞのご令嬢とコソコソ勉強会なんてしてるわけ?」
「あー誰だよ噂なんて流した奴。しかも相手の方じゃなくて僕の方名指しとか、誰が興味あるんだよ……」
「はいはいそういうのは良いから」
「…………お嬢様には内緒にしてくれるか?」
「内容によるわね」
「そこは嘘でも『うん』って言えよ……はぁ。僕が勉強会をしてる相手はフリュオリンヌ様とシリルだよ」
「フリュオリンヌ様?」
アランの答えにリディが怪訝な顔をした。
「だって彼女は1人で勉強したいからってお嬢様のお誘いを断ったという話ではなかったですか?」
「あーそれなんだけど、本当はお嬢様のお誘いを断ったのは別の理由らしくて……」
「別の理由?」
「……お嬢様には、っていうか誰にも言うなよ? フリュオリンヌ様、お嬢様以上に勉強が出来ないんだ」
「は? お嬢様……以上に?」
「ああ。あれはお嬢様以上だ」
信じられないという顔で問いかけるリディに、アランは神妙な顔で頷いた。
「お嬢様に誘われた時、本当はめちゃくちゃ頷きたかったらしいんだが、すんでのところで自分の成績を思い出してそれを知られたくなくて断ったんだと。で、せめてお嬢様に恥ずかしくないくらいまで成績を上げたいと思ったものの、これまで成績が悪いことを上手いこと隠してきたみたいで誰にも頼れない。シリルもそんなに成績が良くないし、そもそも人に教えることが苦手。それで僕に白羽の矢が立ったんだよ」
「何で貴方に?」
「前回のテストの時にシリルに少し勉強を教えたんだよ。そしたらアイツの成績が上がったとか、教え方が分かりやすかったとかでそれをフリュオリンヌ様に話したらしい」
「あの2人、2年生でしょう?」
「あの2人は教科書の内容すら理解出来てないからな。教科書の解説くらいなら読めば出来る」
「あーそうでしたねーあなたはそうですよねー」
勉強が苦手な人が聞いたらイラっとしそうなことをサラリと言われて、そういえばこの男は頭が良かったんだったなと思い出した。
普段はポンコツヘタレとしか思っていないので、リディの中では『優秀』という認識が全くと言っていい程ないのだが、実際のところは成績優秀でベルナデットと手合わせ出来るほどには強く、人当たりも良く顔も悪くない。そう考えるとモテるというのもあながち妥当なのかもしれないと少しだけアランへの認識を改めた。
(まあだからといって私の好みではないけれど)
リディの好みは歪みなく『ベルナデットのような人』である。と言ってもリディは同性愛者ではないのでベルナデットへ向ける愛情は恋愛ではなく親愛のそれである。その為もし『ベルナデットのような男性』がいたなら恋に落ちるかもしれないが、『ベルナデットのようではあるがベルナデットではないのでベルナデット以上には好きになれない』と言って恋にはならないかもしれない。
リディの世界の中心はどこまでも恋愛<<<ベルナデットだ。
「それで、黙っててくれるのか?」
「あーそうね……あちらさんが可哀想だし、黙っててあげるわ」
リディがため息をつきながらそう言うと、アランはホッとした顔をした。
「それにしても、よく引き受けたわね? 言ったら貴方と彼女はライバルでしょう?」
「いや、まぁそうなんだけど、なんて言うか成績があまりにも不憫で」
「まぁお嬢様以上なんて相当でしょうね」
「あとなんか、あの出来なさ具合がお嬢様を思い出して、ついほっとけなくなってしまったというか……」
それでお嬢様に誤解されるとは考えないのだろうか。
リディはそう思ったが、それを言ったところでアランがローズの事を見捨てるとは思えなかったのでそれを口にはしなかった。
「事情は分かったけれど、皆に噂の真相を本人に聞いてくると言ってしまったから『本当にご令嬢と密会してた』って伝えていいかしら?」
「お願いだから止めてください」




