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ベルナデットは再び友達と勉強会をする


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 季節は流れ吹き抜ける風が少しずつ冷たくなってきた頃。もうすぐ2度目のテストである。

 ベルナデット達は前回のテストの時同様のメンバーで、時間が合う時には一緒にお互いに教え合いながら勉強をしていた。

 ベルナデットはローズにも声をかけてみたのだが、彼女は勉強は1人で集中してやりたいタイプらしく本当に残念そうに断られた。



「うあぁぁぁ……もう何も覚えられないわ……」

「お嬢様、お行儀が悪いですよ」 


 今日はテスト前の最後の週末で、前回と同じようにカロリーヌの部屋に集まってお泊り勉強会だ。メンバーは前回のお泊り会とほぼ同じだが、クロエのみ用事があるらしく不参加である。

 開始30分でやはりベルナデットの集中力が切れ、休憩することになった。お茶の用意をしていたリディが戻ってきて、机に突っ伏すベルナデットに呆れた声をかける。


「けどその気持ちは分かるわ。これ以上勉強したら容量オーバーで最初に覚えたものから忘れてしまいそう」

「そうよね! せっかく覚えたものを忘れない為にもこれ以上無理に詰め込むべきではないわ!」

「人間の脳は通常20%程度しか使われていないそうなので心配しなくても大丈夫ですよ。覚えても覚えなくても忘れる時は忘れます」

「リディは私に厳しすぎないかしら?」

「愛故ですよ」

「そ、そう! ならいいわ!」


 ポンポンと小気味よく交わされる主従の会話を微笑ましく見守っていたカロリーヌだったが、リディの言葉に少し頬を染めて嬉しそうな顔をするベルナデットを見てきゅっと眉間に皺を寄せた。


「ベルナデット……私、貴女が悪い人に騙されてしまわないか心配だわ」

「カロリーヌ? そういえばリディも以前同じこと言っていたわね? 心配しなくても私にだってちゃんと警戒心はあるわ」

「カロリーヌ殿下、大丈夫です。お嬢様には私かアランが常に傍におりますから」

「それなら安心ね」

「カロリーヌ? リディ?」


 リディの言葉にも、それに安心するカロリーヌにも納得がいかずベルナデットは抗議の声を上げたが、それに対してリディは呆れたようにため息をつき、カロリーヌは苦笑しただけだった。


「あの、私ベルナデットにずっと聞きたかったことがあるのだけれど……」


 話が途切れたタイミングで、エマがソワソワした様子でベルナデットに声をかけた。

 エマが『聞きたいこと』と言うと十中八九恋愛事なのだが、いつものように暴走する感じではなく、どこか遠慮がちなのに皆で首を傾げながらベルナデットが先を促した。


「あの、えっと、まず確認したいのだけれど……ベルナデットとアランは恋人同士なのよね?」

「????? 違うわよ?」

「えっ??」


 突然変な事を言い出すエマに何故そんな勘違いをと思いつつ、とりあえず違うのでベルナデットは否定した。

 ベルナデットとしては本当のことを言っただけなのだが、何故か他の面々からも「違うの?」というような視線を向けられて戸惑う。


「じゃあ振ってしまったの?」

「なぜそうなるの???」

「え? だって放課後の教室でアランがベルナデットに熱烈な愛の告白をしたのでしょう?」

「あ! そういえば私もその噂聞いたわ。その後アランがベルナデットをどこかに連れ去って行ったんでしょう?」

「そうなのですか? お嬢様、私何も聞いていないのですが」

「聞いていないも何もそんな事実全くないのだけれど」


 本気で分かっていないベルナデットに、アランがそんな大胆な事が出来る筈がないとよく理解しているリディが怪訝な顔で最初に話を振ったエマを見た。

 エマはと言えばベルナデットの反応が予想外であったらしく、不思議そうな顔をして首を傾げている。


「えぇ? だってあれは絶対そういうことでしょう?」

「えぇ? そんなことあったかしら??」

「ほら! アランが『僕はお嬢様のもの』だって!」


 エマの発言にリディは目を丸くし、カロリーヌやグレースは「まぁ!」と頬を染めた。エステルなど首まで真っ赤になっている。

 当のベルナデットはそんな周りの反応など気づかずに、「ああ!」とスッキリとした顔をしている。


「なんだ。あの時のことを言っていたのね!」

あのヘタレ(アラン)が本当にそんなことを?」

「確かにそんなことは言われたけれど、別に愛の告白ではないわよ? その時はアランがずっと私の使用人でいてくれるっていう話をしていたの。あの時もそう説明していたと思うのだけれど」

「「「「「「……」」」」」」


 ベルナデットの言い分を聞いて、6人は無言で顔を見合わせた後、5人の視線がリディに集まった。リディは無言で首を横に振る。


「え? な、何?」

「いいえ、何でもありませんよお嬢様。それよりエマ様、それが本題ではないのでしょう? 続きをどうぞ」

「あ、え、ええ。えーと……これはアランの為には言わない方がいいのかしら?」

「聞きましょう。アランの事は気にしなくて大丈夫です」


 確かにエマが話したかったのはこの先の話なのだが、アランからの想いに全く気付いていないベルナデットの様子にこれを話すと更に誤解しそうだと思い話を続けるのを躊躇った。

 しかしそんなエマの様子を見て何か面白い話なのだろうと判断したリディが頷いて先を促す為、心の中でアランに謝罪をしつつ話を続けた。


「あのね? あくまでただの噂だから本当かどうか分からないのよ? だから本当かどうかベルナデットに聞こうと思って」

「噂?」

「ええ。けど前からいろいろな噂があったから、たぶん半分、いえ、ほとんどが嘘だとは思うのよ?」

「アランの噂ですか?」

「あ、やっぱりリディは知ってるのね」

「私に探りを入れてくる方も結構いますから」


 目の前で交わされるエマとリディの要領を得ない話に、ベルナデットは首を傾げる。辛うじて分かったのはエマが聞きたい事というのがアランの何らかの噂の話らしいということだけだ。


「アランがどうかしたの?」

「ああ、ええとね? ……リディ、本当にいいのかしら?」

「構いませんよ。気が引けるというのなら私の知っていることから先に話しましょうか?」


 リディの申し出にエマは一瞬迷ったが、彼女が話すと何故かアランが可哀想なことになる気がしてふるりと首を横に振った。


「アランって結構モテるらしいの」

「そうなの!?」


 エマの言葉にベルナデットはとても驚いた。

 ベルナデットにとってアランはアランでそういう対象という感覚が無かったし、ついこの間までアランにそういう相手が出来るかもしれないという可能性すら考えていなかったというのに。


「えっ、じゃあ私の勘違いではなく本当の愛の告白も……?」

「直接は無いみたいだけど、手紙を渡したっていう子なら何人か居たみたい」

「ラブレターってこと!?」

「うーん、ジャンル的にはそう、かなぁ? 呼び出しの手紙だったらしいんだけど、皆『ごめんなさい』って手紙で返って来たらしいから」

「行ってあげないの?」

「『忙しいので』って書いてあるらしいわ」

「『忙しいので』?」


 アランってそんなに忙しいのかしら? と首を傾げるベルナデットに、周りで聞いていた面々は苦笑か呆れ顔だ。

 アランにとってベルナデットの傍にいることが最優先事項であり、見ず知らずの女の子の呼び出しに応じることよりよっぽど大切なことなのだろうとここにいるメンバーはベルナデット以外全員分かっている。


「まあいいわ。それで?」

「あ、えーーーと、そんな感じで女の子のお誘いを容赦なく断ってるって話だったんだけど、最近別の噂があって」

「別の噂?」

「それが、どこぞのお嬢様と2人っきりで人気のない空き教室でこっそり勉強会をしてるらしいの! それだけじゃなくて、消灯時間を過ぎた頃にこっそり密会をしてるんだって!」


 自分で言った言葉にきゃーっと頬に両手を当ててはしゃぐエマだったが、ベルナデットはきょとんとした顔で、リディは怪訝な顔でお互い顔を見合わせた。あのアランがどこぞのご令嬢と密会。


「本当かしら?」

「アランにそんな度胸があるとは思えませんが。まぁでも堂々とではなくコソコソとっていうところはそれっぽいですね」

「確かにアランもお兄様と一緒でちょっと照れ屋だものね!」

「そこを一緒にしてはジェレミー様に悪いですよ。大体深夜に密会なんて……」


 そこまで言ったところで、はたとリディは言葉を止めてエマを見た。


「その空き教室の噂と消灯時間後の噂って同時に流れたんですか?」

「いえ、消灯時間後の噂の方は結構前からあったのだけれど、深夜だから暗いし、男子生徒の方がアランっぽかったっていう程度のものだったの。それが最近空き教室の方の噂が流れて、じゃああの噂も? って感じだったと思うわ」

「成程。それでしたらひとつ、私から訂正です。その2つの噂の相手は全く別の人物で、消灯時間後の方の噂の相手は私です」

「えっ!?」


 リディの突然の発言にエマが驚いて声を上げた。

 エマの頭の中では一瞬で『リディがアランに想いを寄せており、アランがベルナデットとリディの間で揺れ動く愛憎劇』が繰り広げられた。

 その不穏な気配を察知してリディがエマににっこりと笑いかけると、エマは顔色を悪くしながら引きつった笑顔を返した。


「アランとはお嬢様についての情報交換を行っているんです。お嬢様が行動している時間には出来ませんから」

「貴方たち、本当にベルナデット中心に世界が回っているわよね」

「それは普通にベルも一緒の時にしては駄目なの?」

「お嬢様がいると都合の悪い事は誤魔化そうとしそうですので」


 実際は半分くらいベルナデットには聞かせられない話をしているからなのだが、リディはそこは誤魔化した。

 そんなリディの告白に、当のベルナデットはと言えばとてもスッキリしたという顔をしていた。何故アランしかいなかった時の出来事やアランにしか話していないことをリディが知っているのか、いつのまに聞いているのかずっと不思議に思っていたのだ。


「じゃあ空き教室の噂のお嬢様もリディ?」

「違いますね。アランと空き教室で勉強会なんてしたことないですから」

「それだとベルが1人になってしまうものね」

「お嬢様のお傍を2人して離れるなんて有り得ません」

「そこまで心配されるほど学園は危険ではないと思うのだけれど。1人で行動しているお嬢様もよく見かけるわよ?」

「お嬢様にとっては危険です」

「???」

「まあリディが過保護なのは今は置いておくとして。その噂のお嬢様って、ベルナデットのことじゃないの?」


 カロリーヌの質問に、ベルナデットとエマが揃って首を振った。


「私アランと空き教室で勉強会なんてしていないわよ?」

「それに、ベルナデットなら知ってる人は知っているし、知らない人ならほら、『お嬢様』という表現は使わないと思うの」

「ああ、それもそうね。その場合『王子様』よね」

「ベルナデットのことを未だに男子生徒と思ってる子もいるものね」

「そうそう、手紙を渡す子たちは大体そう思ってるんじゃないかしら?」


 エマの言葉にカロリーヌやグレースがうんうんと同意する。


「けれどだとしたらその『お嬢様』って?」

「それが気になったからベルナデットに知っているか確かめたかったの。無いとは思ったのだけれどもしアランがベルナデットを裏切っていたらリディにおしおきしてもらわなきゃって思って」

「エマ様、素晴らしい判断です」

「まず私とアランが恋人同士っていう前提が間違っていたのだけれどね。それにしても本当なのかしら?」

「どうなんでしょう? 火のない所に煙は立たぬと言いますし、今日もこの後アランに会う予定なので本人に聞いておきます」

「本当だったとして、素直に教えてくれるかしら?」

「隠し事なんて許すわけがないでしょう? それよりお嬢様方、そろそろ勉強会を再開しますよ」

「「「「「「はーい」」」」」」


 まるで当たり前のことのようにそう宣言したリディがちらりと時計を見て随分長いこと休憩してしまったことに気づき、皆を促して勉強会を再開させた。

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