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「最近はここに毎日は来てないんだな」
こちらも恒例となっているエリックとの手合わせを終えた後、ベルナデットはどこかソワソワした様子の彼にそう尋ねられた。
「ええ、そうなんです。最近、とある方と親睦を深めるためのお茶会をしてますの」
ベルナデットの返答を聞いて、エリックは分かりやすく動揺した。
「親睦……それは、相手はどういう……」
「うーん……明るくて可愛らしい方、ですかね? 出会ってそれほど経っていないのでまだまだ知らないことの方が多いですが、素敵な方だと思いますわ」
「そ、そう……」
明らかに落ち込んだ様子のエリックの反応の意味が分からず、ベルナデットは首を傾げる。
アランはエリックがベルナデットが男とお茶をしていると誤解していると気づいたが、それをわざわざ訂正したりはしなかった。
「なあベルナデット、もしよかったら、さ……次回は手合わせじゃなくてお茶にしないか?」
「え? 私とグルナ先輩とで、ですか?」
「あ、あぁ。嫌か?」
「嫌ではありませんが……」
ベルナデットは困った。今でさえローズとのお茶会で体を動かす時間が減っているのだ。
(お茶会自体は嫌いではないけれど、やっぱり体を動かす方が楽しいのよね。ローズ先輩とは親睦を深めなければいけないから会う回数を減らすことは出来ないし、かと言ってローズ先輩と手合わせするなんて出来ないし……。これで更にグルナ先輩とまでお茶をするとなると、もっと体を動かせる時間が減ってしまうわ!)
いつの間にかベルナデットの中でローズと親睦を深めることが義務のようになってしまっているが、実際はそんな義務などはないし、回数も別に減らしてもいい。
エリックのお茶会の誘いも定期的に、と言われたわけではないのだが、ローズとのお茶会が頭にある為定期的にやるものとして考えてしまっている。
それに気づかないベルナデットはエリックの誘いを断るべく頭を働かせた。なぜ突然エリックがそんな提案をしてきたのかは分からないが、これまで接してきたエリックはベルナデット同様お茶会より鍛錬の方が好きなように見える。
(きっと鍛錬が趣味の私が最近その時間を削ってまでお茶会をしているから気になったのね。もしかしたら普通のお茶会ではないと思われているのかも……あり得るわ!)
ハッと閃いたベルナデットはジッとこちらの返事を待つエリックに申し訳なさそうに答えた。
「あの、グルナ先輩のご期待に沿えずとっても申し訳ないのですが、私たちが行っているのはごく普通のお茶会なのです」
「??? うん?」
諾否の返答があると思っていたエリックは突然斜め上の発言を始めたベルナデットに首を傾げた。
それを見て同じようにベルナデットも首を傾げる。
「?? ええと、ですから、普通のご令嬢たちが楽しむような普通にお茶を飲んで普通にお菓子を食べて普通におしゃべりをするだけなんです」
「???? お茶会ってそういうものだよな??」
再び顔を見合わせてお互いに首を傾げる。
その様子を見かねて、後ろで静観の姿勢をとっていたアランが2人に聞こえないように小さくため息をついて口を開いた。
「口を挟んで申し訳ありませんが、お嬢様、グルナ様はお嬢様がお茶会中にまで鍛錬を行っているとは考えていないと思います」
アランの言葉を聞いてベルナデットは目を丸くした。
「え!? そうなんですか!?」
「あ、あぁ」
本気で驚いているベルナデットに、エリックはベルナデットの中の自分は一体どんなイメージなのかと複雑な気分になった。
「ええと、じゃあ、普通のお茶会を……」
そこまで言ったところでまたベルナデットは言葉を切った。先輩の誘いを断るのは気が引けるが、これ以上お茶会に時間を取られたくはない。
ちゃんと断らないとローズの時の二の舞になってしまう。
(あぁでも、断って気を悪くさせてしまったらもう手合わせもしてもらえなくなるかも……それは悲しいけれど、やっぱりこれ以上は……)
そんなことが頭を過ったベルナデットは、悲しそうな顔でエリックを見上げた。そんな顔をしているとまるで儚く繊細な令嬢のようで、エリックはドキッとした。
「グルナ先輩、ごめんなさい。私、やっぱりグルナ先輩とはお茶会より手合わせがしたいです」
「……」
「お誘いを断ってしまったのに都合が良い事を言っているというのは分かっているのですが……」
「……」
「グルナ先輩?」
「……はっ! あ、ああ、分かった」
暫くどこか呆然とした様子でベルナデットの話を聞いていたエリックだったが、ベルナデットに名前を呼ばれたことで我に返った。
(フラれたのかと思った)
ベルナデットの表情と言い方のせいでそんな錯覚を起こしてしまったエリックは、その考えをふるふると頭を振って追い払った。
しかしそれを見たベルナデットはその行動を気を悪くさせてしまったのだと勘違いした。
「ええと、やっぱりこんな我儘言っちゃ駄目ですよね。すみません。今まで付き合ってくれてありがとうございました」
「え!? いや、こっちこそ急に変なことを言い出して悪かった! これからも手合わせは続けよう」
「けど、ご迷惑なのでは……」
「そんなことない! こちらもベルナデットとの手合わせは楽しいし勉強になってる」
エリックはそう言ってくれるが、ベルナデットにはやはり先程の態度こそが本心でこれらの言葉はベルナデットに気を遣って言っているようにしか思えなかった。
そんなベルナデットの様子にエリックは暫く何か悩んだ後口を開いた。
「…………オレは君の、義兄、なんだからさ。遠慮なんてしなくていい」
エリックの言葉にベルナデットは驚いた顔をした後、じわじわと嬉しそうな顔になった。
「そう、ですよね。グルナ先輩は私のお義兄様……あの、グルナ先輩? よろしければ今後はエリックお兄様とお呼びしてもいいですか?」
「………………いいぞ」
「わぁ、ありがとうございます! エリックお兄様!」
ファーストネームで呼ばれることは嬉しいが兄と呼ばれるのは……と暫く葛藤したエリックだったが、キラキラした瞳に見つめられ結局ベルナデットのお願いを了承した。
落ち込んだ様子のエリックにアランは同情したが、お茶会を断り手合わせを継続することが出来、お兄様呼びを許可してもらったベルナデットは浮かれてそんなエリックの様子には全く気付かなかった。




