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ベルナデットは先輩と交流を深める


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「まあ! ふふ、ベルは本当にご令嬢というより騎士様みたいね」

「ありがとうございます。お兄様にはまだ及びませんが、そう言っていただけるなんで光栄ですわ」

「ふふふっ、そこで『ありがとう』と言うところがベルらしいわね」

「だって騎士様って強くて気高くてとっても褒め言葉だわ!」


 ベルナデットはローズと彼女のお気に入りというティールームでお茶を楽しんでいた。

 ローズは有言実行の人で、出会いの翌日にはシリルからアランを経由してお茶のお誘いがあった。

 ベルナデットは基本放課後は訓練をしているだけの為「ローズ先輩の予定に合わせます」と連絡したところ、その翌日には「明日の放課後迎えに行くわ」という返事が返って来た。

 それから週1回のペースで開催され、本日は3度目のお茶会である。


「私、ベルと街へお買い物に行ってみたいわ。駄目かしら?」

「まあ! ローズ先輩とお買い物なんてとっても楽しそうだわ! 是非お願いします!」

「本当? 嬉しい! じゃあ今週の週末なんてどうかしら?」

「大丈夫ですわ! ふふっ、とっても楽しみだわ」

「ふふ、私もベルとのデート、楽しみにしてるわね」


 さり気なくそんなことを言うローズにシリルは苦笑い、アランは面白くないという顔をしている。

 ローズはそんな従者たちの様子に気づきながらにこにこと嬉しそうに笑っているが、ベルナデットは、初めての友人とのお出かけの約束に浮かれて彼らの様子に全く気付いていなかった。




 週末になり、ベルナデット、アラン、ローズ、シリルの4人は王都の中心地へとやって来た。

 ベルナデットはリディのことも誘ったのだが、「あんまり大人数になるのも動きづらいですし、アランがいれば十分でしょう」と断られてしまった。その際一瞬面倒くさいという顔をしたように見えたのはきっとベルナデットの気のせいだ。


「ローズ先輩はこの辺りに詳しいんですか?」

「ええ。シリルと一緒によく来ているから大体は把握しているわ」

「そういえば以前アランが『ルームメイトが王都に詳しい』と言っていたわね」

「ベルは来たことあるの?」

「私は夏季休暇前にアランと家へのお土産を買いに来ましたわ」

「そうなのね。ベルの初めての王都かと思ったのに残念」


 いたずらっぽく笑って言うローズの『残念』の意味がいまいち良く分からずベルナデットは首を傾げた。


「残念?」

「ふふ、ええ。せっかくベルに案内してあげようと思ったのにって」

「まあ、ありがとうございます! 初めてではありませんがお土産を買うために一度来たことがあるだけなので、詳しいローズ先輩に案内していただけるのなら嬉しいですわ!」

「そう? じゃあ今日は私のお勧めのお店に案内するわね」


 そう言ってローズが案内してくれたのは可愛らしい雑貨屋だったり、手芸屋だったり、服やアクセサリーのお店だったり、お洒落なカフェだったり、普段ベルナデットが行かないようなお店ばかりだった。

 ベルナデットは可愛いものよりは格好いいものに惹かれるが、だからと言って可愛いものが嫌いなわけではない。自分からこういった店に入るかと言われると入らないのだが、これはこれで新鮮で楽しむことが出来た。


 朝からたっぷり王都を満喫してそろそろ帰ろうかと話していた時、前方でざわめきが起こった。

 といってもだいぶ距離が離れており、普通のご令嬢であるローズはそれに気が付かなかったし、シリルも何となく違和感を感じた程度だった。

 しかし前回の反省から身体強化を使っているベルナデットには、距離があるとはいえ直線上で起こったその出来事を正確に把握出来た。女性の悲鳴と逃げる男。ひったくりだ。


「ちょっとここで待っててください!!」


 ベルナデットはローズにそう告げると、返事も待たずに駈け出した。

 上品な老婦人のバッグを奪った男は、好都合なことにベルナデットの方へ走ってくる。

 男は一瞬自分に向かってくるベルナデットの方を見たが、一見線が細く強そうには見えないベルナデットを見てそのまま突っ込んで来た。

 男はそのままベルナデットを突き飛ばして逃走しようとしたのだが、それは叶わなかった。

 ベルナデットは男の鳩尾に一発、強烈な蹴りを放ち、男は宙を舞った後べしゃりと地面に沈んだ。


「やり過ぎてしまったかしら!?」

「相手はひったくり犯ですから情けは不要です。大丈夫、あれくらいじゃ死にません」


 走って勢いがついていたのもあり想定より吹っ飛んだ男を見てベルナデットは蒼ざめたが、彼女のすぐ後ろで一連の出来事を見ていたアランは冷静に言い放った。

 幸いなことに男が飛んで行った方向には誰もおらず、巻き込まれた人はいなかった。


 被害者の老婦人にお礼を言われ、ベルナデットは笑顔でそれを受け取った。ひったくり犯は周りで見ていた人たちによって衛兵の下へ連れていかれ、騒動が一段落ついたところでベルナデットはローズの下へ戻った。


「お待たせしてしまってすみません」


 ベルナデットはローズに謝ったが、ローズはぽーっとしておりベルナデットの声が届いていない。


「ローズ先輩?」


 もう一度呼びかけて目の前で手をひらひらと振ったところで漸くはっとしたローズだったが、夢見るような顔のまま目の前にあったベルナデットの手をキュッと握った。


「好きです」

「…………???」


 ベルナデットは何を言われたのか理解できずきょとんとした。

 そんなベルナデットの様子などお構いなしに、ローズはうっとりとした顔で更に言葉を続ける。


「まるで王子様のように儚げで美しいのにその実とても強くて、誰に対しても平等に接することが出来て、困っている方をまるでヒーローのようにサラリと助けてしまって……ベルはまさに私の理想そのものだわ。ベルナデット、愛しています。どうか私だけの王子様になって?」


 ローズの突然の熱烈な愛の告白にベルナデットは照れるより混乱の方が大きかった。


「えっと、ローズ先輩? それではまるで愛の告白ですよ??」

「正真正銘愛の告白ですわ」

「???? ローズ先輩はシリルのことが好きなのでは??」


 混乱のあまりついポロッと言ってしまったベルナデットの言葉に、ローズが怪訝な顔をする。


「誰がそんなことを?」

「え? あっ!!」


 ローズに尋ねられて自分の失言に気づいたベルナデットは慌てて口を塞いだがもう遅い。

 誤解したローズがジトっとした目をアランに向けたのを見て、ベルナデットは慌てて口を開いた。


「アランではありませんわ! あの、えっと……。ごめんなさい。私、前にローズ先輩がアランに相談しているところを見てしまったんです」


 ベルナデットが申し訳なさそうにそう白状すると、ローズはきょとんと不思議そうな顔をした。


「私がシリルのことが好きって言っていたの?」

「あ、いえ。離れていたので話の内容は聞こえなかったのですが……その、ローズ先輩の様子から恋愛相談だろうということは何となくわかったので、アランに相談するということはお相手はアランとルームメイトのシリルかな、と」


 説明しながら、ベルナデットはわざとではないにしろ勝手にローズの気持ちをシリルに伝えてしまったことを申し訳なく思った。

 ちらりとシリルの様子を伺うと、彼は口元に手の甲を当てて顔を逸らしており表情を伺うことは出来なかった。その肩は僅かに震えている。

 まるで笑っているように見えベルナデットが不思議に思っていると、ローズが納得したようにひとつ頷いた。


「成程。確かに話の内容が分からなければそのような誤解が生じるかもしれないわね」

「誤解?」

「ええ、誤解。私、シリルは好みじゃないわ」


 きっぱりと言い切ったローズにシリルは何か言い返したそうな顔をしたが何も言わなかった。


「そうなんですか?」

「ええ。だって私の好みはベルみたいな人だもの。その時も、アランにベルを紹介して欲しいって相談してたのよ。断られてしまったのだけれど」


 そう言ってため息をつくローズが本気で言っているのかどうかベルナデットには判断できず、困った顔でアランを見るとアランはとても苦い顔をしていた。

 アランがそんな顔をする理由は良く分からなかったが、否定をしないということはそういうことなのだろうと思い、ベルナデットは再度ローズに向き直った。


「ローズ先輩、お気持ちはとっても嬉しいのですが……まず私は『王子様』ではありません」

「ええ、それは分かっているわ」

「いえ、そういうことではなく。ローズ先輩は、私の事を美化しすぎていると思うのです」

「そんなことはないわ。ねぇ、アラン?」


 自信満々なローズが何故かアランに話を振ると、アランは更に苦い顔をしながらも「そうですね」と肯定を返した。


「ローズ先輩、アランは……というかうちの使用人たちは私に甘いですからアランに聞いても駄目です。ローズ先輩と私は知り合ってからそれほど経っていませんし、お互いの事がまだよく分かっていないと思うのです」

「そうかしら?」

「そうです」


 ローズがベルナデットの言葉を素直に聞いてくれて、ベルナデットはホッとした。ベルナデットにはローズのそれが恋ではなく、前世で言うところのアイドルに憧れるファンにしか見えなかったからだ。

 現実を知ればローズの誤解も解けるだろうとベルナデットは思っている。


「確かに私たち、もっとお互いの事を知る必要があるわね」

「そうですわ!」

「じゃあこれからはもっと親睦を深めなければね」

「そうですわね!」

「けれどベルはモテるでしょう?」

「?? そうでしょうか?」

「だから他の人に取られてしまう前に伝えなければと思ったの」

「ええと??」

「だからね? 私と親睦を深めるまで、誰のものにもならないでね」


 思っていたのと違う展開に着地した話に混乱し、ローズの「ね?」と笑顔だが肯定しか認めないという圧がこもった問いかけに、ベルナデットは訳が分からないままに頷いていた。

 更に『親睦を深めるため』と言って「お茶会の頻度を増やしましょう」や、「またお出かけしましょう」など嬉しそうに提案されたが、ベルナデットは「まあ親睦を深めるためには必要よね?」と深く考えずにローズの提案全てに頷いた。

 そんなベルナデットを見てアランは頭を抱え、シリルは激励を込めてその肩をポンと叩いた。

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