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「あら?」
屋台を一通り見て回った頃、ちょうど2年の競技が終わったらしく闘技場の方からたくさんの人が歩いてきた。決勝戦は見ようと思っていたのだが、屋台に夢中になっているうちに終わってしまったらしい。
ベルナデットはその中の1人、ちょうど正面を歩いている女子生徒に見覚えがあった。
(どこで見たのだったかしら? ええと、直接話した記憶はないのよね……確か、すごく恋する乙女みたいな顔を……)
そこまで考えたところで、ベルナデットはどこで彼女を見たのか漸く思い出した。
「そうだわ! あの覗きをした時の子よ!」
「お嬢様、あまりそういったことは大声で叫ばれない方がよろしいかと」
「いや、それ以前に覗きが問題だろ。お嬢様、そんな趣味が……」
「物凄く失礼な誤解をされている気がするわ。そうじゃなくて、ほら、あの子!」
そう言ってベルナデットが示す方向を見るが、まだ距離がある上人が多すぎて2人には判別出来なかった。
「誰がいるんですか?」
「ほら、あの子よ! アランのルームメイトの仕えているお嬢様だって言っていた」
「え」
アランがベルナデットの言葉を聞いてもう一度前方の人混みに視線を向けると、確かにベルナデットが示したあたりにローズの姿があった。隣にはルームメイトのシリルもいる。
アランが不味いと思い進行方向を変えようとしたが、それより向こうがこちらに気づく方が早かった。ベルナデットを見つけたローズの顔が輝き、こちらを示しながら隣のシリルに何か言っている。
そのまま2人はベルナデットの前までやってきて、ローズがにこりと微笑んで口を開いた。
「ベルナデット・ディアマンさんよね? 始めまして、私、2年のローズ・フリュオリンヌですわ。私の侍従のシリルが貴女の侍従の彼とルームメイトなの」
「あ、1年のベルナデット・ディアマンです。えと、そうなんですね。お、お世話になっております?」
(まさか話しかけられるとは思わなかったわ! 近くで見るととってもお嬢様だわ!! 何を喋れば?? どういう態度が正解なのかしら!? というか何故話しかけられたの!? さっぱりわからないわ!!)
ベルナデットがぐるぐると考えて一人焦っていると、それを見たローズがクスクスと笑いだした。
「ふふ、ごめんなさい。困らせたかったわけではないの。貴女のことはいろんな人から聞いていたけれど今まで会ったことがなかったでしょう? だからつい嬉しくなって思わず話しかけてしまったの。驚かせてごめんなさいね?」
「あ、そうなんですね?」
ベルナデットは『いろんな人から聞いた』という話がどういったものかとても気になったが、尋ねることは出来なかった。何となく聞かない方がいい気がしたのだ。
「ええ。それで、もしよろしければ、私とお友達になってもらえないかしら?」
小柄なローズに上目遣いでこてんと首を傾げられて、ベルナデットは考える前に首を縦に振っていた。
「本当!? 嬉しいわ! ねぇ、じゃあベルって呼んでも良いかしら?」
「勿論ですわ」
「ありがとう! 私のこともローズと呼んで? あ、ベルは会ったことないわよね? 私の侍従のシリルよ」
ローズに紹介されたシリルがぺこりと頭を下げたので、ベルナデットは「よろしくね」と微笑んだ。
そしてはたと気づく。ベルナデットは先日の覗きで一方的にアランとローズが顔見知りとしっているが、本来ベルナデットはそのことを知らない筈。ならばアランを紹介するべきだろう。
「ローズ先輩、こちら私の侍従のアラン、それから侍女のリディですわ」
ベルナデットがそう言うとローズは一瞬何事か考えた後、「初めまして。貴方はこれからもシリルをよろしくね」と前半は2人に向けて、後半はアランに向けて言った。
(なるほど。きっとアランに恋愛相談をしたことをシリルは知らないのね。会ったことがあるとなればその理由を聞かれるでしょう、けれど「貴方とのことを相談していました」なんて言えないでしょうし、最悪アランとの仲を誤解されてしまうかもしれないものね。理解したわ)
ベルナデットはそう結論を出し、完璧な推理だわと一人満足していた。まぁ実際対象がシリルではなくベルナデットだというところ以外ほぼ合っているのだが、一番重要なところが間違っているので推理としては0点である。
「ねぇベル、私たち今から屋台を見てみようと思うのだけれど、良かったら一緒にどうかしら?」
「申し訳ございません、フリュオリンヌ様。お嬢様は既に屋台を見終えてしまいましたので」
返事をする前に、間髪入れずアランがそう言って両手の戦利品を見せたことにベルナデットはぱちりと瞬きをした。そしてはっと気が付いた顔をしてにっこりとローズに笑顔を向ける。
「お誘いはとっても光栄なのですけど、見ての通り既に一通り見て回ってしまって、少し疲れたのでこれから休もうと思っていましたの。申し訳ないのですが、また機会があればお願いいたしますわ」
(アランは断ったって言ってたけれど、なんだかんだ言いつつやっぱり協力しているのね! 分かっているわ! せっかくのデート、邪魔したりしないわ!)
アランが断った時には不満そうな顔をしていたが、ベルナデット本人が断ったことによりローズは残念そうな顔をして引き下がった。
けれど「近いうちに絶対お茶をしましょうね」としっかり約束を取り付けて、最後まで名残惜しそうな顔をしながら去って行った。




