ベルナデットは初めてのお祭りを満喫する
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「リディ! アラン! あれは何かしら!?」
「お嬢様、ちゃんと前を見てください!」
「その前に走らないでください」
前方の屋台を指さしながら2人を振り返りつつ駈け出したベルナデットにリディとアランは注意するが、ベルナデットは「わかったわ!」と言いつつ浮かれてあまり話を聞いていない。
今日は闘技大会だ。
この学園は魔法を学ぶことを主な目的をしているため、その成果を見るべく夏季休暇明けと学年末の年に2回、実技試験として『闘技大会』というものが開催される。
闘技大会といってもスポーツ大会のようなもので、ルールは単純。競技者は魔力を込めた魔力玉というものを作り、対戦相手のそれを壊すなり消すなりした方が勝者となる。
男女混合学年ごとの一対一のトーナメント方式で行われるが、その性質上順位よりも対戦時の立ち回りが評価される。
魔法を使用するとはいえ、ベルナデットの強さを知っている者たちは彼女の圧勝だろうと思っていたが、そんな予想に反して彼女は1回戦で脱落した。
普段から魔力を身体強化に全振りしているベルナデットだが、魔力玉を維持しなければいけないこの大会では魔力の使い道を分散させなければいけない。
魔力制御がまだ未熟な上、身体強化以外の魔法が不慣れなベルナデットにとってそれは簡単な事では無く、結果ほとんどの魔力を魔力玉維持の方に回すことになってしまった。
対戦相手も悪かった。相手はエルネストだったのだが、彼の魔力制御は完璧だった。
更に普段ベルナデットがしている手合わせは基本肉弾戦である。対魔法の経験がほぼ無いベルナデットは、すぐに魔力玉を壊されてあっさりと敗北した。
結局1年の部ではそのエルネストが優勝したのだが、意外な事にリディが3位と大健闘を見せた。リディは魔法が得意だったようだ。
そんなこんなで1年の試合は全て終了し、現在は2年の試合が行われている。
2年にはシャルルがいるためほとんどの生徒が見学に行っているのだが、ベルナデットは行かなかった。
興味がないわけではないが、それ以上に大会中に出店されるという屋台への興味が勝ったのだ。それにシャルルは去年優勝しているらしいので、決勝が見られればいいかと思ったというのもある。
「ふぁぁぁ……! リディ、リディ! あれ食べても良いかしら!?」
「わたあめですか。いいですけど、ただの砂糖ですからね? もし味が気に入らなくてもちゃんと食べるんですよ?」
「わかったわ!」
屋台の内容は前世で憧れたお祭りの出店そのもので、ベルナデットは興奮しながら気になった屋台に片っ端から突撃した。
既にアランの両手はふさがっているし、リディも両手は空いているが、その腕には袋をいくつもぶら下げている状態である。
リディの許可が出て喜んで屋台に走って行ったベルナデットは、そこに並ぶ色とりどりでふわふわしたわたあめの前でどれにしようか迷い視線を彷徨わせた。
暫くした後待っていた2人の下に戻ったベルナデットの手には可愛らしい――
「マカロンですね」
「でしょう!?」
お菓子の、ではなくディアマン家の愛犬マカロンにそっくりな形のわたあめが握られていた。
「お嬢様、いくらマカロンに勝てないからって……」
「なんだか物凄く失礼な勘違いをされている気がするわ」
「本物に勝てないからマカロンによく似たそれを食べることで勝ったことにしようとしているのでは?」
「違うわよ。マカロンにはもうすぐ勝てそうな気がするもの!」
自信満々なベルナデットにリディは呆れたような、アランは生暖かい目を向けた。
夏季休暇の終わり頃にシャルルとカロリーヌの前で泣きながら敵前逃亡したのが彼女とマカロンとの最新の戦績である。
「そうではなくて、このわたあめ、マカロンに似ているでしょう? これを見ても怖いと思わなかったから、きっと今度マカロンに会っても怖くないと思うの!」
「そりゃ怖くないでしょう。わたあめですからね」
嬉しそうに目を輝かせるベルナデットにリディはため息をついて呟いたが、幸いなことにベルナデットには聞こえていなかった。
暫く「可愛いわ!」と嬉しそうにわたあめを眺めていたベルナデットだったが、リディに「そろそろ食べてください」と促されドキドキしながらかぷりと耳の先を齧った。
「美味しいわ!」
「それは良かったです」
「それ、本当に砂糖なんですか?」
瞳をキラキラさせて初めてのわたあめに大興奮のベルナデットをリディは微笑ましく見守った。
一方アランはわたあめ自体を知らなかった為、リディの言った「ただの砂糖」という発言がいまいち信じられないようで不思議そうに眺めている。
それを見たベルナデットは、浮かれたテンションのまま手に持ったわたあめをずいっとアランの方へ差し出した。
「近くで見ても良く分からないです」
「ならひとくち食べてみればいいじゃない!」
「……はい?」
ベルナデットの発言に、アランもリディも固まった。ご令嬢として完全にマナー違反であるし、普段のベルナデットであれば流石にそのくらいはわかっており自重している。
しかし今のベルナデットはお祭りにわたあめにと完全に浮かれており、尚且つお祭りについては前世に読んだ本の中で友達や恋人同士で分け合いながら食べるシーンをとても羨ましく思っていた。
要するに浮かれすぎて今世の常識が飛んだのだ。
「ほら、あーん」
「おおおおじょうさま!?!?」
ベルナデットの追撃に固まっていたアランは我を取り戻すと同時に真っ赤になって声を上げた。
その声にリディもハッと我に返り、困惑しながらベルナデットに問いかけた。
「お嬢様? 流石にそれは……」
「え? リディも食べてみたい?」
「言っていませんが」
「はい、あーん」
「……」
リディはその行動自体を止めさせようとしたのだが、浮かれたベルナデットはそんなこと気づかない。
更に「そういえばリディもわたあめを食べたことないのでは?」ということに気づき、アランに向けていたわたあめを今度はリディに差し出した。
暫く期待に満ちた顔でわたあめを差し出すベルナデットと差し出されたわたあめを黙って見つめていたリディだったが、結局ぱくりとひとくちわたあめを口にした。
「甘いですね」
「でしょう? 美味しいわよね!」
「そうですね。ありがとうございました」
もぐもぐとわたあめを食べるリディを見て、ベルナデットはとても満足そうだ。
アランはその様子を見てほっとした。ただちょっとだけ残念に思ってしまった。それがいけなかったのだろうか、ベルナデットは再びくるりとアランの方を向いた。
「ほら、アランも!」
「うぇぇ!?」
再びぐいぐいと差し出されるわたあめにアランは半分パニックになりながらリディを見たが、リディは無表情で頷いただけだった。いや、よく見ればアランにだけ見えるように袋の影で親指を立てている。
「美味しいものは皆で食べた方がもっとおいしくなるのよ! ほら! せっかくだし!」
「誰もいない今のうちに早く食べた方がいいわよ」
「ほらほら! あーん」
「男なら覚悟を決めなさい」
「……」
ベルナデットとリディに交互に急かされて、アランは周りに誰もいないのを確認してからぱくりと小さく差し出されたわたあめを齧った。
それに満足したベルナデットが「ね? おいしいでしょう?」とまるで自分が作ったかのように誇らしげに尋ねてきたのでアランはそれに頷いたが、緊張のせいで味なんてほとんど分からなかった。
「僕はお嬢様の無邪気さが心配です」
「私は貴方のヘタレ具合が心配だわ」
次は何を見ようかしらとウキウキしながら歩く後ろで、2人はそれぞれ大きなため息をついた。




