従者たちの報告会4
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side:アランとリディ
「悪い、待たせたか?」
待ち合わせ場所に行くと珍しくリディが先に待っており、アランは時間を間違えたかと時計を確認した。
「このヘタレ浮気男が」
「何でだよ!? そんなに長いこと待ったのか!? 悪かったよ!」
「そんなことはどうでもいいのよ」
「は?」
リディが不機嫌な理由は待たせてしまったせいだとアランは思ったのだが(但しまだ待ち合わせ時間前だ)、どうやらそうではないらしい。
心当たりのないアランが怪訝な顔をしたが、それを見たリディは更に眉間の皺を深くした。
「貴方のルームメイトは女の子なの?」
「は? そんな訳ないだろ?」
「今日はルームメイトから頼まれごとをしたと聞いていたのだけれど?」
そこまで言われて漸く何のことを言われているのか分かったらしく、アランは「あー……」と言いながら気まずそうに頭を掻いた。
「頬を赤らめたご令嬢から胸に飛び込んで告白されるなんて、随分色男になったものね?」
「は!? 何の話だ!?」
「は? そう言うのいいから。こっちはちゃーんと見てるのよ?」
「見た?」
しらばっくれるアランにリディが追い打ちをかける。それに対してアランは怪訝な顔で少し考えた後、思い当たることがあったのか「あ」とひとつ呟いた。
「それってシリルが居なくなってすぐの話か?」
「シリル?」
「僕の同室だよ」
「そんな人見ていないけど」
「じゃあその見たっていう子が何て言っていたかは?」
「流石に盗み聞きなんて無粋な真似はしないわよ」
「盗み見も十分だと思うが」
「たまたま目に入ったんだから不可抗力よ」
「通路からは見えない場所で話してたと思うんだけど」
リディの覗いた訳では無いという主張には懐疑的だったが、それ以外の部分には納得したらしくため息をついた後アランは事のあらましについて説明した。
「まず、同室から頼まれごとをしたというのは本当だ。僕はシリルに連れられてあの場所に行ったんだ。あいつの仕えているお嬢様が話があるらしいから会って欲しいって言われてな。それがリディが見たって言ってるお嬢様だ」
「それでその話って言うのが愛の告白だったってわけ?」
「告白……あー、まあ告白か。相手は僕じゃないけどな」
そこで遠い目をしたアランに、リディは雲行きが変わったのを感じてきょとんと首を傾げた。
「私が見た時、貴方と彼女は2人きりだったけれど」
「そうだな。最初はシリルと3人だったんだが、途中お嬢様がシリルに忘れ物したって言って取りに行かせたんだよ。まあわざとだったんだろうけど」
「はぁ、もしかしてそのシリルとやらが好きだから協力して欲しいとかいうオチ?」
「それだったら喜んで協力したんだけどな」
「じゃあ何なのよ」
リディが訳が分からないという顔で尋ねると、アランはとても苦い顔をした。
「あのお嬢様、ローズ・フリュオリンヌ様って言うんだけど」
「フリュオリンヌ……そこそこ大きな侯爵家ね」
「一目惚れしたんだって」
「誰に?」
「その後知った性格も好みだったんだって」
「だから誰が」
「うちのお嬢様」
「……………………は?」
遠い目をしながら言ったアランの言葉が上手く理解出来ず、リディはたっぷり時間を置いてから我に返り眉間を指でぐりぐりと抑えながら俯いた。
「もう一度言ってくれる?」
「だから、お嬢様のことが好きだから協力して欲しいって」
「誰が?」
「フリュオリンヌ様がだよ」
「勘違いではなく?」
「リディもあの顔見てたんだろ?」
「ああ、間違いなく恋する乙女の顔でしたね……」
その時のことを思い出して、リディもアランと同じく遠い目をした。あの顔を見たからリディもベルナデットもアランが告白されていると思ったのだ。
「フリュオリンヌ様は、お嬢様が女性だときちんと理解しておられるの?」
「一目惚れした時は男だと思ってたらしいけど、今はちゃんと女だってわかってるし、それでも構わないんだと」
「それで、貴方は何と返したの?」
「そりゃ協力できないって断ったさ。けどあのお嬢様、めちゃくちゃ押しが強くて。今日は途中でシリルが帰って来たから引き下がってくれたけど、笑顔で『またお話ししましょう』って言ってたから絶対諦めてないと思う」
「因みにその話、貴方のルームメイトの彼は知っているの?」
「知ってたらわざわざ話す時に遠ざけたりしないだろ」
「全く。困ったお嬢様ばかりね」
リディがため息をついて零した愚痴にアランも苦笑いする。『ばかり』の中には確実にベルナデットのことも入っているのだろう。
「事情は分かったわ。けれど残念なお知らせがあるの」
「待ってこの流れ嫌な予感しかしないんだけど」
「まずお嬢様も貴方が告白されていたと誤解しているのだけれど」
「うんそうだよな。そうだと思った」
その誤解をリディが肯定したとは言わずに話を続ける。
「それでもしアランに恋人が出来たならという話まで飛んでね」
「待って待って。否定してくれたんだよな? な??」
縋るような目を見つめ返してリディはひとつ頷いた。
「否定はしたけれど、私はアランじゃないから。私の言葉にどれだけ信憑性があると思っていただけたかは分からないし、その後暫く難しい顔で何か考え込んでいたことだけ伝えておくわ」
「それお嬢様絶対斜め上な事考えてるよな!?」
「ちゃんと誤解が解けるといいわね」
イイ笑顔で「頑張って」と言ってリディは女子寮へと帰って行った。




