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◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「何か急ぎの用事でもあったの?」

「いいえ、私は何も聞いていないわ」

「そもそも、お2人はどうしてこんなところに?」


 リディの問いかけに、カロリーヌはパッと嬉しそうな顔になり、内緒話をするように口の横に手を添えた。


「あのね、イザベルがラブレターを貰ったの」

「「えぇ!?」」


 2人は揃って声を上げた後、お互いの顔を見合わせた。

 嬉しそうなカロリーヌには申し訳ないが、2人の中である懸念が拭いきれない。


(ロリコンかしら?)

(ロリコンでしょう)


 何とも言えない顔で見つめ合う2人を見て、カロリーヌは予想していた反応と違ったことに首を傾げている。


「ん゛ん゛! それで、呼び出し場所へ向かっていたということですか?」


 咳ばらいをしてからリディがそう聞くと、カロリーヌはそれを否定した。彼女が言うには、()()がその待ち合わせ場所らしい。


「随分不思議なところに呼び出すのね?」

「そうなのよ。だからイザベルったら『どうせイタズラでしょう』って無視しようとするものだから、それは流石に失礼よって言って私が無理やり連れて来たの」

「成程。ってあら? その待ち合わせってまだなの? イザベルはどこかに行ってしまったけれど」

「『放課後』ってだけで時間の指定があった訳じゃないのよ」

「あら? けれど先程イザベルに男の方が話しかけていなかった?」

「あらそうなの? じゃあイザベルはその彼と話しに行ったのかしら?」

「そんな雰囲気でも無かったですけどねぇ」


 3人がそんな話をしていると、階段の下から駆け上がってくる足音が聞こえてそちらに目を向けた。


「カロリーヌ!!!!」

「お兄様?」


 足音の主はシャルルで、駆け上がった勢いのままカロリーヌを抱きしめた。その後ろから彼の侍従であるフィリップも少し遅れてやって来た。


「カロリーヌ、大丈夫!? 階段から落ちたって聞いたよ。怖かったよね? イザベルは怪我は無いって言っていたけれど、本当にどこも何ともない?」

「落ち着いてくださいお兄様。本当に大丈夫ですわ。ちょうどすぐ下にいたベルナデットが助けてくれましたの」

「そうか、良かった……」


 涙目でカロリーヌの無事を確認するシャルルに、ベルナデットとリディはそわそわしながら周りの様子を伺った。


 夏季休暇中にシャルルとカロリーヌがディアマン領を訪問した時に、実はシャルルが優しくて気さくな人だと言うことを知った。しかし同時に泣き虫で怖がりでもあるので、国民に不安を与えないよう、また良いように利用されないよう学園では全く笑わない、冷たい態度で過ごしていると言っていた。


 ならばこの状況を見られたら不味いのでは? とベルナデットとリディは思ったのだが、周りの生徒たちがシャルルのことを全く気にしていないことに気づき首を傾げた。

 そんな2人の疑問に答えてくれたのはフィリップだった。


「認識疎外をかけているので大丈夫ですよ」

「「認識疎外?」」

「ええ。見えなくなるわけではありませんが、視界に入ったとしても風景の一部程度の認識になる目くらましの魔法です。シャルル殿下のおかげで随分上達しましたので心配はいりませんよ」

「その魔法、私にも使えるでしょうか?」

「リディ、その目的を聞いてもいいかしら?」


 どことなく苦労の滲み出たフィリップの説明にリディが真剣な顔で尋ねた。目的は言わずもがなである。


「ベルナデット嬢、矢の件に引き続きカロリーヌを救ってくれて感謝する。お礼は何がいい?」


 カロリーヌの無事を確認しホッとしたのだろうシャルルがいつもの態度に戻りベルナデットに問いかけて来たので、ベルナデットは笑顔で首を横に振った。


「お礼は不要ですわ。私はたまたまカロリーヌのすぐ近くを歩いていただけですから。友人を助けるのは当然の事です。カロリーヌに怪我が無くて私も嬉しいですもの」

「ベルナデット……! ありがとう」


 ベルナデットの言葉にカロリーヌが感動してきゅっとその手を握り再度お礼を言った。

 シャルルは何か言いたそうな顔をしていたが、結局「わかった、ありがとう」と納得したようだった。


 後はシャルルとフィリップがついているから大丈夫だと言われ、ベルナデットとリディはカロリーヌに手を振って別れた。

 その後リディの教室を覗いたが、放課後になってだいぶ時間が経ってしまった為そこにはもう誰も居なかった。

 会えなかったことを残念に思いながらも、もしかしたら2人もお茶をしているかもしれないと話しながら中庭へ向かう。


「あら?」


 外に出たところで、リディの方を向いていたベルナデットは視界の端の少し離れたところに良く知っている後姿を見つけて足を止めた。

 リディもベルナデットの視線の先を追って納得したように頷いた。


「アランですね」

「よね?」

「……お嬢様?」


 リディの言葉に同意して、ベルナデットは音を立てないように気を付けながらそちらに足を向けた。

 アランは背を向けておりこちらに気づいていない。誰かと話しているようだが、2人のいる位置からは木が邪魔で相手は見えないし、向こうからもこちらは見えていないだろう。


「アランのルームメイトがどんな人かちょっと見てみたいと思っていたのよね」

「それは分かりましたが、何故コソコソしているのですか?」

「せっかくだからルームメイトといる時のアランの様子も見てみたいじゃない」

「好奇心旺盛なのは結構ですが、こんな人気のないところで話しているのですから人に聞かれたくない話をしているのでは?」

「それならルームメイトなんだから部屋で話すんじゃないかしら? けれど元から盗み聞きするつもりなんてないし、あんまり近づいたらバレちゃうし声が聞こえるまで近づくつもりはないわ」


 咎めるリディにそう言うと、ベルナデットはちょうどよく隠れられる低木の影にしゃがみ込み、こっそりと顔を出して向こうを覗いた。

 そんなベルナデットの後ろにしゃがみ込んで隠れていたリディだったが、ベルナデットが戸惑ったように「え?」と呟いた為、何があったのかとベルナデットの横から同じように向こうを覗き、その光景を見て「は?」と眉間に皺を寄せた。


 確かにそこにいたのはアランだった。それはいい。

 ただアランが話していた相手だ。

 彼はルームメイトに頼まれごとをしたと言っていた。だが彼と一緒にいるのはどう見ても女子生徒だ。しかもこちらから見える彼女の顔は微かに紅潮しており、愛おしそうにアランを見上げているように見える。

 2人が思わず固唾をのんで見守っていると、何か一生懸命話していた女子生徒が次の瞬間アランの胸に縋りついた。

 これ以上覗くのは流石に憚られて、ベルナデットは気づかれないように気を付けながらも急いでその場を離れた。


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