ベルナデットはいつもと違う放課後を過ごす
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「お嬢様、今日の放課後なんですがちょっと用事がありまして。申し訳ありませんが今日の訓練にはお付き合い出来ません」
夏季休暇が明けて暫く経った頃、アランからそんな珍しい事を言われてベルナデットはぱちりと目を瞬かせた。
「用事?」
「はい、ちょっと寮の同室の奴に頼まれ事をされまして」
「そういえばアランのルームメイトの話って聞いたことなかったわね。どんな人なの?」
「伯爵家の使用人らしいです。いい奴ですよ」
ベルナデットは学園に入ってからも寮以外では常に一緒にいるアランに友達がいるのか密かに心配していたのだが、答えたアランの様子を見てちゃんとルームメイトと上手くやっているようだとほっとした。
(そういえば訓練相手にしようと無理やり屋敷に引き取った時もすぐに馴染んでたわね。馴染んでたどころか一部の使用人たちからはめちゃくちゃに可愛がられていたから驚いたんだったわ)
その時はアランの境遇も含め屋敷の人間には情報共有されていたから同情と子供だからということで可愛がられていたのかと思っていたが、大きくなった今でも変わらず可愛がられている様子からそういう理由ではなくアランがアランだから可愛がられているのだろうと気づいた。学園でもきっとそれは同じなのだろうとベルナデットは妙に確信を持って思いひとつ頷く。
「そうなのね。わかったわ、じゃあ今日は1人で訓練場へ行くわね」
「駄目です」
「駄目!?」
アランが用事があるのなら仕方ないとそう答えると、間髪入れずアランから駄目だと言われベルナデットは思わず聞き返した。それにアランは神妙に頷く。
「はい、駄目です。リディから『絶対に何があってもお嬢様を1人で行動させないように』と厳命されていますので」
「前から不思議なのだけれど、貴方とリディは対等な立場の筈よね?」
「僕もリディの意見には賛成だったので」
「信用ないわね!?」
「いえ、寧ろ信用しているからこそですよ」
確かに何かやらかすかもしれないという不安が無い事もないが、それより2人が心配しているのはベルナデットを1人にしたら悪い虫が寄ってくるであろうことである。
実際教室や訓練場でチラチラとベルナデットに声をかけたそうに、アランを邪魔そうに見る視線を受けることが度々あるのだ。
そんなことを全く知らないベルナデットはアランの返事の意味が分からず首を傾げて考えている。
「良く分からないけれど、貴方たち私の事を珍獣か何かかと思っていない?」
「そんなことないですよ。とにかくそういう事なんで、放課後はリディが迎えに来ますからね」
どういった結論に及んだのか不満そうに口を尖らせそんなことを言うベルナデットだったが、アランに苦笑しながらそう言われて渋々と頷いた。
放課後、約束通りリディが迎えに来たのをきっちりと見届けてからアランは教室を後にした。
「それではお嬢様、訓練場に向かうんですよね?」
「そうねぇ……」
リディの問いかけにベルナデットは曖昧に返事をしながら考えた。
今日は元々アランと手合わせをするつもりだったが、そのアランがいないとなればそれは出来ない。
リディは軽い護身術程度は身に着けているが、ベルナデットの相手となると荷が重いだろう。それにリディは別に訓練が好きなわけではないだろうし、そんな彼女につき合わせるのも気が引ける。
「リディは放課後いつも何をして過ごしているの?」
「私ですか? 授業の予習復習ですかね」
「え? テストはまだ先よ?」
「日々の積み重ねが大事なのですよ、お嬢様。お嬢様も今日から一緒にやりますか?」
「邪魔をしては悪いから遠慮しておくわ! 他には何かあるかしら?」
テスト前の友達との勉強会はそれはそれで青春っぽくて楽しかったのだが、それはそれとして勉強が好きになった訳では無い為、テスト前でもないのに勉強をするのは全力で遠慮したいベルナデットである。
リディも断られることは想定通りだったようで、呆れたようにひとつため息をついた後ベルナデットの質問について考えた。
「そうですね、大体はグレース様とエステルと一緒にいます。中庭でお茶を淹れながらお話をしたり、魔法の練習をしたり、ああ、近くの商店まで買い物に行ったこともありますね」
「そうなの!? 私も行きたかったわ!!」
「そう仰ると思って何度か呼びに来たのですが、5度目に『訓練場へ行ったよ』と言われた時に諦めることにしました」
「それは申し訳なかったわね」
何度も無駄足を運ばせてしまったことを申し訳なく思って謝罪をしたベルナデットだったが、ふとあることに気づいた。
「ねえ、それ朝に伝えておいてくれたらいいだけの話よね?」
「グレース様は思い立ったら即行動の方ですからね。直前まで予定は未定です」
そう答えたリディを見てベルナデットが何とも言えない顔をした。
「買い物に行きたいのでしたら、グレース様にそう伝えておきますよ? たぶん喜ばれると思いますし」
リディはそんなに買い物に行きたかったのかと思いベルナデットにそう尋ねたのだが、そうではなかったらしく、笑顔になると思ったベルナデットの顔は微妙なままだ。
「買い物ではなくお茶が羨ましかったですか?」
「いえ、そうじゃなくて、いえ、羨ましいのもあるのだけれど……」
「?」
「なんだか、リディがまるでグレースの侍女みたいだなって思ってしまって、ちょっと寂しくなってしまって……」
ボソボソとそんなことをベルナデットが言い出すものだから、リディはスンと真顔になってベルナデットを抱きしめた。
「うちのお嬢様がこんなにも可愛い」
一方抱きしめられたベルナデットは自分が随分子供っぽいことを言ってしまったと気づき、途端に真っ赤になった。
「リディ、リディ! 恥ずかしいからさっき言ったことは忘れてもらえるかしら!?」
「無理です」
「無理!?」
「無理です。私の脳はお嬢様に関することはどんな些細な事でも忘れないようになっていますので」
「凄いわね!?」
「愛です」
「それはありがとう!?」
「ふふ」
アワアワしながらも喜んでいる様子のベルナデットに、リディも嬉しそうに微笑んだ。




