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ベルナデットは初めて魔物を退治する


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 無事にアランがベルナデットの侍従見習いとしてディアマン家に引き取られて1週間後、ベルナデットは再びグラースの森にいた。

 理由は前回アランを連れて帰ったことで中断されてしまった初めての魔物退治のやり直しである。


「なにがでるかな♪ なにがでるかな♪」 


 相変わらずご機嫌に歌いながら歩くベルナデットに、相変わらず気づかれないようにマティアスがついていく。

 マティアスは前回遅れをとってしまったことを反省し前回以上に緊張感を持って尾行していたのだが、またもやベルナデットが何かに気づいて立ち止まり、マティアスが嫌な予感を感じた瞬間には彼女は脇の茂みに飛び込んで見えなくなってしまった。

 大慌てでマティアスはベルナデットが居たあたりを探したが、その姿は忽然と消え去りそこには何も残っていなかった。



「すごい場所を見つけてしまったわ!」


 興奮気味のベルナデットがいるのは、先ほど姿を消したところからそう離れていない場所だった。

 彼女が脇の茂みに魔物がいないか目を凝らしていると、偶然木の根元に草に隠れて子供が四つん這いで通れるくらいの穴が開いているのを発見した。

 秘密基地というものに憧れていたベルナデットは、危険な生き物の巣ではないか、という可能性など思いつきもせず、躊躇なくその魅力的な穴に飛び込んだ(その際マティアスにとって不幸なことに、ベルナデットが飛び込んだ勢いで周りの土が崩れ穴の入り口が隠れてしまった)。

 穴は最初は緩やかに下っていたが、すぐに上りに変わり同じように草で隠された出口に辿り着いた。

 穴から這い出たベルナデットは歓声を上げた。

 そこは森の中にありながらそこだけ切り取られたように木が生えておらず、たくさんの花が咲いており、陽の光がスポットライトのように降り注いでいた。


「こんな場所があるなんてお兄様もセリーヌも言っていなかったわ! これは私の秘密基地にしていいんじゃないかしら? 花畑のステージみたいでとっても素敵じゃない?」


 テンションが上がりきったベルナデットはそこから奇跡のような偶然を起こした。

 まず情熱の赴くままに陽の光の中くるくると歌いながら踊りだした。

 するとたまたまつけていたガラスの髪飾りが陽の光を反射した。

 それがいつもは森の奥深くにいて人前に現れることはないのにたまたまいつもと違う場所を飛んでいたオングルという怪鳥(森の主)が見つけ、獲物と認識してしまった。

 オングルは並みの大人ではついていけないスピードと刃物のような鋭い爪を持っており、その能力から狩りをするときは一直線に獲物に飛び込み爪を突き立てる。

 オングルがベルナデットに向かって急降下したタイミングで、たまたまベルナデットが大きくのけぞって腕を振り回す動きをした。

 するとたまたまオングルの爪をベルナデットが見事に躱す形になり、本当にたまたま今日つけていた母からのプレゼントであるダイアモンドのブレスレットがオングルの急所である喉元にクリーンヒットした。


「え!? なになに!?」


 突然の手への衝撃と、ドサリと重いものが落ちる音にベルナデットは慌てた。

 音がした方を見ると、赤い大きな鳥の魔物が目を回していた。


「……ごめんね? 鳥さん」


 何が起きたのかいまいち分かっていないベルナデットは、たまたま近くを飛んでいた罪のない鳥を殴ってしまったと思い気絶する鳥に向かって謝罪した。

 それはそれとして、とりあえず今日の目的である魔物退治を無事達成した証拠としてその大きな赤い羽根を一枚拝借しポケットに突っ込んだ。


「よし、かーえろ♪」


 殴ったお詫びと羽のお礼としてオングルの横にその辺で集めた木の実を置いて、ベルナデットは来た穴を戻っていった。

 穴を抜けると半泣きのマティアスに抱きしめられ、心配しなくてもちゃんと魔物退治はしてきたわと誇らしげにオングルの羽を見せると、褒めてもらえるとばかり思っていたベルナデットの予想とは異なり真っ青になった彼に担いで屋敷まで連れていかれた。



「問題ないですね」

「だからそう言ってるのに、先生もみんなも大げさだわ」

「そりゃあオングルの羽なんか持ってたら心配なされるのは当然ですよ」


 ベルナデットを抱えて血相を変えて屋敷に帰ってきたマティアスが彼女が採ってきたオングルの羽を見せると、屋敷はちょっとしたパニックになった。

 執事のルシアンは大急ぎで医者を呼び、ジェレミーとリディは何度もベルナデットに怪我はないか確認し、連絡を受けたランベールとレティシアは屋敷まで飛んで帰ってきた。


「それにしても、あの森にオングルなんていたんですね」


 診察を終えた後念のため1日安静を言い渡されたベルナデットの元に様子を見に来たアランが言った。


「アランはオングルを知っていたのね」

「何言ってるんですか? この辺の危険な魔物については平民の子供でさえ真っ先に教えられますよ」

「……そうだったかしら?」

「お嬢様、次回は魔物のお勉強にしましょうか」

「うー……紙の上で説明されても覚えられないのよね。実物を見たら覚えると思うから、その時に覚えるんじゃダメ?」

「それが凶悪な魔物だったらその時点で死にますよ?」


 アランから呆れた顔をされ、ベルナデットは余計なことを言ってしまったと目を逸らした。

 アランが来てまだ1週間だが、ベルナデットが勉強が苦手なことは既によく知られている。

 ベルナデットにとっては都合が悪いことにアランは勉強が得意だったようで現時点で既にベルナデットより知識があり、アランと剣術の稽古をと希望した時間は現時点ではまだアランの剣の実力が伴わないとして、アランから勉強を教えてもらう時間へと変貌していた。


(けどなんかお嬢様だったら普通じゃないから凶悪な魔物にも普通に勝ちそう)


 アランは口ではああ言ったが、内心ではそんな失礼なことを考えていた。


「お嬢様って恐いものとかあるんですか?」

「まあアラン! 弱点を自分から教えるわけないじゃない」


 自分で聞いたものの、恐いものなど何もないだろうと思っていたベルナデットからの意外な反応にアランは興味がわいた。


「それは敵に対しての話ですよね? ぼくは使用人なんですから知ってたらお嬢様をお守りできるじゃないですか」

「いいえ! 私がそれに遭遇しなければいい話ですもの!」

「お嬢様はぼくを信用してないんですか?」

「そうじゃないわ! けど、えっと、その……」


 頑なに教えようとしないベルナデットにアランが悲しそうな顔を作ってそう言うと、ベルナデットは大いに焦ってあたふたしだした。

 しかしやっぱり言いたくないらしく、もごもごと意味のない言葉を呟いている。


「は、恥ずかしいじゃない?」


 やがて観念したように赤い顔で告げられたのはそんな言葉で。

 アランはそこまでベルナデットが言いたくない恐いものとは何だろうと気になりながらも、この様子では絶対に教えてくれないだろうとひとまずは追及を諦めた。


 しかしその答えは数日後にあっさりと判明することになる。

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