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◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「本当に大丈夫?」

「ええ。軽い切り傷ですよ」


 強盗を衛兵に突き出した後、レティシアへのお土産を買いたいと言うとお礼だと言って一番上等だというブローチを店長がプレゼントしてくれた。

 全てのお土産を買い終わったので馬車に戻る為歩いていると、包帯を巻かれたアランの手を見ながらベルナデットが不安そうに尋ねた。


「けれど痛いわよね? 私に出来ることなら何でもするから何でも言ってね」

「お嬢様、『何でも』なんて言っては駄目ですよ? 何を要求されるかわかりませんから」

「分かっているわ。けどアランなら大丈夫でしょう?」

「うう゛ん……まぁ、はい、そう、ですね」


 アランは信用されていると喜ぶべきか、男と見られていなさそうと悲しむべきか迷い何とも言えない返事をした。

 それに不思議そうな顔をしているベルナデットに、アランはひとつ咳ばらいをして話題を変えた。


「それにしても、お嬢様があんなに取り乱すとは思いませんでした」

「だって怖かったんだもの……血もいっぱい出ていたし」

「血ぐらいよく見るでしょう? 旦那様やジェレミー様もよく怪我をしているじゃないですか」

「お父様とお兄様は死にそうにないもの」

「それ本人に言わないで……いや、言っても喜びそうですね」

「私もそう思うわ」


 2人して笑った後、ベルナデットが真剣な顔になる。


「怖かったのは血ではなくて、私を庇ったことでもしかしたらアランが死んでいたかもしれないと思ったから。アランがいなかったら私は大怪我じゃ済まなかったかもしれないし、助けてくれたことに関しては本当に感謝しているわ。けど、私はアランが居なくなるなんて絶対に嫌。それだけは覚えておいてね」


 ベルナデットの熱烈な言葉に、アランは何か言わなければと口を開いたが結局なんと答えて良いか分からず、バクバクとうるさい心臓の音を聞きながらなんとか頷いた。それを見たベルナデットが安心したように笑うから、またひとつアランの心臓が大きく跳ねる。


 それから馬車に戻るまでベルナデットはどうにかして身体強化を保ったまま他の魔法が使えないかについて真剣に考えていた為、幸いなことに動揺したままのアランを不審に思うことはなかった。




「全く、だらしないわね」


 屋敷へ戻る馬車の中、事のあらましを聞いたリディはため息をつきながらそう言い放った。


「身体強化を使っていたのでしょう? だったら無傷でお嬢様を守りなさいよ。それとも何? お嬢様に心配してもらいたかったわけ?」

「分かってるよ……」


 リディはわざと傷に響くようにアランの手をぎゅっと握ってから、薬を塗る為簡易的に巻かれていた包帯を丁寧に解いていく。握られた瞬間痛みで顔を顰めたアランだったが、それがリディからのベルナデットを泣かせたことへの抗議だと思った為何も言わずに甘んじて受け入れた。


「リディ、アランは私を守ってくれたのだからもっと労ってあげて?」

「お嬢様を守るのは当然のことで労うようなことではありません。それにお嬢様なら同じ状況でも無傷で制圧出来たでしょう? 甘やかしてはいけません」

「そんなことないと思うわ。私が先に店に入ったから後ろにいたアランからは中の様子は見えなかったと思うし」

「……分かっています。ただの八つ当たりですから気にしないでください」

「いや気にするわ。八つ当たりだったのかよ」

「それが何か?」


 ベルナデットは仏頂面でアランの治療を続けるリディに苦笑した。

 リディが怒っているのは自分自身に対してだろう。自分が『身体強化を使わない』という約束をしたことがアランの怪我に繋がったと思っているのだ。

 けどそれもきっと半分だけで、もう半分はきっと素直でないリディなりのアランへの心配によるものだ。ベルナデットに心配をかけたことなどただの言い訳に過ぎない。


 そのことがいまいち分かっていないアランだったが、とりあえずもう二度とこんなことが起きないようにもっと鍛えようとリディの荒い治療の痛みに呻きながら決意した。

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