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お土産選びは順調に進んだ。それはアランが王都の店について詳しく、良いお店を選んでくれたことが大きかった。
何故そんなに詳しいのか不思議に思ったベルナデットが尋ねると、同室の生徒が王都在住らしくいろいろと教えてくれるらしい。
「後はお母様へのお土産ね!」
「奥様でしたら……こちらのお店は如何ですか?」
少し考えた後、アランが示したのはジュエリーショップだった。
「良いわね! ブローチなんか喜ぶんじゃないかしら!」
ベルナデットは意気揚々と店の扉を開けた。少し高級そうではあるが、髪を切ってしまったことを誤魔化すにはこれくらいの方が良いかもしれないという打算もあった。
「…………あら?」
店に入ったベルナデットはその場で固まった。
店の中には店員らしき女性が1人、店員らしき男性が1人、それから明らかに客という雰囲気ではない、仮面で顔を隠した推定男が3人。
店員らしき女性はナイフのようなものを突きつけられており、店員らしき男性は手足を縛られ目と口を塞がれた状態で転がされている。
残った仮面の推定男2人はショーケースの中の商品を袋に詰めている。
どう見ても強盗の現場だ。
突然のベルナデットの登場に店の中は一瞬静まり返ったが、いち早く我に返った袋詰めを行っていた推定男の1人がベルナデットに向けてナイフを投げた。
普段のベルナデットならナイフを投げようとする動作を見た瞬間に相手を取り押さえるくらい簡単なのだが、タイミングの悪いことに今のベルナデットは身体強化を解いた状態であり、視力も反射神経も運動能力も普段には遠く及ばない。
結果ベルナデットがナイフに反応できたのはそれが目前に迫った頃で、出来たことといえばぎゅっと目を瞑るくらいのことだったのだが。
いつまで待っても襲ってこない痛みに恐る恐る目を開けると、仮面の推定男3人の姿が消えていた。
パチパチと目を瞬かせてよく見ると、仮面の推定男は消えたのではなく3人とも床に倒れており、いつの間にか店に入っていたアランが店員らしき男性の縄を解いているところだった。
ベルナデットがその様子を眺めていると、ハッとした店員らしき女性が慌ててアランに駆け寄った。
「店長は大丈夫ですから! それより貴方! 手が!」
「あー、ええ。大した事ないのでお気になさらず」
「ナイフが刺さったのにそんな訳ないじゃないですか! すぐに病院へ! いえ、まずは消毒と応急処置を……!」
「あ、いや本当に!」
女性はアランの言葉を無視し、慌てた様子で店の奥へと救急箱を取りに走って行った。
それを止めようと伸ばしたアランの手はダラダラと大量の血が流れており、それに気づいたベルナデットはひゅっと息をのんだ。身体が震えて、今すぐ駆け寄りたいのに固まってしまったかのように足が動かない。
アランはため息をついてから縄を解く作業に戻り、目と口を塞いでいた布も解き、お礼を言う店長と呼ばれた男性と一言二言言葉を交わしてベルナデットの方に戻って来たのだが、ベルナデットの様子を見てぎょっとして慌てて駆け寄って来た。
「お嬢様!? 大丈夫ですか、お顔が真っ青ですよ!? え、もしかして強盗が怖かったですか? すみません気づかなくて! もう大丈夫ですよっ……!?」
アランがおろおろとしながらベルナデットを宥めようとしているが、ベルナデットは目の前でふらふらと彷徨う手が気になって全く耳に入ってこない。
その手の傷を見て、ベルナデットはそれが自分を庇って出来た傷だと気づき、ぼろりと涙を零した。
今度は赤い顔でボロボロと涙を流し始めたベルナデットは、絶句するアランに勢いよく抱き着いた。
「うぇぇぇぇぇぇぇえん!! 私のせいでアランが死んじゃうぅぅぅぅ!!! いやぁぁぁぁ!!!!」
「お、落ち着いてくださいお嬢様!! 死にませんから!!」
「死ぬほど酷いの!? やっぱり急いで病院に……!!」
「アラン死なないでぇぇぇうぁぁぁぁぁん!!」
「だから死なないって言ってるだろ!?」
「おやおや、愛されてるねぇ」
「見てないで助けてください!!」
抱き着きながら号泣するベルナデットに、救急箱を取りに行った女性が蒼褪めて誤解し、その女性の言葉を聞いて更に泣くベルナデットという悪循環。
そんな2人を必死で宥めようとするアランの様子を見て、にこにこと呑気に笑っている店長。
カオスなその状況が落ち着くころにはアランはすっかり疲弊していて、強盗なんかよりよっぽど大変だったと後にリディに語った。




