表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/70

2


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「とりあえずお嬢様はこれからですかね?」

「絵本ね! これなら楽しく読めるわ!」


 放課後、ベルナデットはアランと最近恒例になっている図書室に来ていた。

 初日はシャルルとクロエが居たため逃げるように部屋を出たが、それ以降は2人の姿を見かけることもなかった為そのまま近くの読書スペースで本を読んで帰るようにしている。借りて帰ったとしてもベルナデットだけでは確実に読まないからだ。

 ベルナデットは「毎日図書館に通っているなんてまるで賢くなったみたいじゃない?」と思っているが、集中力が続かない為滞在時間は長くて30分程度である。そして図書室から出た後は真っ直ぐ訓練場に向かいリディ(保護者)が迎えに来るまで体を動かしている。


 アランも何やら小難しそうな本を手に取り2人で近くの読書スペースに向かうと、そこには先客が居た。

 先に読書をしていた男子生徒は2人が来たことに気づきちらりと視線を向けた後、ベルナデットが持っている絵本に視線を移した。


(彼、確か同じクラスだった気がするわ。名前は、名前……)


 同じクラスだということは辛うじて思い出したが、話したこともない上クラスメイトの自己紹介も右から左だったベルナデットには彼の名前を思い出すなどという高度なことは出来なかった。


「やあディアマン嬢。と、アランだったかな?」

「はい、サフィール様。僕の名前まで憶えてくださったんですね」

「この学園では『全ての生徒は平等』らしいからね。ところでディアマン嬢が持っているのって、聖女の絵本だよね? 小さな子供が最初に読むやつ」

「ええ。カロリーヌ殿下のことがあったので、懐かしくなって思わず手に取ってしまったんですよね?」

「え、ええ。そうね」


 ベルナデットが何か言う前に、アランが横から答えて選択肢のない返事を促した。それに対し「ふうん」と興味のない返事をした後、今度はアランの持っている本を見て少し驚いたような顔をした。


「君、それ読むの?」

「え? ええ。面白そうだなと思って」

「それって聖女に絡めてはいるけどほぼ医学書だよ?」

「ああ、パラパラとしか見ていませんがそんな雰囲気でしたね。けれどサフィール様のような方からすればそれこそ小さな子供の頃に読むような内容でしょう?」

「へぇ。オレの父の事も知ってるのか」

「勿論です。高名なお医者様で、王家の主治医でもあられる方を知らない方が珍しいですよ」


 その珍しい方であるベルナデットは平静を装いながら、アランの言葉を聞き精一杯目の前のクラスメイトの情報を集めていた。とりあえず名前はサフィールで、父親が誰もが知るような有名な医者らしい。ベルナデットは全くピンとこなかったが。

 もしサフィールから何か聞かれたらどうしようとドキドキしていたベルナデットだったが、いつの間にか2人がベルナデットにはとても理解出来ない小難しい話題で盛り上がり始めたので、彼の事はアランに任せておけばいいかと安心して読書を始めた。


 可愛い絵と優しい色使いの絵本をゆっくりと楽しみ、本を閉じた時にはもうそこにサフィールの姿は無かった。


「いつの間に……」

「あ、読み終わりましたか? 随分集中してましたね」

「ええ、とってもいい絵本だったわ。コレットにも読んであげたいくらい」

「そういえばコレット様がまだ幼い頃はよく絵本を読んであげていましたよね」

「ええ。けどどんどんコレットが賢くなってしまったから、私があまり勉強が得意でないことがバレる前に読み聞かせは止めることにしたの」

「そんな理由だったんですか」

「だって理想の姉で居たいじゃない」

「心配しなくてもお嬢様がどれだけ勉強が出来なかったとしてもコレット様がお嬢様に失望することなんて絶対にありませんよ」

「それは嬉しいのだけれど、さり気なくバカって言っているわよね?」

「そんなこと言ってませんよ?」


 ベルナデットにジトっとした目を向けられて、アランはサッと目を逸らして席を立った。

 ベルナデットは不満そうな顔をしながらアランの後に続き本を元の場所に戻したが、図書室を出る頃にはすっかり機嫌は直っていた。頭の中は既に今日の訓練は何をしようかということでいっぱいである。


「ところでお嬢様。先程図書室でお話しした方、ご存知でしたよね?」

「ほとんど知らないわ。……あ」


 訓練の事に思いを馳せていたベルナデットはアランの質問に特に深く考えず素直に答えてしまい、しまったと思ったが遅かった。

 お小言を言われるかと思いちらりとアランを伺ったが、ちょっと呆れたような目をして「だと思いました」と言われただけで終わり、ベルナデットはそれはそれでモヤっとするなと思った。


「エルネスト・サフィール様。同じクラスなことは分かってますよね?」

「もちろんよ!」

「良かったです。先程話していた通り、彼の父親は高名な医者で王家の主治医も務めています。その為恐らくですが彼自身も王家の方と親しいのではないでしょうか」

「そうなのね! けど、カロリーヌとは特に親しい感じはしないわよね。一緒にいるところを見たことないし」

「少し話しただけの印象ですが、サフィール様は何て言うか……必要以上に人と馴れ合う感じでは無さそうでしたからそのせいじゃないですかね?」

「確かに何となくだけどカロリーヌと合う感じじゃなさそうだったわ。シャルル殿下とは……うーん、あまり想像出来ないわね」

「そうですねー……あ。もしシャルル殿下と仲が良いのであれば、グルナ様とも親しいかもしれませんね」

「た、確かに……サフィール様にも口止めしとくべきかしら……」

「……とりあえず、来週のグルナ様との手合わせの時にでも聞いてみたらいいんじゃないですか?」

「それもそうね!」


 そういえば来週はエリックとの約束の日だったと思い出しご機嫌で返事をした後、どこか元気のないアランに気づいて首を傾げた。


「どうしたの?」

「あ、いや、何でもないです!」

「本当? ちょっと元気がないみたいだけど……悩みがあるなら聞くわよ?」

「や、本当に! あれです、サフィール様と話すのに緊張していたのでその気疲れがでただけですよ!」


 明らかに何か誤魔化しているアランの態度が気になったものの、きっとこれ以上聞いても話してくれないだろうと思いベルナデットはちょっと寂しく思いながら聞き出すのを諦めた。


「ならいいのだけれど……けど、本当に何かあったら言ってちょうだいね? アランは私にとって大切な家族みたいなものなんだから」

「それは、どう受け止めたらいいんだ……」

「え?」

「何でもないです。ありがとうございます、じゃあもし何かあったら言いますね」

「絶対よ?」

「分かりました」


 アランが小さく何かを呟いたが聞き取れなかった為聞き返したのだが、笑顔で誤魔化されてしまいベルナデットはまた少し寂しくなった。

 しかし何かあったら必ず言うとは約束してもらえたので、とりあえず今はそれで納得することにしこのモヤモヤした気持ちを吹き飛ばすべく訓練場へと急いだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ