ベルナデットは聖女について学ぶ
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「適正診断って、私も受けられるのかしら」
「良く分からないですけど大丈夫じゃないですか?」
「清々しい程にいい加減な返事ね」
「だってこの質問もう15回目ですよ」
物凄く多忙らしいクラリスの予定に合わせて組まれた魔力制御の授業は、前回の授業から2週間が過ぎた頃だった。
前回の授業の終わりに「次回は魔法の適正診断を行う」とクラリスが言っていたが、結局未だに自動身体強化の解除方法が分かっていないベルナデットは不安で仕方がない。
あれから何度か図書室に行ったのだが、魔法に関する本はとてつもなく多く、内容も多岐に渡る為結局必要な本を見つけ出すことが出来なかったのだ。見つけ出せなかったのはうっかりアランにリディとした予習復習の話をしてしまって、ついでとばかりに勉強させられたせいもある。
「皆さん集まっていますね。それでは授業を始めます」
前回同様時間ピッタリに姿を現したクラリスは、現れたと同時に授業を開始した。
「今日は前回予告した通り、皆さんの魔法の適正診断を行います。これは各個人の魔法適正を判定する魔道具です。仕組みや結果の読み方は機密事項の為残念ながらお教えすることは出来ませんが」
そう言ってクラリスが掲げたものは、ベルナデットには前回の授業で使用した魔道具と同じに見えた。
「魔道具って全部あの形なの?」
「そんなことありませんよ。ただ用途が似ていると形も似ていることが多いですね」
「似ているというか、私には同じに見えるのだけれど」
「同じでは……」
「そこ、私語をしない」
「「すみません」」
つい気になったので隣のアランに尋ねていると、それに気づいたクラリスに揃って叱られてしまった。素直に謝った2人にクラリスはそれ以上何も言わず説明に戻ったが、ベルナデットは叱られたというのになんだか青春しているような気分になってしまって、いけないと思いながらも思わずにやけてしまった。それを見たアランは怪訝な顔をしたが、今叱られたばかりなので何も言わなかった。
「では名前を呼ばれた方からこちらに来てください。アベル・カルシット」
どうやらアルファベット順に呼ばれているようで、アランは早くに呼ばれて何やら魔道具を操作した後、クラリスと一言二言言葉を交わして戻って来た。
「あっという間なのね。結果は聞いても良いものなのかしら?」
今なら話をしていても大丈夫そうだと周りを確認してからベルナデットはアランに尋ねた。
「魔法適正を聞くのはマナー違反ではないので誰に聞いても大丈夫ですよ。僕の適正は雷らしいです」
「適正は1人1属性なの?」
「大抵の人はそうらしいですけど、2属性適正がある人はわりといるみたいですよ。3属性以上適正があるのは稀ですね。ああそういえば、シャルル殿下は全属性適正があるらしいと聞いたことがあります」
「まあ、やっぱりすごいのね」
「『やっぱり手合わせしてみたいわ』とか言うのは止めてくださいね」
「……やーねアラン、そんなこという訳ないじゃない」
「その間が信用出来ないんだよなぁ」
「あ! 呼ばれたわ! 行ってくるわね」
呼ばれたのをこれ幸いとばかりにクラリスの下へかけていくベルナデットの後ろでアランがため息をつくのが聞こえたが、ベルナデットは聞こえないフリをした。
「ではディアマンさん、これを両手で握ってください」
クラリスに促され、ドキドキしながらベルナデットは前回使ったものと同じような魔道具を両手で握った。
するとすぐにリング全体が淡く光った後、数か所がチカチカと明滅し全ての光が消えた。
「ディアマンさんは『無』です」
「えっ。適正が無いってことですか?」
ベルナデットはやはり身体強化を使っているせいで適正が出なかったのかと思ったが、どうやらそうではなかったようでクラリスが首を横に振った。
「無いのではなく、適正が無属性ということです。身体強化を無意識に発動できていますしまあ妥当でしょう。では次、カロリーヌ・オルタンシア」
ちゃんと適正診断が出来たことに安心して、ベルナデットはすれ違ったカロリーヌと微笑み合ってからアランの下へ戻った。
「ちゃんと反応してくれて良かったわ」
「お疲れ様です。お嬢様はやっぱり無属性ですか?」
「どうして分かったの!?」
「寧ろ最近あれだけ魔法関連の本を読んでおきながら何で分からないと思うのですか?」
どうやら最近読んだ本の中に属性の話も載っていたらしい。
ベルナデットはどうせ授業で習うのだからと必要な情報が載っていそうなところ以外は読み飛ばしていた為、何の属性があるのかさえあまりよく分かっていない。
そのことがバレてしまう前にとベルナデットは話題を変えた。
「そういえば適正属性以外の属性の魔法って使えないの?」
「そんなことないですよ。知っての通り聖属性は『聖女』以外は使えませんが、他の属性は精度は劣りますが使うことなら出来ます」
「聖女?」
「……え? お嬢様まさか……」
聞き慣れない言葉に首を傾げてアランを見ると、アランに信じられないものを見る目を向けられた。
もしかして皆知っていることなのかしらと何を言われるか身構えていると、アランが何か言う前にざわりと前方にいた生徒たちが騒がしくなったので2人して視線をそちらに向けた。
クラリスの前にはカロリーヌが魔道具を持って立っている。その表情は困惑しており、顔色も悪いように見える。
ざわつく生徒たちの声に耳を傾けてみると『聖属性』や『聖女様』などといった声が聞こえた。
「皆さん! 申し訳ありませんが少しの間自習しておいてください!」
真剣な顔でそう言ったクラリスがカロリーヌとイザベルを連れて消えてしまった為、グラウンドは騒然となった。
「アレクサンドリット先生、聖属性って言ったよな!?」
「聞いた聞いた! ってことはそういう事だよな!?」
「カロリーヌ殿下が聖女様ってすごく納得だわ! とても綺麗で聡明でいらっしゃるもの!」
「聖女様と同じクラスだったなんて感激だわ! 私、次にカロリーヌ殿下と会った時平静でいられるかしら……」
(ふーむ、なるほど?)
漏れ聞こえて来たクラスメイトの会話によると、どうやら先程アランが言っていた聖女しか使えないと言う聖属性の適正がカロリーヌにあったらしい。
何が起こったかは分かったが、聖女が何か分からないベルナデットにはそれで何故皆が騒いでいるのかが分からない。響きからして凄そうではあるが。
ちらりとアランの方を見ると、想像した通りの呆れた顔をしていた。
「まさかお嬢様が聖女さえ知らないとは思いませんでした」
「だって誰も教えてくれなかったもの」
「絶っっっ対にそんなことは無いと思います。聖女の話は歴史の勉強を始める時1番最初に必ず教わっている筈です」
アランの言葉にベルナデットは納得した。1番最初と言えばベルナデットが前世を思い出す前、つまりやる気が全く無かった頃だ。記憶にないのも当然である。
「私生まれてから5歳までは反抗期だったからほとんど先生たちのお話を聞いていなかったのよね」
「随分早い反抗期ですね」
「反省はしたし、5歳からはちゃんと心を入れ替えたわ」
ベルナデットの言い訳にひとつため息をついてから、アランは聖女について教えてくれた。
聖女というのは浄化と癒しの加護を持つ者のことで、世界にたったひとつのその魂は太古から今に至るまで生と死を繰り返し連綿と受け継がれているとされているらしい。
建国に関わっていたり、王族滅亡の危機を救ったり、王国滅亡の危機を救ったりとそれはそれは重要な存在らしく、最初だけでなく歴史の勉強をしていると度々その存在が出て来た筈だと言われたが、ベルナデットはその全てを綺麗に聞き流してしまっていたようだ。
「つまりとっても凄いってことね!」
「まあ間違ってはいませんが、本当に分かりましたか?」
「カロリーヌがそのたった1人の凄い聖女様ってことよね?」
「……今日は聖女のお勉強にしましょうね」
程なくしてクラリスたちが帰ってきて授業が再開されたが、ベルナデットはやはりカロリーヌの様子がおかしいように見えて首を傾げた。




