2
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「驚いたわ」
「驚きましたね」
まさかシャルルに遭遇するとは。
けれどそれ以上にベルナデットは危機的状況を回避出来たことにホッと胸を撫でおろした。
「危うく図書室デートの邪魔をしてしまうところだったわ」
「え」
ベルナデットの零した呟きにアランがピタリと固まった。
どうかしたのかしらとベルナデットが思っていると、アランが動揺しながら尋ねた。
「シャルル殿下と、アンブル様は、その……そうなのですか?」
言葉を濁すアランに、ベルナデットは「そういえばこの話をしたのは女子寮の食堂だったわ」と思い出した。
「カロリーヌが言うにはそうらしいわ」
ベルナデットの返事を聞いてアランはぎょっとした。
「お嬢様、ご本人の前でなくても呼び捨ては不敬です」
「あら、本人の前でも呼び捨てよ? カロリーヌがそうして欲しいって言ってて、リディもそれでいいって言ってたもの」
それを聞いてアランはとても苦い顔をして、きっとリディも同じ気持ちだっただろうと心の中でそんな同僚のことを労った。
「あ。けどお2人の婚約の事は内緒らしいから気を付けてね」
「内緒って、僕にあっさり話してるじゃないですか」
「だってアランとはいつも一緒にいるからこのことも一緒に聞いたと勘違いしてしまったのだもの。それに、アランになら別に話しても問題ないと思うわ」
「そ、うですか。分かりました、気を付けます」
ベルナデットはカロリーヌが内緒だと言ったことをつい話してしまったことをもっと怒られると思ったが、アランはむにむにと口を動かしながらそれ以上は何も言わなかった。
心なしか少し嬉しそうに見えベルナデットは首を傾げたが、怒られないならそれでいいわと余計な事は言わないことにした。
戻って来た教室はもう誰も居なかった。ベルナデットはいつもの定位置に座り、早速机の上に2冊の本を並べて1冊ずつペラペラと捲り中身を確認した。
「思ったより字も大きいし、図解も多くて読みやすそうだわ。流石クロエ先輩!」
「本当だ。これならお嬢様でも読めそうですね」
「悔しいけどその通り過ぎて反論できないわ」
拗ねるベルナデットを見てアランが笑いながら2冊ある本の片側を手に取った。
「こっちは僕が読んで内容を教えますので、お嬢様はそちらを頑張って読んでください」
「……頑張るわ」
読みやすそうとは言ったもののやはり拒否反応が出てしまうベルナデットは少しの間躊躇うように本の表紙を眺めていたが、ちらりと既に読み始めているアランの横顔を見て覚悟を決めて本を開いた。
2冊を比較してより簡単な方を選んでくれたのだろうその本は、読み始めてみると知らないことばかりで面白く、意外にも集中でき30分程で最後まで読み切ることが出来た。
「ふう。よく勉強したわ」
「お疲れ様でした。すごく集中してましたね」
「ええ。思ったよりとても面白かったわ!」
「それは良かったです」
30分も集中して勉強したという達成感とアランの感心したような態度が相まって、ベルナデットは上機嫌である。
「それで、知りたかったことは分かりましたか?」
「うーん、理屈はわかったのだけれど……」
ベルナデットは腕を組んで先ほど読んだ内容を思い出す。
「やっぱり感覚の問題になってくるのだから、身体強化を使っていない状態が分からないことにはどうしようもなくないかしら?」
ベルナデットの読んだ本には、身体強化は強化したい箇所に向けて魔力を流し、留め、変換することで発動させると書いてあった。
その流し方や変換の方法も最初は人や魔道具に補助してもらい感覚を掴みましょうと書いてあったが、現状余剰魔力のないベルナデットではその方法は使えない。
「こちらの本には外的作用による強制解除の方法も書いてありましたが、それは単に身体強化に回した魔力を消す方法なのでそれを余剰魔力に戻せるわけではないみたいですね」
「そうなのね。使った魔力を戻す方法は無いということなのかしら?」
「どうなんでしょう? 僕の言ったのはあくまで外的作用によるものなので本人ならばその方法もあるのかもしれませんが、この本には載ってないみたいです。どちらにしても、今お嬢様に必要なのはどうにかして余剰魔力を確保する方法ですかね? でしたら恐らく別の本が必要になると思うのですが……」
「……明日にしましょうか」
ベルナデットはまたあの2人に遭遇してしまう可能性を考えてそう言うと、アランもその意図をくみ取って頷いた。
あまり進展はなかったが、参考書を1冊読み切ったことに満足したベルナデットは気分よく訓練場へ向かい、リディが呼びに来るまで目一杯身体を動かした。
「全く。訓練をするなとは言いませんが、勉強の方はしているのですか?」
「もちろんよ! 今日なんて訓練場に行く前に図書室で借りた参考書を1冊読み切ったんだから!」
食堂に向かいながらリディから小言を言われたが、今日のベルナデットはいつもとは一味違う。自ら勉強したのだと胸を張って答えれば、それを聞いた彼女は目を瞬かせた。
もっと驚くか褒められるかするかと思っていたベルナデットはリディの薄い反応に不満だったが、続けられた彼女の言葉にそれどころではなくなった。
「なんだ、ちゃんと勉強しているんですね。てっきりテストのことなど忘れて毎日訓練場に入り浸っているのかと思ってました」
「…………テスト?」
「え? その為に普段読まない参考書なんて読んだんでしょう?」
「……それっていつあるんだったかしら?」
「まだ3ヶ月は先ですよ。けどお嬢様はあまり授業を真面目に受けていらっしゃらないようなので、こまめに予習復習しておくことをお勧めしようかと思っていたところです。アランにでも言われましたか?」
「いいえ? 私も日々成長しているのよ」
「素晴らしいです。これからも継続してくださいね」
アランと同じような事を言うリディににっこりと笑って誤魔化しながら(誤魔化せたかは定かではないが)、ベルナデットは「テスト前になったらリディに勉強を教えてもらいましょう」と決めた。勉強は好きではないが、『テスト前に友達で集まって勉強会』というのも前世からの憧れの1つであったので、楽しみになってきてふふっ、と密かに笑った。




