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ベルナデットは図書室へ行く


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 オングル襲撃事件の調査は、優秀な調査員たちの手によってなんとその日のうちに完了したらしい。

 詳しくは教えてもらえなかったが原因は人為的なものだったらしく、魔物除けの結界は正常に作用していたし、犯人も捕まった為もう心配はないと言う。


「アラン、図書室に行きましょう!」


 調査が完了するまで集団行動を義務付けられていたので昨日は訓練場に行くことが出来なかった為、今日はベルナデットは授業終了と同時に訓練場へ飛んで行くだろうと思っていたアランの予想は見事に裏切られた。


「お嬢様、図書室で訓練なんてしたら怒られますよ」

「そんなことするわけないじゃない。勉強をしに行くのよ!」


 ベルナデットの発言にアランは数秒間固まった後、真剣な顔でその額に手を当てた。


「熱は……ありませんね」

「ちょっと失礼が過ぎるんじゃないかしら?」


 どこまでも真剣にそんなことを言うアランにベルナデットは不満そうに口を尖らせたが、普段の彼女を知る者であれば皆同じ反応をするだろう。


「失礼しました。ですがお嬢様が自主的に勉強をしようとするなんて初めてじゃないですか?」

「そんなこと…………そうかもしれないわね」


 ベルナデットはアランに言われて記憶を辿るが、確かに自分から勉強をしようと思ったことなど無かった。


「つまりまた一つ成長したと言うことよ!」

「そうですね。そのまま継続していけたらもっと成長出来ると思いますよ」

「無理難題を言っては駄目よ、アラン」

「いつもの向上心はどうしたんですかお嬢様。お嬢様なら出来ます。僕はそう信じています」

「なんだかとっても余計なことをしてしまった気分になったわ」


 基本素直で有言実行なベルナデットは、到底出来そうもないアランの提案には結局同意はしなかった。

 ベルナデットは未だに把握していないのだが、アランはあれから学園内の地図を全て頭に入れたらしく迷うことなく図書室まで案内してくれた。

 図書室はとても広く、中央の吹き抜けから上を見上げると3階まであるらしいことがわかった。


「ところで、何の勉強をするんですか?」

「身体強化よ」


 ベルナデットはクラリスの言葉を聞いて、最初は身体強化の授業があるまで待とうかと思ったのだが、それではそれまで魔力制御の授業に参加することが出来ないのではないかと気づいた。

 最も参加出来ないのは実技的な面の話であって、説明を聞いておけば後からいくらでも自分でやってみることは出来るのであろうがそれではつまらない。せっかくの学園生活、ベルナデットは皆と一緒に授業を受けてやった出来たと分かち合いたい。

 その為今回ばかりは苦手な自習もやってみようと思ったのだ。


 貸出受付にいた司書に大体の場所を聞いてやってきたが、本が多すぎる。

 普段物語くらいしか読まないベルナデットはタイトルを見てもその本が簡単そうかどうかさえも分からず困っていると、後ろから聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。


「ベルナデット?」

「あ、クロエ先輩!」

「ごきげんよう。相変わらず可愛いわね。今日はリディは一緒ではないの?」

「はい、今日は侍従のアランと一緒です」


 ベルナデットがクロエにそう紹介すると、アランはぺこりと頭を下げた。


「アラン、こちらクロエ・アンブル先輩よ」

「アンブルって、あの魔法省長の?」


 ベルナデットはアランの問いかけに頷きながら、やっぱり知ってるのねと内心焦っていた。

 アランもリディも同じ環境で育っている筈なのに、彼らはベルナデットが覚えていないそういった情報もよく把握している。ベルナデットは漸く自分がいろいろなことを知らなさすぎることに危機感を覚え、今度帰ったらレティシアに最低限覚えておかなければならないことを教えてもらおうと決めた。多くは覚えられない為あくまで最低限である。


「2人は魔法に関する調べもの?」


 クロエにベルナデットが見ていた棚を見て尋ねられ、ベルナデットは困った顔で頷いた。


「身体強化について知りたいのですけど、どの本を見たらいいか分からなくて」

「成程。初心者向けでいいのかしら? なら私のお勧めは……これか、これか……あ、そうだ」


 クロエは迷うことなく本を選んでベルナデットに手渡した。2冊の本を渡したところで手を止めて、良い事を思いついたとばかりににこりとベルナデットに笑いかけた。


「良かったら、私が教えてあげようか?」

「えっ!? 良いんですか!?」


 ベルナデットとしてはそれは大変ありがたい申し出だ。きっと実技も交えてくれるだろうし、ただ参考書を読むよりよっぽど分かりやすそうである。


「勿論。じゃあ早速……」

「クロエ」


 教える側なのにベルナデットより嬉しそうなクロエの声を遮るように、後ろから彼女の名前が呼ばれた。

 その人物を見てベルナデットとアランは慌てて姿勢を正す。シャルルだ。


「シャルル殿下、私今からベルナデットに魔力制御を教えようと思うの」


 嬉しそうに話すクロエに対して、相変わらずシャルルは無表情だ。ちらりと視線を向けられて、ベルナデットはとりあえず頭を下げた。


「クロエ。君は今からやらなければならないことがあるはずだけど?」

「う゛……けど可愛い後輩が困っているし……」


 クロエの返事を聞いて、シャルルは再びベルナデットを見た。


「ベルナデット嬢、クロエが必要?」

「い、いいえ! 先輩に参考書を選んで頂きましたので、私は自力で頑張りますわ!」

「それは良かった。だって、クロエ」

「ううう……ベルナデットとの楽しい時間が……」

「それはやることをやってからね。ほら、行くよ」

「ううう……ごめんね、ベルナデット、またね」

「いえ、参考書、ありがとうございました」


 シャルルとクロエが去っていくのを見送った後、姿が見えなくなって漸く肩の力を抜いた2人は同じ空間で勉強するのも落ち着かないだろうとお勧めされた本を借りて教室へ戻ることにした。

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