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◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 訓練場の一角が野次馬で溢れかえっている。

 しかしそんな周りのことなど気にもならない様子で、ベルナデットとエリックは今から始まる戦いに瞳を輝かせてお互いを見つめている。


「では武器は模擬剣のみで、相手に致命傷となる攻撃を加えた方を勝者とします」


 審判役を頼まれたアランの言葉に2人が了承の意を示した。




(まあ予想通りだな)


 仰向けに倒れたエリックの喉元に模擬剣を突き付けたベルナデットを見てアランは思った。

 エリックの剣は典型的な騎士団の剣だった。その腕前はかなりのものだとは思うが、相手が悪い。まるで変幻自在の演舞のようなベルナデットの戦い方は、騎士団の剣しか知らない彼ではまず対応出来ない。

 王子も集まったやじ馬たちも、騎士団長の息子であり男で先輩であるエリックが勝つと信じて疑わなかったようで、訓練場は人で溢れかえっているのにも関わらずまるで時が止まったかのように静まりかえっていた。


「マジかよ……」


 立ち上がったが未だ呆然としたままポツリと呟いたエリックに、ベルナデットがおずおずと声をかけた。その瞳は躊躇いがちに発せられた言葉とは裏腹にキラキラと輝いている。


「お相手いただきましてありがとうございました! とっても楽しかったですわ! それで、あの、もしよろしければまたお手合わせをお願い出来ますでしょうか……?」


 最初は元気いっぱいにお礼と感想を述べ、最後は恥じらうようにもじもじしながら上目遣いでお願いをするベルナデットに、とても今叩きのめした相手にかける言葉ではないだろうと周りの観客は心の中で盛大に突っ込んだのだが、当事者のエリックはそうは思わなかったらしい。

 一瞬の動揺の後、すぐに笑顔でベルナデットのお願いを了承した上きっちり次の約束まで取り付けてくれた。心なしかその頬はほんのりと赤い。


「ではエリック様、次回も楽しみにしていますね!」

「ああ! 次は勝つからな」

「私も負けませんわ!」


 エリックと言葉を交わした後、ベルナデットはくるりと王子の方を向いた。


「シャルル殿下、この度はこのような場を設けていただきありがとうございました」

「いや……」


 ベルナデットの言葉に軽く返事をして帰ると思われた王子は、予想に反し言葉を探すように口ごもってジッとベルナデットを見た。


「あの、何か……?」

「……いや、何でもない。ところでベルナデット嬢、『オルタンシアの乙女』って知ってる?」

「オルタンシアの乙女?」


 聞き覚えのない言葉にベルナデットは首を傾げた。


(誰か有名な人のことかしら? いえ、今の戦いを見た後で私に聞いてきたということは、きっと何か関係がある筈……技の名前とか? ううん、そんな感じじゃあないわね。だとしたら……)


「すみません、ちょっと分かりかねますわ。武器の名前か何かでしょうか?」

「いや、分からないならいいんだ。忘れて」


 ベルナデットが「これだ!」と思って告げた答えはどうやら不正解だったらしい。

 相変わらず無表情の王子はどこか残念そうにそう言って、エリックと共に訓練場を後にした。


「お嬢様、武器の名前は無いと思います」

「だって分からなかったんだもの。アランは知ってる?」

「僕も心当たりはないですね」

「でしょう!」


 アランも知らないと聞いて、素直なベルナデットは王子の言う通り『オルタンシアの乙女』については忘れることにした。

 アランも大して興味は無いようで、頭の片隅には残したもののそれ以上考えることはしなかった。というより、アランは先ほどのエリックの態度の方が気になって内心それどころではなかった。


「思ったより早く終わってしまったわね。アラン、いつもの手合わせをしましょう!」

「ええ。僕もちょっと体を動かしたい気分です」


 いつも手合わせの申し出に呆れながら仕方なく付き合っている様子のアランの珍しく乗り気な発言に首を傾げながらも、ベルナデットはそれなら遠慮なく甘えさせてもらいましょうといつもよりのびのびと体を動かした。

 結果両者時間を忘れ、いつまでも帰ってこないベルナデットを迎えに来たリディに揃って怒られた。

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