ベルナデットは予想外の訪問を受ける
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ディアマン様! あの! お客様です!」
事件の翌日の放課後、既に日課となっているアランとの手合わせをしに訓練場に向かおうとしたベルナデットに、ひどく慌てた様子のクラスメイトがそう告げた。
ベルナデットとアランは彼が走って来た教室の入り口に目を向けるが、そこに立っている教師らしき男性に見覚えはなく不思議に思いながらもそちらへ向かった。
その人物は近づいてきた2人を見て困惑の表情を浮かべた。
「自分はディアマン様を呼んだのですが……」
ご令嬢を呼んだ筈が出てきたのが男子生徒が2人じゃそりゃそういう反応になるよな、とアランは微妙な顔になってしまったが、ベルナデットはその困惑をただ自分とアランのどちらがベルナデットかわからないからだと解釈し、にっこりと笑顔で自己紹介をした。
「私がベルナデット・ディアマンですわ」
「僕はお嬢様の侍従のアランです」
「え? ベルナデット・ディアマン様? え??」
「うちのお嬢様がすみません」
ベルナデットの自己紹介に教師らしき男性は更に困惑しているが、ベルナデットはその反応に目を瞬かせた。アランはその反応にいたたまれなくなり、思わずベルナデットの代わりに謝罪した。
「なぜ男子制服を?」
「家庭の事情ですわ!」
得意げに胸を張って答えるベルナデットに何一つわからないという顔をしながらも、無理やり自分を納得させたようで彼はスッと一歩脇に避けた。どうやらベルナデットに用事があったのは彼ではなかったらしい。
彼が避けたことで見えるようになった彼の後ろに立っていた人物を見て、今度はベルナデットとアランが困惑した。
王子である。
ベルナデットは「自分は王子に呼び出されるようなことをしてしまったかしら?」と記憶を辿ってみたが、考えるまでもなく王子と接点などなかった筈だ。とすれば王女関連だろうかとも思ったが、王女とも同じクラスではあるが特にかかわりはなかったように思う。
(っていうか、王子の名前って何だったかしら? なんかシャランラみたいな優雅な感じだった気がするのだけれど…………駄目だわ。全然思い出せない)
ベルナデットがそんなことを考えている時、アランは自分が傍にいない間にベルナデットが王子と親しくなったのかと不安になりそっと彼女の顔を伺ったが、難しい顔で考え込むベルナデットにどうやらその心配はなさそうだと密かに安堵した。
「えっと……殿下、私に何か御用でしょうか?」
結局名前を思い出せなかったベルナデットは、じっとこちらを見つめたまま一向に要件を言わない王子に恐る恐る尋ねた。
首を傾げて尋ねるベルナデットに、王子はハッとして口を開いた。
「昨日の事件の事を聞いたよ。まず、勇敢な君の行動に感謝と称賛を」
入学式の挨拶の時同様王子の顔に笑みは無く、綺麗な顔も相まって酷く冷たい印象を受けた。そのせいで褒められている筈なのに全く褒められている気がしない。
「勿体無いお言葉です」
(返しはこれで合ってるのかしら? アランが何も言わないってことは大丈夫ってことよね??)
ベルナデットは内心ヒヤヒヤしながらもそれを悟られないよう笑顔で王子に言葉を返す。
「それと、妹が怪我をしなくて済んだことに対してお礼がしたい。何か欲しいものはある?」
「欲しいもの、ですか?」
「そう。僕の用意できるものなら何でもいいよ」
「殿下」
王子の言葉に、最初に2人を呼んだ教師らしき男性が咎めるように名前を呼んだ。
僕に用意できるものなら何でも。
それを聞いた時、ベルナデットはふと以前ジェレミーと話した内容を思い出して瞳を輝かせた。
「でしたら私、殿下と手合わせをしてみたいですわ!」
「お嬢様!?」
突飛な発言にアランが慌ててベルナデットを呼んで咎めたが、ベルナデットはムッと口を尖らせた。
「だって殿下とっても強そうなんだもの。お兄様はお相手していただいたことあるって言ってたもの。殿下が何でもいいって仰ってくださったんだもの。この学園では全ての生徒が平等の筈だもの」
そう、タイミング悪く今ベルナデットが思い出してしまったこと。それはフェリシテと結婚したジェレミーが彼女の父親である騎士団長の下を訪ねた際、王子が騎士団長から剣を教わっていたと言っていたことだ。
更にジェレミーは一度騎士団長に頼まれて王子の相手をしたことがあるらしいのだが、その感想が「あの王子は絶対強い。本気で戦えないのが残念で仕方がない」だった為、それを聞いた時ベルナデットも手合わせをしてみたくて仕方がなかった。
最もそれら全て今の今まで忘れていたのだが。
「ベルナデット嬢」
アランに一生懸命訴えていると王子から呼びかけられ、ベルナデットはキラキラと期待を込めた目で王子を見つめ返した。
「まず、僕は君と手合わせすることは出来ない」
王子の答えにベルナデットは残念そうに眉をへにょりと下げた。『何でも』って言ったのに、と思わないでもなかったが、きっと手合わせをすることは『王子の用意できるもの』に含まれないのだろうとも理解できた。
横であからさまにホッとしているアランになんだか負けた気がして、ベルナデットは今日はいつもより長く手合わせしてもらおうと八つ当たり気味に思っていたところ、続けて王子が言った言葉にそんな気持ちも吹き飛んでしまった。
「けれど、僕より強い友人を僕の代理として紹介しよう。それでどうだろうか?」
相変わらず笑顔はないが、きっと相手を思いやれる人なのだろう。
満面の笑みで「よろしくお願いします」と言うベルナデットにひとつ頷いて、翌日の放課後訓練場でと約束を取りつけて王子と教師らしき男性は帰って行った。




