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◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 訓練場の一角で、男子生徒2人(1人は男子生徒ではないのだが)が模擬剣を構えて向き合っている。

 その周りには騒ぎを聞いていた訓練場にいた生徒たちが面白がって見学しており、ちょっとしたイベントのような盛り上がりを見せていた。


「じゃあアラン、合図よろしく」

「……はぁ」


 アランは目の前の勝負に目をキラキラと輝かせるベルナデットに諦めたようにため息をついて、スッと片手を上げた。

 視線を巡らせ、うずうずしながら「早く合図を出せ」と言わんばかりの2人とちゃんと距離をとって見学しているやじ馬たちを確認してから、「始め!」と腕を振り下ろして合図した。


 勝負はあっさりと決まった。

 数回剣を打ち合わせたが、すぐに相手がベルナデットのスピードについていけなくなったのだ。喧嘩をふっかけてきた彼も決して弱くはないのだろうが、相手が悪すぎた。

 ランベールとマティアスの英才教育を受け、騎士団長の娘を恋人に持つ国内屈指の強さの脳筋の兄を目標にしてきたベルナデットに挑むのは、一般貴族の彼には大分無謀だった。


「あ」


 最近ではジェレミーやアランばかりを相手にしていたベルナデットは、加減というものを忘れていた。更に久しぶりに体を動かしたことで強か気分も高揚していた。

 その結果、隙が出来た相手を勢いに任せて思いっきり薙ぎ払ってしまったのである。薙ぎ払われた彼はしばし宙を舞ってどさりと地面に落ちたまま動かない。


「ご、ごめんなさい! 大丈夫!?」


 ベルナデットは慌てて動かない彼に駆け寄った。

 しかし彼の近くで見ていたやじ馬たちが「大丈夫」「頭は打ってない」「目を回しているだけ」と笑いながら教えてくれた為、ベルナデットはホッと胸をなでおろした。


「お前細いのに強いなー! 1年か?」

「ほんとほんと! しかも動きも綺麗でびっくりした! ねぇ、次僕と勝負してみない?」

「おっ! ならオレもやりたい! あのスピード体感してみたい!」


 見学していたやじ馬たちから口々に称えられ、勝負を挑まれ、ベルナデットはその勢いについていけず目を白黒させた。

 ディアマン領の人々は小さい頃からベルナデットの脳筋具合を知っているのでそれに慣らされていて、彼女が何をしようが面白がりこそすれ特に称えたりしないし、勝負にならないと分かりきっているので勝負を挑むこともなかった。

 慣れない状況にオロオロとするベルナデットに様子を見ていたアランがそろそろ助けるかと口を開きかけたところで、今度は女子生徒が息を切らせて訓練場に駆け込んできた。


「ベルナデット様!!」


 彼女はベルナデットの姿を見つけると、焦った様子で駆け寄って来た。


「ベルナデット様! ご無事ですか!? お怪我は!?」


 そのまま上から下まで観察し、きょとんとするベルナデットが何ともなさそうだと判断したところで「よかった」と安心したように呟いた。


「ええと、貴女は……」

「クラスメイトのエマ・クワーツ様ですよ」

「あ、そうです」


 アランが名前を呼んだことで、地味な自分が覚えられていると思わなかったエマは目を丸くした。


「それでクワーツ様、そんなに慌ててどうしたんですか?」

「あ、私、ドミニクの幼馴染で……彼がベルナデット様に勝負を挑んだって聞いて」

「……ドミニク?」

「まさかあの人名前も名乗らず喧嘩売ったんですか!?」


 信じられない! と蒼い顔でベルナデットに頭を下げるエマを何とか落ち着かせて、とりあえず話を聞くために隅のベンチまで移動した。



「彼、ドミニク・イオリットっていうんですけど、彼と私は……その、婚約者ではないんですけどそうなれたらいいなって思ってる関係っていうか」


 頬を染めて恥ずかしそうに話すエマの言葉にベルナデットは相槌を打って続きを促した。


「それで、入学式が終わった後にドミニクと会っていろいろと話してたんですけど、私がつい言っちゃったんです。『同じクラスになったベルナデット様がとっても格好良かった』って」

「え? あ、ありがとう」


 突然褒められてベルナデットが照れながらお礼を言うと、エマは先ほどより更に頬を染めて「尊い……」と呟いた。幸いベルナデットとアランには届いていない。

 ちなみにベルナデットとアランが教室を出た後に「ベルナデットなら女性でも推せる」と言ったのはこのエマである。


「私、好きなものの話をすると止まらなくなっちゃう悪い癖があって。ついベルナデット様のことを熱く語ってしまったら、彼ベルナデット様が男性で、私がベルナデット様に恋をしてしまったと勘違いしたみたいで……」

「「ああ、それで」」


 ベルナデットとアランはドミニクが駆け込んできた時の様子を思い出し納得した。

 ちょうどそのタイミングで気絶していたドミニクが気が付いた。小さく唸りながら、ゆっくりと目を開けて起き上がる。


「ここは……そうか、俺は負けたのか……」


 周りを見渡して状況を思い出したらしい彼は、エマと並んで座るベルナデットを見て悔しそうに顔を顰めた。


「大丈夫そうで良かったわ。ついお兄様を相手にしている時の癖で思いっきりやってしまってごめんなさい」

「いや、俺が弱いのが悪いんだ……。エマが惚れるのも…………ん?」


 ようやく違和感に気づいたドミニクがエマに視線を向けると、キッと目を吊り上げたエマが口を開いた。


「馬鹿ドミニク! ベルナデット様は女性よ!!」

「「「は、はぁ~~~!?!?」」」


 ドミニクだけでなく、エマの声が聞こえたさっきまでのやじ馬たちも揃って声を上げた。

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