ベルナデットは訓練場へ向かう
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「あの、お嬢様」
「なにかしら? アラン」
軽い足取りで先を歩くベルナデットの後ろをアランは暫く黙って着いて歩いていたのだが、どうにも気になっておずおずと口を開いた。
「訓練場の場所、分かってるんですか?」
「……何となくこっちの気がするわ!」
「つまり知らないってことですね」
ベルナデットの予想を裏切らない返答にアランはため息をついた。行き止まりに突き当たって引き返すのが3度目になったあたりでそんな気はしていたのだ。
とりあえずベルナデットを一旦立ち止まらせて、アランはちょうど向こうから歩いてきた上級生らしき男子生徒に声をかけた。
「すみません、ちょっとお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
赤褐色の髪にガーネットの瞳のその青年は、にこっと爽やかに笑って「いいぞ」と了承の返事を返した。
「ありがとうございます。僕たち訓練場に行きたいのですが、場所が分からなくて。どこにあるのか教えてもらえないでしょうか?」
「訓練場? 反対方向だぞ?」
「……そんな気はしていました」
「ははっ、その様子じゃ大分迷ったみたいだな。ちょうどいいや。オレも今から訓練場に行くからついでに連れてってやるよ」
「助かります」
「ありがとうございます」
気を遣って言ってくれたであろう親切な先輩に申し訳なく思いながらも、このままでは訓練場に到着するのにどれだけかかるかわからなかったためベルナデットとアランは彼の厚意に素直に甘えることにした。2人が今来た道を戻っていく先輩に着いて再び歩き出す。
「君ら1年?」
「はい」
「そうか、入学おめでとう。けどだったら今日入学したばっかだろ? 初日から訓練場に行くなんて気合が入ってるな」
先輩の言葉にアランは苦笑いを返したが、ベルナデットは何かを考えるようにじっとその後ろ姿を眺めていた。
「そうだ、名乗ってなかったな。オレはエリック・グルナ。2年だ」
「あ、こちらこそ……って、え? グルナって……」
「お、知ってる? そうそう、現騎士団長はオレの親父だ」
「あ!!」
エリックの言葉を聞いてベルナデットは思わず叫んでしまい、慌てて口を塞いだ。その顔色は少し悪い。
そんなベルナデットの様子をエリックが不思議そうに眺めている。
(誰かに髪色が似ていると思っていたのだけれど、フェリシテお姉様だわ! つまりエリック先輩はフェリシテお姉様の弟。もし私がベルナデットだとバレたら、お母様まで話が届いてしまう危険があるということ! エリック先輩がどんな人かまだ分からない以上、このまま一男子生徒のフリをしておくのが無難だわ)
幸いここまでの会話はアランが行ってくれていた為、ベルナデットはまだエリックと会話をしていない。ベルナデットは自分の中で結論を出し、アランにバラされてしまう前に自ら口を開いた。
「すみません、騎士団長と聞いて驚いてしまって。僕はマティアスです。よろしくお願いします」
(すみません先生お名前お借りします!)
気持ち低い声で咄嗟に思いついた名前を口にしたベルナデットをアランが何か言いたげに見つめていたが、やがて諦めたように自分もエリックに自己紹介をした。
「おっけー、マティアスにアランね。よろしく」
それから訓練場に着くまで、かなり挙動不審なベルナデットをアランが仕方なくフォローすることで何とか怪しまれずに訓練場に到着することが出来た。




