ベルナデットは初めての入学式に出席する
24.08.19誤字修正しました。ご報告ありがとうございました。
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ベルナデットとアランがB組の教室に入ると、一瞬教室がシンと静まり返って無数の視線が集まった。
それに驚いてベルナデットが立ち止まり視線を巡らせると、皆視線を合わせないようにパッと目を逸らしてしまう。
(誰あれ誰あれ!? ものすごい綺麗! 絶対平民じゃないわよね? あんな方同年代にいたかしら!?)
(かっこいいぃ~~!! 王子様? 王子様なの??)
(あいつめちゃくちゃキラキラしてんな? あんな目立つ奴いたか?)
(誰だよアイツ……あんなのと比べられるとかサイアクじゃん……)
女子生徒からは羨望の眼差しを、男子生徒からは嫉妬の眼差しをベルナデットへ向けられているのを感じ、アランは遠い目をした。確実に男子生徒だと思われている。男子制服を着ているので当然だが。
アランが現実逃避をしている間に徐々に元の空気に戻った教室をベルナデットはきょろきょろと興味深そうに見回し、最後に教室前方のホワイトボードに目を留めた。
「席は自由みたいね。アラン、私あそこが良いわ!」
近くにいた生徒がベルナデットの発した言葉を聞いてぎょっとしているが、初めての教室に浮かれているベルナデットは全く気づかずに早足で歩き、窓際の1番前の席に座った。
後に続いたアランはベルナデットの隣の席についた。
「ふふふ。早く先生来ないかしら」
「楽しそうですね、お嬢様」
「ええ! 私学校って憧れだったの!」
「そうなんですか?」
ベルナデットの言葉をアランは意外に思った。
何せ以前ジェレミーが学校に通い出した時、学校に行っているジェレミーは家にいる時ほど訓練が出来ない筈だと言っていた。訓練大好きなベルナデットがその制限される環境に憧れるとは思わなかったのだ。そもそもそれ以前に、ベルナデットは勉強が苦手である。
「何にそんなに憧れてたんですか?」
「んー、何って具体的にあるわけじゃないんだけど。強いて言うならこうやって普通の学生生活を送ることかしら」
「そうなんですね?」
アランはベルナデットの言わんとすることがいまいち理解出来なかったが、とりあえず相槌を打った。
そんなアランの反応が分かっていたようで、ベルナデットはアランを見てまた楽しそうに笑った。
「つまり、アランとこうやって対等に並んで授業を受けられることが嬉しいっていうことよ」
ベルナデットの言葉にアランはポカンとした後、じわじわと意味を理解したらしくうっすら赤くなった顔を誤魔化すように口元を隠し、そっぽを向いて「そうですか」と返した。
(ふふふ、アランも嬉しそうね!)
アランの内心など全く理解していないベルナデットは遠足の日の小学生のように浮かれながら真新しい教科書をパラパラとめくった。
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しばらくすると若い男の先生が入ってきて教卓の前に立った。
それに気づいた生徒たちはバラバラと席に着く。
「おはようございます。皆さん、入学おめでとうございます。私はこのクラスの担任のセドリック・ジャッドです。1年間よろしくお願いしますね」
にこにこと笑うセドリックの様子に、緊張していた生徒たちも少し肩の力が抜けたようだ。
「これから入学式がありますので講堂に移動します。着いて来てください」
少しざわざわとしながらも大人しく着いて行く生徒たちにベルナデットとアランも混ざって歩く。そわそわとしているベルナデットにアランは何かやらかすのではないかと内心ひやひやとしていたが、特に何事もなく講堂に着いた。
前世で物語によく出てきた学園長のあいさつはベルナデットの想像より長く、感動しながらも内容は右から左へと流れていく内に終了した。
(とりあえずおめでとうってことね!)
ベルナデットは10分以上あった話を脳内で一言で片付けた。
「続いて在校生代表祝辞」
司会の先生に呼ばれて出てきたのはものすごくキラキラした人だった。
なんていうかオーラがすごいわねとベルナデットが眺めていると、周りからきゃいきゃいと控えめな黄色い声が聞こえた。
「シャルル王子だわ!」
「きゃあ! 相変わらず素敵!」
「王子の祝辞が聞けるなんて! 今年入学で良かった!」
(なるほど?)
どうやら壇上にいるかの人は王子様らしい。ベルナデットは王族に全く興味が無かったので王子の顔なんて知らなかったし、更に言えばこの世界に王子というものが存在するということ自体を忘れていた。
(そう言えばずいぶん前にお兄様がめちゃくちゃかわいい王子に会ったって言ってた気がするわね。へー、あの人が。へー、確かにオーラがあるわね。へー、でも綺麗だけどかわいいって感じじゃないわね。あーでもちっちゃい頃はかわいかったんだろうなってのは分かるわー。けどにこりとも笑わないわね。何か嫌な事でもあったのかしら?)
「在校生代表、シャルル・オルタンシア」
全く関係ないことを考えているうちに、王子の挨拶は終わってしまったらしい。
ベルナデットは後で内容のことを聞かれたらどうしようと少し焦ったが、その時は聞いていただろうアランに聞けばいいか、と一瞬で気持ちを切り替えた。
「続いて新入生代表挨拶」
今度は可愛らしい女の子が壇上へと上がり、今度は男子生徒がひそひそと話す声が聞こえた。
「カロリーヌ王女だ! オレ初めて見た!」
「おいおいめちゃくちゃ可愛いな!?」
「贅沢は言わないから傍に侍らせてほしい……」
(なるほど?)
どうやら新入生代表は先ほど挨拶をしていた王子の妹らしい。確かに美しい藤色の髪と琥珀色の瞳が同じである。
(確かに雰囲気も似てるし兄妹って言われたら納得ね。めちゃくちゃ可愛いし、やっぱりキラキラしてるしオーラもあるわねー。けど妹ちゃんの方が笑顔だし親しみやすそうね)
「新入生代表、カロリーヌ・オルタンシア」
やはり全く関係ないことを考えているうちに王女の挨拶も終わってしまった。
(薄々気づいてはいたけれど、私話を聞くことがあまり得意ではないわね)
そう自分のことを分析しながらも、「まあ人には得意不得意があるものよね」と全く反省することなく、ベルナデットは大満足で人生初の入学式を終えた。




