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◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「どうかしましたか? お父様」

「ううむ」

「帰ってくるのは3日後ではなかったのですか?」

「ああ、まあその予定だったんだが……」

「?」


 頭大丈夫? と聞くわけにもいかず、ランベールは歯切れの悪い返事しかできずにいた。

 ベルナデットは本気でなぜ呼び出されたかわかっておらず、不思議そうに首を傾げるばかりだ。


「昨日貴女が倒れて頭を打ったと聞いたけれど、もう大丈夫なの?」


 煮え切らない夫にかわり、彼の妻でありベルナデットの母であるレティシアが話を切り出した。

 レティシアの言葉を聞いて、ベルナデットはしたり顔で頷いた。


(なるほど。いくら脳筋のお父様といえど、さすがに頭を打ったと聞いて心配してくれたのね)


 ベルナデットはそうポジティブに納得して、安心してもらうべく笑顔をつくった。


「もうなんともありませんわ。お医者様に診てもらった後にしばらく屋敷の中を散歩したのですけど、特に具合が悪くなることもありませんでしたわ」

「散歩? 休んでいなかったの?」

「お医者様には問題ないと言われましたし、私としても少し体を動かしたかったので」

「まあ! 貴女が自分から散歩をしたの?」

「お母様、私は自分が健康であることがいかに素晴らしいことか気が付いたのです。これからは勉強も運動も一生懸命に取り組もうと思いますわ」

「そ、そう。それはいい事だと思うわ」


 目を輝かせて立派な宣言をする我が娘にレティシアは、喜ばしいことであるはずなのだがあまりの変わり様に本当に打ちどころが悪かったのではないかという不安の方が勝ってしまった。

 一方ランベールは特におかしいと思わず、只々純粋に娘の成長として受け取った。


「うむ、立派な心掛けだな! その調子で頑張れ我が娘よ」

「はいお父様! ではそろそろ剣術のお稽古の時間なので失礼いたしますわ」


 元気に返事をしたベルナデットは嬉しそうにぺこりと一礼をして部屋を出ていった。

 その様子を笑顔で見送った2人だったが、レティシアは彼女がいなくなると頬に手を当て難しい顔をして唸った。


「あの子が自分から進んで剣術のお稽古に向かうなんて……もう一度お医者様を呼ぶべきかしら」

「ははは、レティ、子供は成長するものだよ。そんな難しく考えず喜ぼうじゃないか」

「……そうですわね」


 心から嬉しそうに笑うランベールを見て、レティシアは溜息をついた後同じように笑った。

 確かに悪い変化ではない。ランベールの言うように単純に子供の成長とは思えなかったレティシアだったが、そうであることを祈りながらしばらくは様子を見ることにした。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「先生! お兄様! 今日もよろしくお願いしますわ!」


 ベルナデットが先に来ていた剣術の先生のマティアスと兄のジェレミーに元気よく挨拶をすると、2人は目を丸くして固まった。

 昨日は『念のため休ませる』と執事を通して連絡を受けていたので、恐らく今日も何だかんだ理由をつけて休むのだろうと思っていたのだ。


「ベル、大丈夫か?」

「お医者様にもお墨付きをもらいました! ご心配には及びませんわ!」

「それは幸いでございました」


 ジェレミーの質問は『頭は』という意味だったのだが、ベルナデットはそれに気づかず元気よく返事をした。

 マティアスはジェレミーの意図に気づきながら、ベルナデットの返事に笑顔で返した。


「先生、今までごめんなさい。今日からがんばりますのでいっぱい強くしてくださいな」

「おやおや、大層やる気になっておいでですね」

「はい! 私健康であることに喜びを感じてますの!」

「ベル、ほんとに大丈夫か?」

「すこぶる元気ですわ!」


 ジェレミーは妹のあまりの別人っぷりに引いている。

 昨日までの妹だったら絶対そんなことは言わなかっただろうし、大したことがなくても1週間は寝て過ごしたはずなのだ。

 そして原因であるジェレミーに文句のひとつも言わない。

 まあ原因といっても向かい合っていた時にベルナデットが勝手に後ずさって勝手にこけただけで、ジェレミーは動いてもいなかったのだが。


「お嬢様が前向きになって大変喜ばしく思います。ですが昨日倒れられたのですから、念のため今日は軽い基礎体力作りにいたしましょう」

「はーい! お願いします!」


(ベルナデットが先生の指示を聞き、まして嬉しそうに従うなんて……)


 ジェレミーは衝撃の連続に、本当に頭を打っておかしくなってしまったのではないか、そしてそれは自分と打ち合いをしていた時の事故なのだから自分のせいではないか、と、混乱のあまり謎の罪悪感を感じていた。


「先生! がんばればお兄様にも勝てるかしら?」

「ふふふ、そうですね、お嬢様のこれからの頑張り次第ですね」

「じゃあがんばるわ!」

「は?」


 ベルナデットとマティアスのやり取りに、ジェレミーは今まで感じていた罪悪感を一瞬で忘れ剣呑な声をだした。

 ジェレミーは現在ベルナデットの4つ年上の9歳だ。

 当然ベルナデットより4年長く稽古を続けているし、ベルナデットがサボっていた間も真面目に剣を振るっていた。

 マティアスが言ったのがベルナデットにやる気を出させるための言葉だとわかっていても面白くない。


「ベルが僕に勝てるわけないだろ」

「そんなのわからないじゃない。私まだ5歳だもの、伸びしろはたっぷりあると思うわ」

「絶対無理!」

「あら、絶対なんてことないと思うわ」

「絶っっっ対! 無理!!」


 ジェレミーはムキになって否定しながらベルナデットの横で一緒に基礎体力作りを始め、その様子をマティアスが微笑ましく見守っていた。

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