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◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「「「きゃーーーーー!!」」」


 一夜明けて入学式当日。

 ベルナデットとリディは身支度を済ませ部屋を出たのだが、フロアにいた女子生徒たちが一斉に叫んだので2人して耳を塞いだ。

 ベルナデットは状況が掴めず目を白黒させていたが、リディの方は原因に思い当ったようで「失敗した」と言うように顔を顰めた。


「なんで男子生徒が女子寮にいるの!?」

「貴女、初日から男子生徒を連れ込むなんてなんて破廉恥なの!?」

「貴方、女子寮で堂々としすぎではなくて!?」


 口々に投げかけられる言葉にベルナデットは理解が追いつかずポカンと口を開けて固まってしまったが、リディは彼女たちを落ち着かせるべく大きく手を打ち鳴らした。


「この方は男性ではありません。一応生物学的には女性です」

「リディ?」


 面倒くさそうに失礼な説明をするリディにベルナデットはジトリと彼女を見るが、リディは「何か間違っていますか?」と言わんばかりの澄ました顔をしている。

 一方リディの言葉を聞いた彼女たちはその言葉の真偽を図りかねているようで、戸惑ったように顔を見合わせている。


「驚かせてしまってごめんなさい。ディアマン家長女のベルナデットですわ」


 鈴の鳴るような綺麗な声で完璧な淑女の礼をとる彼女に、一番近くにいた女子生徒がおずおずと口を開いた。


「ベルナデット様は何故そのような恰好を?」

「家庭の事情です」


 ベルナデットが答えるより早く、リディがキッパリと言い放った。どんな事情か彼女たちは気になったが、それ以上聞くなというリディの圧を感じて誰も尋ねることは出来なかった。そんな彼女たちの戸惑いをベルナデットは女だということを疑われているのだと勘違いし、真剣な顔でひとつ頷いた。


「皆様が不安に思うのは当然ですわ。どう見てもこれは男子生徒の制服。ですが私はリディが言う通り生物学的には間違いなく女です。お望みであればここで脱ぎますが……」

「なに馬鹿なことを言っているんですか」

「だってそれが疑いを晴らすのに一番手っ取り早いでしょう?」


 心底真剣に提案するベルナデットにリディが呆れた顔をする。そんな2人のやり取りを見ていた彼女たちは一瞬ポカンとした顔をした後、ふっ……ふふっ……、と堪えきれずに肩を震わせた。


「ふふっ、もう疑ってないので脱ぐ必要はありませんわ。貴女も、誤解していたとはいえ失礼な事を言ってごめんなさい」

「気にしないでください。紛らわしいお嬢様が悪いので」

「リディ?」

「あはは。私はグレース・トゥルクワーズ。この子は私の侍女のエステル。よろしくね」

「よろしくお願いいたします」


 最初に話しかけてきた、透き通った青空のような瞳に鈍色の髪を緩く巻いた少女が笑いながら自己紹介をし、隣にいた大人しそうな少女も一緒に紹介した。

 残りの周りにいた生徒数人も自己紹介をした後、ベルナデットとリディはグレースに誘われて一緒に食堂へと向かった。


「まあ! 2人は私たちのお隣さんなのね!」

「お嬢様が確実にご迷惑をお掛けするとは思いますが、仲良くしていただけると嬉しいです」

「リディ?」


 他人の前でも相変わらず失礼なリディにベルナデットは名前を呼んで抗議するが、「本当のことでしょう?」と返され否定しきれないベルナデットは口を噤む。


「ふふ、仲が良くて羨ましいわ。エステルもたまにはあんな風に冗談を言ってもいいのよ?」

「いえ、そんな恐れ多いです。それに私にリディさんのような冗談のセンスはありませんので……」

「もう! じゃあ命令です! 学園にいる間は対等に接すること!」

「そんな! あんまりです! 断固抗議します!」

「あら、この学園は全ての生徒を対等にという方針なんだから私が正しいわ。敬語も禁止ね! じゃあベルナデット様、リディさん、エステル、急がないと遅刻してしまうわ!」

「うう……横暴です」


 お淑やかなお嬢様かと思っていたのに、どうやらベルナデットに負けず劣らず自由そうなグレースを見て、リディは慰めるようにポンとエステルの肩を叩いた。仲間意識である。


「貴女たちも仲が良いのね! グレース様、良ければ私のこともベルと呼んで?」

「私もリディで構いませんよ」

「ありがとう。私もグレースでいいわ。エステルもね」

「無理ですぅ~……」


 嘆くエステルをまるっと無視して楽しそうに足を速めるグレースに、ベルナデットは苦笑しながら、リディはエステルの手を引きながら着いて行った。



 食堂では再び少女たちの悲鳴が響いた。



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