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「おはようございますお嬢様」
「おはようアラン。絶好の入学日和ね!」
新しい制服に身を包んで嬉しそうな顔をしたベルナデットは、馬車の前で合流したアランと挨拶を交わす。前世では病弱で学校へ行けなかった為、初めての憧れの学生生活をとてもとても楽しみにしているのだ。
先週のコレットとの会話から今日までずっとベルナデットは時間が出来ればコレットの元へ走っていたので、本気で学園に行かないと言い出すのではと危惧していたリディは嬉しそうに馬車に乗り込むベルナデットの様子にほっと胸を撫でおろした。
「嬉しそうですね」
にこにこと楽しそうに窓の外を眺めるベルナデットに向かいに座るアランが声をかけた。こちらも機嫌が良い。しかしアランは別に学園に行くのが楽しみなためではなく、最近べったりくっついてベルナデットを独り占めしていたコレットがいないためだ。ちなみに当然のようにアランも今年入学だ。
「ええ、とっても楽しみ! 学園は王都にあるのよね? 王都も楽しみだわ!」
ベルナデットは幸せそうに答えたが、それを聞いてアランとリディが真顔で顔を見合わせる。
ベルナデットはこれまで自領から出たことがない。更に社交の為のパーティーやお茶会だって、最低限のマナーや振る舞いを覚える為の自領内で開かれた小規模なものしか参加したことがない。
それは可愛い娘に悪い虫を付けたくないというランベールと、お転婆が過ぎる娘が他領で問題を起こすのではないかと不安に思うレティシアの意見が一致した結果の措置だったのだが、王都の社交界では『ディアマン家の令嬢はとても美しく淑女の鑑のようなお淑やかで素晴らしい深窓の令嬢らしい』というとんでもない噂が広まってしまい2人は頭を抱えていた。
学園に行く前にとレティシアから深刻な顔でそのことを聞かされた時は、アランもリディもあまりに本人とかけ離れた噂に笑いをこらえるのが大変だったのだが。
「そうです。いいですか? 王都はディアマン領ではないのですから、いつものような振る舞いは控えてくださいね?」
「心配しなくても他所様に迷惑をかけたりしないわよ」
「本当ですか? いきなり殴りかかったりしちゃダメですよ?」
「非常事態でもない限りそんなことしないわよ?」
「誰彼構わず勝負を挑むのも止めてくださいね?」
「心配しなくても全て勝ってみせるわ!」
「「それは心配していません」」
妖精の皮を被った猛獣を王都に連れて行くことに今更ながら不安を覚えた2人は口々にベルナデットに釘をさすが、本人は至って普通の貴族令嬢として生きているつもりなので彼らが何をそんなに心配しているのか全くわからなかった。