表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/70

ベルナデットは魔法学園に入学する


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 トラウマというのはそんなに簡単に克服できるものではないからトラウマなわけで、ベルナデットがマカロンを従えるという大いなる目標を宣言してから10年、16歳になったベルナデットは未だにマカロンに近づくことさえ出来ていない。

 それどころかすくすくと大きく成長したマカロンに、むしろ最初の頃より更に近づけなくなっていた。


「はぁぁぁ……」

「あれ? どうしたんですかお嬢様、ため息なんてついて珍しい。おなかでも痛いんですか?」

「リディ、私だってセンチメンタルになることもあるのよ」

「センチメンタルが爆笑して逃げ出しそうな人が何言ってるんですか」

「貴女年々私への暴言に磨きがかかってない? そんなに私のことが嫌い?」

「何言ってるんですか世界一大好きですよ」

「そ、そう。ならいいわ」


 リディの言葉に途端に赤くなってわたわたしだすベルナデットを見て、リディは顔を顰めた。


「私はお嬢様がチョロすぎてたまにとっても心配になります」

「えっ!? 大好きってまさか嘘だったの!?」

「嘘じゃないです。そういうことじゃなくて」

「?」


 リディは首を傾げるベルナデットをじっと見た。

 昔から美少女だったベルナデットは今ではすっかり美しい令嬢に成長していた。

 腰の辺りまで伸びたブロンドの髪はサラサラのストレートで、潤んだペリドットの瞳は長いまつげで飾られている。

 いつも屋外を走り回っているのにも関わらず、肌は透き通るように白くシミひとつなく、まるで儚い深窓の令嬢のようだ。

 その美しさについフラフラと引き寄せられてしまう男も多いだろう。


 しかしそれは『彼女の中身を知らなければ』という注釈がつく。

 ベルナデットは美しさもだが、父親譲りの武力の方も順調すぎるほど順調に成長していた。

 買い物に行った先でひったくりの常習犯を捕まえ、ジェレミーと一緒にピクニックついでに注意喚起が出ている平原の猛獣を退治し、暴走した馬車の馬に飛び乗って宥め、剣を持った騎手同士のケンカを素手で仲裁する。齢16にして既に数々の伝説を残していた。

 『妖精の皮を被った猛獣』とは、リディを筆頭に彼女をよく知る使用人たちの言である。


 ベルナデットとリディがそんな話をしながら作業をしていると、部屋にノックの音が響いた。


「お姉様、遊んでくださいまし」

「コレット! 貴女ここまで歩いてきたの!?」

「はい! ジャンヌと一緒に歩きました」

「まあ! なんて偉いのかしら!」


 侍女のジャンヌと共に歩いてきたと誇らしそうに報告したコレットを感動しながら褒めたベルナデットは、そのままコレットを抱き上げる。


「体はどこも痛くない? おかしなところはないかしら?」

「ちょっと疲れましたけど大丈夫ですわお姉様」


 にこにこしているコレットの額に手を当てて熱が出ていないことを確認したベルナデットは、ソファに腰かけその膝にコレットを乗せた。

 ベルナデットはコレットに対して過保護を拗らせているが、それにはシスコン以外にも理由がある。

 コレットは体が弱かった。

 10歳になった今でもとてもベルナデットが行ってきた訓練など受けられるほどの体力はなく、少し無理をするとすぐに体調を崩した。

 ベルナデットはそんなコレットに前世の自分が重なってしまい、元からシスコン気味だったのが今ではベテランの超シスコンに進化していた。


「さて、何をしようかしら」

「お姉様、私お姉様とお菓子を食べながらおしゃべりがしたいです。お姉様、来週には学園の寮に行ってしまうから……」


 そう言って寂しそうに目を伏せたコレットを見たベルナデットの心臓がトスっと天使の矢で射抜かれた。


「私、学園に行くの止めるわ!」

「何バカなこと言ってるんですかお嬢様」


 ベルナデットが握りこぶしを作って宣言したところで、コレットが来た時にお茶の用意をしに出て行っていたリディが戻って来た。

 ベルナデットに意見出来ずオロオロしていたジャンヌは、リディが戻ってきてくれてほっと息を吐いた。


「だってコレットの一大事よ!?」

「お嬢様の頭が一大事です」

「容赦ないわね!」


 コレットをぎゅうぎゅうと抱きしめながらベルナデットは真剣に抗議するが、リディは取り付く島もない。


「お姉様、私、お姉様に入学の義務を疎かにして欲しいとは思っておりません。淋しいですが我慢しますわ。その代わり、学園に行ってもちゃんと私のことを思い出してくださいまし。そして、休暇で帰ってくる時は一番に私に会いに来てくださいな」

「コレット……! なんて健気で良い子なの?」


 コレットの言葉にベルナデットが感動でうち震える様を、ジャンヌは微笑みながら、リディは呆れながら眺めていると、コレットの視線がリディへと移った。


「リディ、お姉様をどうかよろしくね」

「お任せください」

「絶対に獣共からお姉様を守ってね」

「もちろんです。私がいるからにはお嬢様に指一本触れさせません」


 リディはベルナデットと一緒に魔法学園へ入学することになっている。

 魔法学園への入学は全ての国民の義務であり、その入学は16歳と定められているが、年齢は自己申告である。そのため大抵の主人と年の近い使用人たちは、主人と同じ歳として同じ時に入学するのが暗黙の了解となっている。リディも実際は現在17歳だが、書類上は16歳となっている。


「コレットはなんて優しいのかしら! 心配しなくても私は強いから大丈夫よ。リディも嬉しいけど、もしもの時はちゃんと私の後ろに隠れてね? 大切な貴女が傷ついたらその方が辛いから」


 何も分かっていないベルナデットに「ありがとうございます」とにっこり笑ってお礼を言った後、リディはコレットに目配せして頷きあった。

 同じく会話の真相が分かっていないジャンヌは、美しい姉妹愛、美しい主従愛に「ディアマン家の使用人になって良かった」と1人感動していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ