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◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

side:ジェレミー


「お兄様! お姉様を返してくださいまし!」


 バタン! とノックもなしに入って来たコレットを見て、マカロンと遊んでいたジェレミーはため息をついた。


「コレット、無理だ」

「お兄様の婚約者でしょう!? なんで私のお姉様にべったりなんですの!?」

「あー……フェリシテもお前のお姉様になる予定だぞ?」

「そんなことを言っているのではないのです!」


 コレットが地団駄を踏むのを、ジャンヌがオロオロとしながら見ている。ジェレミーは再度ため息をついて呟いた。


「だからまだ連れて来たくなかったんだよなぁ」


 こうなると分かっていたから。

 ジェレミーはすっかり大きくなったマカロンをひと撫でして、コレットを抱えて部屋を出た。向かうは自身の婚約者と妹の下だ。



 フェリシテはあれからディアマン家に滞在しており、今日で5日目になる。

 彼女はジェレミーに会いに来たと言っていたが、ジェレミーにはそれは単なる建前であることはわかっていた。彼女の本当の目的はジェレミーではなく、彼の両親に挨拶することでもなく(挨拶はもちろんしたが)、最初からベルナデットと会うことだったのだ。

 彼女は男女問わず強い人、更に言えば強くなろうと努力している人が好きで、ジェレミーがベルナデットの話をする度に早く会いたいと目を輝かせていた。

 そしてようやく出会えたベルナデットは、フェリシテが見たこともないような戦い方でジェレミーといい勝負を繰り広げていた。フェリシテが気に入らないわけがない。

 ベルナデットはベルナデットで、フェリシテの使うマティアスの教えるものとはまた違う騎士団の洗練された剣術に興味津々。そもそも強くなることに貪欲で似たもの同士な2人は当然のように意気投合し、ベルナデットの勉強の時間以外はほとんど2人、たまにブリジットも入った3人でトレーニングをして過ごしている。


 普段のベルナデットは、お茶の時間には予定がない限りは必ずコレットの元を訪れていた。しかしフェリシテが来てからは1度も一緒にお茶をしていない。トレーニングに熱中しすぎてお茶の時間を忘れるのだ。

 初日にトレーニングが終わった後にコレットに会いに来てお茶の時間を忘れていたことを話して謝罪をし、フェリシテとトレーニングをする日はお茶の時間ではなく夕方トレーニングが終わった後に会いに来ると説明されたらしい。

 しかしやはりと言うかなんというか、コレットを訪れる時間は日に日に遅くなり、昨日など5分と経たないうちに夕食の時間となってしまったとのことで、我慢の限界に達したコレットはジェレミーに抗議に来たのだ。


「そもそもお兄様の婚約者なんだから、トレーニングでも逢引でもお兄様とすればいいのですわ!」

「逢引ってお前、そんな言葉誰に聞いた?」

「メイドたちがお姉様とアランが一緒にいるのを見てはしゃぎながら話していました」

「ああ、成程……」


 そんなことを話ながら歩いていると、噂をすればなのか、前方からアランが歩いて来た。

 アランはジェレミーと抱えられた不機嫌そうなコレットを見て察したらしく、「僕も行きます」と言って来た道を引き返し2人と一緒に歩き出した。


「仕事中じゃないのか?」

「グルナ様が来られてからお嬢様がグルナ様に付きっきりですからね。お嬢様の侍従である僕の仕事も必然的に減っておりまして。時間には余裕があるので大丈夫ですよ」

「……そうか」


 コレット程あからさまではないが、アランもなかなかに機嫌が悪い。

 ジェレミーはため息をつきそうになるのをグッとこらえて、早く解放されるべく急ぎ足で目的地へと向かった。



 予想通り、ジェレミー達は訓練場にて2人を見つけた。ジェレミーがフェリシテに声をかけると、2人は手を止めてこちらへやって来た。


「あらジェレミー、どうしたの?」

「ああ、その、だな」


 フェリシテはジェレミーに抱えられたコレットと後ろに控えるアランを見て首を傾げている。

 ジェレミーはどうしようか悩んだ。フェリシテを喜ばせつつベルナデットから引き離す方法は分かっているのだが、それを実行に移すのは羞恥心により躊躇われた。

 しかし普通に呼び出すだけではその場凌ぎにしかならないし、現状を説明したとしても「私は短い滞在中しかベルとは遊べないのよ?」と言って聞き入れてもらえないことは容易に想像がつく。

 そんなジェレミーの葛藤などお構い無しに腕の中と背後からプレッシャーをかけられ、目の前の2人も黙り込んだジェレミーに怪訝な顔を向けている。


(あああもう!!)


 ジェレミーは覚悟を決めると、コレットを優しく下ろしフェリシテを抱きしめた。

 驚いて固まる彼女を一度ぎゅっと抱きしめてから、彼女の肩に手を置き体を離して視線を絡める。


「ベルばかりじゃなく、俺にもかまえ」


 少し拗ねたような顔と声で告げたその言葉に、フェリシテは一瞬目を丸くした後、「仕方がないなあ」と嬉しそうに破顔した。

 ちらりと視線を向けた先では、ベルナデットがドン引きした目でジェレミーを見ていた。


(お前が元凶だよ!!!)


 ジェレミーは心の中で盛大に叫んだ。

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