第四話
これまでのことをできるだけ簡単にまとめると。
ある日、古瀬邸の若き主である弥生の元に届いた、送り主などが不明の小包。中には、普通の眼鏡を真ん中で折ったような、鼻に掛けるブリッジ部分が二本になった形の片眼鏡が入っていた。同梱されていた説明書きによるとそのレンズには、長年、水晶占いで使われていた水晶球の一部が使われていて。弥生の従者である私・新嶋三月がかけると度の入っていないただの片眼鏡だが、弥生がかけると不規則ながらも、レンズに映した人物の未来を視ることができた。当初、私はそれを、どうやってかはわからないものの、未来から送られた物だと思っていたのだが。先日、レンズ部分に精霊が宿って付喪神となっていたことが明らかになり、“未来から送られた物”という線は薄くなった。
生涯働かなくても生きていけるほどの親の遺産がある弥生は、前の持ち主からの願いもあって、私が勝手にMarchと名付けたそれを世の中に有効に使うため、インターネットの海に『foresee the future a little(少し未来を予知します)』という名のサイトをひっそりと立ち上げ、そこで募った依頼者が知りたい依頼者自身の少し未来(数時間後~半年先まで)を予知してそれをリモート面談で告知し、時には助言(弥生が言うところの“お節介”)もするという不定休のボランティアを始めたのだった。
ただ、当初からの謎である、誰がMarchを作り、また誰が弥生に送ったのかということは、未だわからずにいた。
今日は、陽が沈んでしばらく経ってから。私は二階建て9LDKのうちの一室、弥生の仕事部屋の前に立ち、ドアをノックする。
「はーい」
「弥生、三月です。入りますよ」
「おーう」
ドアを開けるとそこは、間接照明に照らされた八畳一間。南向きの窓と対称的に置かれた、仕事をするのに必要最低限の物しかないこともあって、実際の広さよりも広く感じ、がらんどうとした印象を受ける。Marchをかけて、背もたれのついた椅子に座ってデスクの上のノートPCとにらめっこをするようにクライアント選びをしている弥生に声を掛けて、ガラス製のティーセット一式をサイドテーブルに置く。
「ひと休みしませんか」
ちなみに今日のティーポットにはアップルミントティーが淹れてある。ミントの清涼感とリンゴの豊潤な香り、甘さとスースー感の共存はかなり癒しになるはず。ただ、この甘ったるい香りが好きではない人もいるので強くはお勧めできない。弥生はどうだろうと思って、試しに淹れてきた。
「おー、もうそんな時間かー」
と言って、ぐぐぐぐーっと、椅子に座ったままで伸びをする。
「今さら訊くのもなんですけど。今日はお休みにするんじゃなかったんですか?」
香茶をポットからカップに注ぎ、ソーサーと一緒にデスクに置く。弥生はカップを手に取って香りを確かめてから、くいっとひと口。
「ん、そのつもりだったんだけどな、ちらっと一覧を見てみたら依頼者がいつになく多くて。次回のクライアント選びだけしておこうかと思い直したんだ」
そう言って、カップをソーサーの上に置いた。お気に召さなかったかな?
「そうですか。それで、見つかりました?」
「いーや。依頼者が予知して欲しい時期と実際に予知した時期が全然一致しなくて。前回以上に難航してる」
Marchで視える未来はなぜか不規則で、必ずしも知りたい時期の未来が視えるわけではない。弥生はそれを逆手にとって、依頼者が希望する予知時期と実際に予知した時期との一致を、予知した内容を告知するクライアントを選び出す条件にしている。
「Marchが意図的にそうしてる、わけじゃないですよね?」
あくまでも可能性として、私は片眼鏡に問いかけた。
《前にも言ったが、予知の結果によっては営業妨害になりかねない売卜(ばいぼく=お金をとって占いをすること)結果との照らし合わせ以外の依頼には、我は一切関知していない》
長い年月を経て精霊が宿り、付喪神という自我を得た片眼鏡は弥生の顔の上で、構造的にどうやら口の部分にあたるらしいブリッジ部分をパカパカ上下させながら反論する。これもどういうわけなのか不明なのだが、付喪神となっていたMarchと対話ができるのは、私と弥生の二人だけであるらしい。Marchの言葉は私には声として、弥生には思念として、それぞれ届く。逆に言うと他の人には一切届かないので、周りから変な目で見られないように、Marchと話すのはいまのように私たち三者だけの時だけにするように気をつけている。
「そうだと思いましたけど、念のため訊いてみました。気を悪くされたならごめんなさい」
《いや、その点は問題ない》
「そうですか? それなら、良かったです」
片眼鏡の姿形をしていて表情が読めない分、語気から感情を読み取る必要があり、いまは機嫌を損ねた感じに聞こえたのだが、気のせいだったらしい。
「これも今さらかもしれないですけど、Marchは私がかけるとただの片眼鏡なのに、弥生がかけると途端に未来予知の道具になるのは何故なんでしょうか」
《それはお二方の霊的な力の差だな》
「霊的な力の差、ですか」
《お二方ともご存じの通り我は元々、水晶占いの水晶球であった。水晶占いによる予知は水晶球に不思議な力があるわけではなく、それを扱う占い師の霊的な力を用いて行われるものだ。その高さと経験がものをいう》
「そうなんですか。じゃあ弥生ばかりでなく他に霊的な力の高い人がMarchをかければその場合も、未来予知の道具となるわけですね」
《おそらくは》
「じゃあ、付喪神となったMarchの言葉が私や弥生だけに届く理由は分かりますか?」
《残念ながら、それは我にも分からぬ。もしこれも(聞き手の)霊的な力によるのであれば、弥生殿はともかく三月殿にも届いている説明がつかぬ》
「そうですよねぇ……」
しかも、私には声として耳に届いていて弥生には思念として直接脳に届いているというのも不思議な話だ。
「それは俺の方が感受性が強いから、みたいなことを前にMarchが言ってなかったか?」
「そうでしたっけ?」
正直、よく覚えていない。けど、弥生の感受性が強いというのは私も頷ける。そうでなければ、私のこのモノローグを声として感じ取れるわけがない、と思う。
だとすると。
Marchを弥生の元に送った人物――大方、Marchの前の持ち主は、弥生の霊的な力の高さや感受性の強さをよく知る人物。と仮定すれば、その候補はかなり絞り込めるのではないだろうか。
というか、そんなことをしなくてもMarchに直接訊けばすぐ分かりそうなものだが、それは既にやっているのだ。しかしその際のMarchの回答は《申し訳ないが、覚えがないのだ》とのこと。Marchの製作者についても同じ回答だった。プロテクトでも掛かっているのだろうか。いやそんなわけはないか。付喪神の記憶に鍵を掛けられる人物がもしいるのなら、ぜひ会ってみたいものだ。
今までであれば、遅くても休憩後には予知時期が一致したクライアントが見つかって、リモート面談に向けて動くことになるところなのだが。なぜか今夜は、予知時期の不一致が続くまま夜が更けていって、クライアント選びは明日に持ち込まれることとなった。私の記憶に間違いがなければ、こんなことは初めてだった。
翌日。弥生は日暮れと同時に『foresee the future a little』の運営側にログインして、Marchをかけて、クライアント選びを始めた。が、しばらくして私がティーセット一式を持ってくるまで、予知時期が一致した案件は見つかっていなかった。
「ここまで(予知時期の)不一致が続くのも珍しいですね」
ちなみに今日のティーポットにはバニラカモミールティーが入っている。カモミールティーのリンゴのようなフルーティーな香りにバニラの優しく甘い香りがブレンドされて、より飲みやすい。アップルミントのように甘ったるい甘さではないので、こちらを好む人も少なくない。カップに注ぎ、ソーサーごとデスクに置く。弥生がそのカップを手に取って、香りを確かめてから、ひと口。その味わいに頷く。
「うん。――占い結果との照らし合わせを希望する依頼者はずいぶん減ったんだがなぁ」
と言ってもうひと口。
《その代わりというわけでもなかろうが、半年以上先の事を依頼してくる者が散見されるようになったな》
「そっちの方も無視はしてないが、当然、予知時期が一致しない、するわけがない」
そしてみくち目。いつもより口にする頻度が高い。それもそのはず。バニラカモミールティーは私が淹れるハーブティーの中でもとりわけ、弥生のお気に入りなのだ。
「“少し”未来というのがどれくらい先のことを指すのかについてはちゃんと、サイト内で説明してるはずなんですけどね」
《確と読まれていないのか、もしくは――》
「分かっててやってる確信犯か」
「後者だったら、ちょっと悪質ですね」
「目立たないようにひっそりとやってきたが、そこそこ有名になって来てるみたいだからなあ。有名税ってやつか。潮時を考えておいた方が良いかもしれないな」
そう言って、カップを手にしたまま、事前アンケートの一覧に向き直る。少しでも世の中の役に立てればと思って始めたことだが、マスコミや大衆の注目を集めたくはない。絶っ対面倒なことになる。と言うのが、弥生の正直なところだった。
香茶を飲みつつ、空いた手でマウスを操作して、一覧にある顔写真と希望する予知時期を、実際の予知結果との一致・不一致を一つひとつ、チェックしていく。時折、Marchのブリッジ部分に触れてズレを微調整しながら。
「――お」
ふいに、弥生の動きが止まった。
「どうしました?」
「一致した」
「ほんとですか?」
その声に、すぐさま弥生の肩越しにディスプレイを覗き見る私。顔の下半分を紫色のベールで隠している女性の顔写真の上にカーソルが乗っていた。
「ああ、でもそうなのか……。いや、これなら、良いんじゃないか?」
クリックして、アンケートの詳細を見た弥生の気持ちが、何やらあっちこっちに行っている様子だった。
「どうしたんですか?」
と、視線を弥生に向ける。
「占い結果との照らし合わせ案件なんだよ、これ」
「え? それならMarchが、意図的に不一致にしてるはずじゃ……」
《いや。確かにそうだが、我はこれなら良いのではないかと思ったのでな。だが念のため、判断を弥生殿に委ねたのだ》
「? どういうことですか?」
「アンケートの詳細を開いて分かったがこれな、占いを受けたお客からではなくて、占い師側からの依頼なんだ」
「占い師側からの? と、言うことは……」
「そう。だから受けても、どんな予知結果だったとしても、営業妨害には当たらない。それにこれには、それらを抜きにしても一刻も早く依頼者に告知した方が良い予知結果が出た」
「どれどれ?」
私は視線を再びディスプレイに向けて、弥生が開いた彼女の事前アンケートの詳細を声に出して読んでいく。
「『東京都』にお住まいの『自称・占い師のヒヨコ』さん。『年齢不詳』の『女性』の方。なるほど、それで顔の下半分をベールで隠されていらっしゃるわけですね。希望する予知時期は『来週の水曜日以降』。ずいぶんアバウトですが、約一週間後ですね。ちょうどクールビズが始まる時期。『私は、新人の占い師です。水晶占いの。練習として、というわけでもないのですが、自分を占いで未来予知してみました。すると往来を行く人たちの格好が薄着でラフになっていたのでおそらくクールビズが始まったころだと思うのですが、その昼間にひき逃げに遭うビジョンが水晶球に浮かんだのです。これが現実となるのか、それをぜひ視ていただきたくて依頼しました。よろしくお願いします』ですか……。それで、弥生が視た時期や結果も――」
「ああ。一致というか、合致した。俺の方では具体的な日時や場所の特定までは出来なかったが、確かにクールビズの期間中と分かるある日の昼間、ヒヨコさんはひき逃げに遭う。さらに言うなら、赤信号を無視したメタリックなオレンジ色のRV車に横断歩道上でひかれて、運転手は救護義務を怠ってさっさと去って行った。その後は分からない」
「そうですか……それは、何が何でも伝えた方が良いでしょうね。一刻も早く。連絡先は――携帯のメアドですね、早速手配します」
私は早速、ヒヨコさんのメアドに、今回のクライアントに選出されたことを伝えるメールを送り、次いでリモートで面談をするのに都合のいい日時を伺うメールを送って返信を待った。
返事は翌日の午後に届き、文面には選出のお礼と共に「今夜であれば何時でも大丈夫です」とあった。それを弥生に伝えると「それなら今夜八時に。連絡は俺の方からしておく」ということになった。
「こんばんは、初めましてヒヨコさん。古瀬弥生と言います。見えていますか?」
その日の午後八時。リモート面談は予定時刻通りに始まった。私はいつものように弥生の斜め後ろで、面談の様子を見守っている。
「こんばんは、初めまして、弥生さん。ええ、しっかり見えています。こちらの画はそちらに届いていますか?」
うすぼんやりとしたオレンジ色の照明に照らされた壁を背にしたヒヨコさんは、顔写真同様、顔の下半分をベールで隠していたが、ジプシーみたいな恰好に真っ直ぐ長い黒髪と切れ長の目から凜とした印象を受けた。声は、水卜麻美アナウンサーとよく似た声をしていた。
「はい大丈夫です、ちゃんと届いています。今日はよろしくお願いします」
両膝に手をついて、腰を折って礼をする弥生。
「こちらこそよろしくお願いします。仕事の関係上、人前ではベールは外せないんです、申し訳ありません」
ヒヨコさんはそう言って、ペコリと頭を下げた。失礼かもしれないが、神秘的な恰好とのミスマッチで、その仕草が可愛らしく見えた。
「いえいえ、その辺は大丈夫ですからお気になさらないでください」
「有り難うございます。それで早速なのですが、予知の方は如何でしたでしょうか」
ヒヨコさんは眉じりを下げ、心配そうな面持ちで弥生に訊ねた。
「そうですね。申し訳ない事に具体的な日時や場所までは特定できなかったのですが、確かにクールビズの期間中と分かるある日の昼間に女性が、ヒヨコさんがひき逃げに遭うビジョンが、僕の方でも視えました」
「そう、ですか……。」
それを聞いて言葉を詰まらせたヒヨコさんの胸中はきっと複雑だろう。自分の予知に対して的外れではなかった安心感と自信を持てた一方で、それとは別に、自分の運命に対する覚悟……みたいなもの? が交錯しているのかもしれない。
「一つお節介を言わせていただくと、徒歩で移動する際、赤信号を無視して直進してくるメタリックなオレンジ色をしたRV車には注意した方が良さそうです」
と、弥生が言った途端、
「あ、それ、私にもそれが視えました。やっぱりそうなんですね、有り難うございます」
表情が上半分しか見えなくてもそれと分かるくらい、ヒヨコさんは嬉々とした様子だった。
「礼には及びません。僕には、たぶん一番重要な、日時と場所の特定ができなかったのですから」
対して弥生は、声のトーンが普段より一段低く、気落ちしている様子がこちらにも伝わってきた。
「逆に訊きますが、ヒヨコさんはどうして、自分の視たビジョンが、クールビズが始まったころのことだと思ったのですか?」
「それは、水晶球に映ったもののうちに視えた、周りの人たちの服装です。特にノーネクタイの人たちがまだまばらで、これはまだ本格的なクールビズの時期ではないなと判断したんです。弥生さんが視たビジョンは、そうじゃなかったですか?」
「なるほど……。言われてみれば確かにそうだったかもしれませんが、そこまで注意深く観ていなかったかもしれません。場所の特定は、できたのですか?」
「はい。個人情報に関わるのでここでは某所とさせていただきますが、これも水晶球に映った、周囲の景色から、私がプライベートでよく行く場所であることが分かりました」
「な、なるほど……」
弥生が気圧されている感じだな。場違いかもしれないが笑ってしまう。ヒヨコさん、新人占い師だなんて言っているけれど、大した観察眼だ。水晶球に映ったビジョンを、事細かによく観ている。
「依頼をいただいておいて言うことではないかもしれませんが、そこまで視えているのでしたら、僕の予知なんて必要なかったんじゃないですか?」
ここからでは弥生の顔は見えないが、たぶん苦笑混じりでそう言った弥生に、ヒヨコさんは、始めは笑顔で、後から真面目な顔でこう言った。
「そんなことはありませんよ。弥生さんの予知のおかげで、自分の予知や見立てに自信が持てたんです。事故を回避できるかどうかはまだ分かりませんが、足搔けるだけ足搔いてみるつもりです。今日は有り難うございました」
「こちらこそ、有り難うございました。勉強になりました。力不足で申し訳ありません。無事に事故を回避できるよう祈っています」
自分の見立ての甘さがよほどショックだったのか、声のトーンが低いままだった。それこそヒヨコさんが、心配そうになるくらい。
「大丈夫ですから、そんなに落ち込まないでください。改めて、有り難うございました」
「「では、失礼します」」
偶然、通信を切るタイミングが重なって、今回のリモート面談はお開きとなった。
「うーん、俺も未来予知ができる者の一人としてまだまだなんだなと思い知らされたな、今回は」
後ろ頭を手のひらで叩きながらそう言って、弥生は自分の見立ての甘さを反省していた。
《新人ではあるのだろうが、流石にプロ、と言ったところか》
ブリッジ部分で弥生の顔を叩きながらそう言ったMarchが、どこか弥生を励ましているように見えたのは、私の気のせいだろうか。
「これからが楽しみな占い師さんでしたからぜひ、どうにか事故を回避して欲しいものですね」
弥生と、そして多分Marchも、深く頷いていた。気持ちの上では三者分の祈りを込めてそう言った私だったが……。
後日、クールビズの時期が来て間もなく。昼間の都内でひき逃げ事件が起きた。起きてしまった。場所は新橋だった。まったくの偶然であったが、私も現場に居合わせたのだ。昼下がりで、それほど人通りの多くない駅近く。事故の原因は、弥生とヒヨコさんの二人が視た通り、運転手の信号無視。赤信号であるにもかかわらず直進してきた、メタリックなオレンジ色をしたRV車が横断歩道上で人身事故を起こした。運転手は急ブレーキを掛け、ヒヨコさんと思しき女性はとっさに身をかわそうとしたが、どちらも間に合わなかった。彼女をひいた運転手は救護義務を怠って強引に逃走。だが目撃者が、私も含め多数いた上に、逃げていく様子をドライブレコーダーやスマートフォンで撮っていた人もいたようなので、捕まるのは時間の問題だろう。
それに不幸中の幸いで、被害に遭った女性は奇跡的に、一命をとりとめた。いち早く警察や救急車を呼ぶ人、心停止しているらしかった女性に、救急車が到着するまでの間ずっと心臓マッサージをしていた人、その周りを囲んで人垣役になっていた人、近くの店からAEDを持ってこようとしていた人までいた。通行人たちの連係プレイが素晴らしかった。あとで聞いた話では、彼女らは看護学校の学生グループだったそうだ。将来有望である。病院に搬送されたが、命に別状はないと、ニュースで報じられていた。
私たちは、時間はかかるだろうが彼女が一日でも早く後遺症もなく全快するよう、祈らずにいられなかった。
『foresee the future a little』で、“面談後はクライアントとコンタクトを取らない”というルールを決めていた弥生だったが、この時ばかりは自らそれを破って、『弥生です。僕が日時を特定できなかったばかりに……大変申し訳ありません』とヒヨコさんのメアドにメールで謝罪していた。気持ちは痛いほどわかるので、私もMarchもそれを責めたりはしなかった。
それに対するヒヨコさんからの返信は思いのほか早く、『日時が特定できなかったのは私も同じですし、事故が起きる条件がそろっていたにもかかわらず油断していた私が悪かったのです(苦笑)。それでもこうして文字通り、九死に一生を得ました。ですからどうかご自分を責めないで下さいね?
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PS・思わぬ形で身バレしてしまいましたが(笑)、またいつか依頼することがあると思うので、もしまた選出された時はよろしくお願いします』とあった。
続く