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Last:今ここにある明日





『我々は新しい時代に生きているということ、そしてそれが望ましからぬものであることを示したのが月命党であった。その思想については手放しで賛同できるものではなかったが、現状に嘆く者に(それは筆者も動揺であるが)ひとつの解答を見せたことに変わりはない。現体制、現政府ではルナティカン犯罪を抑えることはできないだろう。しかし彼らの活動は一時的にではあるがそれを抑制した、その代わりとして彼ら自身のテロが横行したのは残念であるが、それは時代の過渡期にある混乱といっていいだろう。


 我々は今ここで考えなければならない時に来ているのだろうか。ルナティカンを差別していきたことが彼らの暴虐につながっていたのは確かである。それもまた月命党が示したことだ。顰蹙を買う覚悟で書くが、筆者は月命党の活動を最初から好意的に見ていた。組織化されたルナティカン、というものがどれほどの脅威になるかということを知った上である。彼らが反社会組織と手を組んでいたのも然り。


 誰も彼らを嗤うことはできないだろう。やり方は過激だったが、彼らが、彼らだけが未来を見据えていた。きっとこの社会に彼らの思想は浸透していく。我々は今ここで自分たちの足元を見つめ直す必要があるだろう。月命党に続く者は必ず現れる。水面に打たれた波紋は決して消えることはない。ルナティカンを犯罪者、ないし犯罪者予備軍として扱うことは止めにしなければならないのだろうか。筆者は希望を持っている。そしてそれを導いたのが月命党、そして静かなカリスマを持ち得た無貌の仮面に対してだったのだ……』



        ◇



 馬鹿馬鹿しい、と思いながら月奈はその雑誌を投げ捨てた。無貌の仮面、耀司にカリスマがあったなどというくだりには思わず笑ってしまった。まあ、あの飄々とした態度に騙される人も多いということなのだろう。


「なにか言いたいのなら、まず私に話を聞きにきなさいっての」


 もっとも、本当に来られても困るが。


 冬も終わり、春がやってくる。すっかり暖かくなった気候のなか、ぼうっとするような気持ちでソファに横になった。起きたのも昼過ぎである。まさしく春眠暁を覚えずを地でいっているような態度で、それでもまだ眠い。


「つきな〜、だらけちゃだめだよぅ〜」


 いつもなら苺にみっともない姿を晒したくないと思うのだが、今日はどうにもだるいのだった。


「もぅ。もっとしゃきっとして。しゃきしゃきして」

「私はレタスかい」


 月奈は億劫に言った。


「ここのところ忙しかったから、大人には休息も必要なのよ」


 逆に見れば、月奈も苺の前でだらけた格好をみせられるまでに仲が深まったとも言える。これまで少し気を張り過ぎていたきらいもあったので、これはこれでよいことであると月奈は自分を無理矢理肯定した。


 耀司との顛末については苺に正直に話した。彼女はもちろん悲しんだが、それでも月奈のしたことは否定しなかった。月奈は仕方のないことだとは言わなかった。それはあまりにも無責任すぎるからだった。月奈と耀司の関係がいったいどういうものであったのか――いずれ苺も悟ることになるだろう。しかしそれまでには時間はかかるだろう。


 それでいいのだ。


「お酒は飲んじゃだめだよ」

「分かってるって」


 ルナティカンの暴動はまた増加傾向にあった。その中には「無貌の仮面の遺志を継ぐ」などと言って憚らない輩もいた。だが月奈としては、暴力で起こす革命には必ず反動がくるとしか思えなかった。それが月命党を、彼らを否定した第一の理由である。


 もちろん、このままでいいとは思ってはいない。とはいえ、ひとりができることは限られている。月奈は今までのことを続けるしかないと思っていた。そして、ひとりひとりが明るい未来を希求すれば、いずれ世界は変わっていくだろうと信じる。それが無邪気な信心であることは分かっている。


「あなたは早すぎたのよ、耀司……」


 彼が言った通り、月奈の心には耀司のことが刻み込まれていた。思えば彼にはもっと優しくすべきだったのかもしれない。あの優男風の容貌と態度にあんな熱を持っているとは思わなかった。大した男だった――殺してからでは遅すぎるのかもしれないが、月奈は自分の中で彼の評価を改めていた。


 しかし、それももう過去のことである。ひとは未来を見ていかなければならない。明日を夢見て生きていかなければならない。より明るい明日を信じて。


「まぁ……私はそこまで立派な人間じゃないけど」


 それでもはっきりしていることはひとつだけある。


 月奈はきょとんとしている苺の顔を見た。それだけで2人は微笑み合い、身体を熱くする。そうだ。私は苺のために、苺のためだけに戦う。戦いとはルナティカンとの戦闘だけではない。生きていくこと、健やかに生きていくことが即ち偉大な戦いなのだ。


 宇田からの着信があった。仕事を告げる音だった。


「月奈、頑張って」


 苺のエールは月奈に無限の力を与える。


「うん。ところで、ちょっと苺にお願いがあるんだけど」

「なぁに?」

「ちょっと格好いい二つ名が欲しいなあ、って思っていたところなの。あなたの名前を貸してくれる?」


 苺は最初、なにを言われているのか分からないというような顔をしたが、すぐに得心した。


「うん、いいよ!」

「じゃあ、行ってくるね」


 そぅ言って、月奈は戦いの準備をするために自室に戻り、黒装束に着替えて刀を装備する。いつものことだ。なにも心配することはない。私は勝つ。勝ち続ける。


 そうしてバルコニーに向かう途中、苺が顔を赤くしてなんだかもじもじしているのを見て月奈は足を止めた。


「どうしたの、苺」

「んー、えーっと、ね……」


 苺は恥ずかしがるような笑みを見せてから、言った。


「チュー、して」


 月奈は微笑み、彼女の言葉に答え、唇を合わせ、抱き締めた。



        ◇



 正義の味方も悪くないのかもしれないわね、と月奈は呟いた。現場をビルの屋上から見下ろし、ここから新しい戦いを始める。心が沸き立つのを感じる。なにか大いなる力に護られているような気がした。その大いなる力は女神の形をしていて、その姿は苺だった。


 彼女は飛び降りた――血の舞う戦場に向かって。


 そして叫んだ。


「私はこの街を守る者、ストロベリームーン! あなたたち、覚悟しなさい!」



 そうして彼女は駆け出す――今ここにある明日をつかむために。





     (完)

これにて完結でございます。なろうでは初投稿だったので、色々至らない部分があったと思いますが、まずはここまで付き合って下さった読者様に感謝を申し上げたいと思います。ありがとうございました。


今作はカッコいいとカワイイの両立を目指したバトルアクション&百合ということでしたが、いかがだったでしょうか。いつものことですが、書き上げてから改めて振り返ってみると自分に表現力の至らなさというか、ここはこうすべきだったなあという反省は色々出てくるんですが、出したものが自分の全力ということで、あとは読者様がどう受け取ってくれるかを待つのみであります。


37話、約14万字と、なろう基準にしては小作品となりましたが、この一ヶ月は執筆してて楽しかったです。


ではまた、どこかでお会いしましょう。でもよいこのみんなは18禁に来ちゃだめだよ!



2022年12月17日

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