はじまり
考えてみれば、普通なら死んで終わっていたところを転生させてもらえるのだから、寧ろこちらが礼として何かを差し出すべきではないのか、という向こうの言い分も腑に落ちる。
何の交換条件もなしに、やれチートくれだの、やれ美少女よこせだのとよく言えたものである。
神さま(?)の話によると、その人物を総合的に見て一体どれほどの価値があるのかを鑑定し、その価値に応じて異世界転生先や転生後の初期環境が決まるらしい。そして転生の際、その人物の持つ一番価値の高い項目を神に差し出すことで、諸々のバランスが取れているのだとか。神々の尺度であるためいまいちピンとこないが、要は才能やら能力が高水準であればいいのだろう。高尚な趣味や人柄なんかでもいいのだろうか。そんなことを考えているうちに、神さまは俺にまつわる情報をひと通り鑑定し終えたらしく、何やら神妙な面持ちで思案している。
俺はといえば、これから始まるであろう異世界ライフに胸を躍らせ、そわそわしているのが彼女にバレないよう、「オレのこと、隅々まで好きに見るといいさ」という大人の余裕を見せつつ尋ねてみた。
「それで、いったい僕の価値はどれくらいだったのでしょう?」
「‥‥‥‥‥‥」
よく聞こえなかったのか、彼女は未だ黙って俯き、僅かにうかがえる表情は先ほどより険しいものになっているような印象を受ける。こういうとき、もう一度聞いてもよいものなのだろうか。死んでなお、沈黙の打破という胃痛シチュに神経をすり減らすことになろうとは。俺が今いるこの部屋は白い壁に囲まれただけの静かな空間だったが、空調の音だろうか。めちゃくちゃ聞こえる。気まずい。正直帰りたい。
「‥‥‥‥‥す」
ん?今なんか聞こえた!もっとはっきり聞きたい!!どんなチート能力がもらえるんだとか、どんな設定の世界なのかとか、もっとちゃんと聞きたい!!!!どうやらこの神、僕よりボソボソ喋るらしい。とにかく聞き返さないことには何も始まらないので、
「すみません、よく聞こえなかったのでもう一度お伺いしても…?」
「ひゃっ!?ぇあ…っ!あぁ‥‥‥、えとえと、すみません!!再度申し上げますね…。」
そんなに驚くことないだろ、そう言おうと思ったが今はそんなことどうでもよかった。コミュ障ゴッドより異世界ライフである。頭の中ファンタジーな俺をよそに陰キャゴッドはたどたどしく言葉を紡ぐ。そして不器用に、真っ直ぐに放たれた次の一言で俺の思考回路はショート寸前‥‥否、ショートした。
「あな、あっ‥‥。ぁぁぁあなたに価値はありませええぇんっ!!!!」
やれるだけやってみます。 寝耳