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旅立ち

 猫多羅(みょうたら)村まで戻る頃には既に陽も暮れていた。

 村の老猫や雄猫たちには活気が蘇り、肥えた猫娘だけがむくれ面を並べる中で、復興を祝う村祭りが急遽開催された。

 村猫は鈴とでんでん太鼓を手に持って、猫大明神の像を囲んで歌と踊りを楽しむ。

 主役は当然メリーであり、卓の上には山盛りの料理とマタタビが並んだ。


「私、お肉はあまり好きじゃないのだけれど」

「ボクたち野菜は食べないからにゃ。でも川魚だったらあるんだにゃ」

「まあ、我儘は言ってられないわね。では、いただきます」


 慣れない箸を使って、ゆっくりと料理を口に運ぶメリー。

 一皿を時間を掛けて平らげると、次にもう一皿。緩やかながら止まる気配は見せず、延々と箸を動かし続ける。


「ちょ……ほっそりとしてる割に、意外と大食いなんだにゃ」

「鍛えた体は多くエネルギーを欲するものよ。ちなみに今で腹ゼロカンマ一分目」

「既に十皿は食ってるにゃ……満腹まで残り、九百九十皿……」


 ミュウはざっと会場の料理を見渡して数えるが、絶対に足りないと分かると、途中で吹っ切れて諦めた。


「安心して、一分目くらいで抑えておくわ」

「助かるにゃ。次は飢餓で苦しむところだったにゃ」


 冗談交じりにミュウは笑みを浮かべて、すると鉄仮面のメリーの口元が少しだけ上向いた――ようにミュウには見えた。

 村の者たちは次々にメリーの下に訪れて頭を下げる。それはなんの文化なのかと村猫に尋ね、感謝の為に頭を下げると聞くと、メリーはご飯のお礼にと頭を下げた。

 その後は村長の家に招かれて、客間の襖を出た縁側で、一人たばこをふかして月を仰ぐ。一服を終えたメリーは(とこ)に就いて、紅蓮の瞳を静かに閉じた。


 メリー・テラフォンは夢を見る。毎度毎度見る夢は暖かな家庭からはじまり、最後はゴミ捨て場で涙に濡れる。

 この世の全てを憎んだメリーは呪いの為に強くなり、誰にも決して捨てられない、全ての頂点に立つことを決める。

 朝に目覚めると、目の縁の涙を拭うメリー。これが毎度の習慣で、しかし慣れることはない。

 この夢を永遠に封じるためにも、メリーはがむしゃらに強さを求める。


 朝の支度を整えると、メリーは挨拶を済ませて村を発つ。

 村人たちに惜しまれながらも、メリーは鉄仮面を崩さない。ただ前だけを見続けて、次なる強者を求め一人延々と――


「メリーさん!」


 メリーが振り返ると、村猫たちの前に出るミュウが険しい顔を浮かべている。


「メリーさん、ボクも一緒に連れて行ってほしいにゃ!」


 突然のことにざわめく村猫たち。

 だがミュウの決意は固く、琥珀の瞳はメリーだけを見つめている。


「駄目よ。足手まといだもの」

「分かってるにゃ。でもボクは父母を奪ったオロチに仇を討ちたい。オロチを倒すという、メリーさんをこの目で見たい」


 オロチに吞まれた者は魂すらも呑まれてしまう。これも一つの封印で、オロチが滅しない限りは永久に転生できない。

 くすぶっていたミュウはメリーを見ることで憧れを抱き、そして希望を見出した。


「金魚のフンはごめんだわ。付いて来るなら隣で、私に並べるように努力なさい」

「う……うん!」


 村猫たちが手を伸ばす中、ミュウはそれらをすり抜けて駆け出した。

 振り向いた先には長老がいて、遠い眼差しでミュウを見つめる。


「ごめん、爺ちゃん! 一生に一度の我儘をどうか許して!」

「ほっほ、まるでぬらりひょん様と旅立った、息子のニアを見るようじゃ」


 互いに微笑み合うと、背を向けたミュウは振り返ることはしなかった。


「いいんですかにゃ!? 村の大切な跡継ぎを……」

「あの……メリーという者は、途轍もない妖怪(オカルトモンス)やもしれぬ」

「オカルトモンス?」

「西での妖怪の呼び方じゃ。儂も昔に、ぬらりひょん様と西のオカルトモンスとの戦いに参じたことがあっての。吸血鬼に狼男に、フランケンシュタインもおったな。それはそれは恐ろしい、屈強なあやかしばかりじゃった」

「そうにゃんですか。ですが最近は西の噂は聞きません」

「うむ。それがあのメリーという者、西のオカルトモンスを一掃したというのじゃ」

「ええ!? 確かにネージュを倒したのは凄いですが、それは幾ら何でも誇張にゃんでは?」

「分からぬ。が、もしオロチを倒せるというのなら、我が血族は馳せ参じねばならぬ。これも猫大明神様から続く宿命なのじゃ――」

これで一章はおしまいです。

6話からはあの超有名な都市伝説、ぽぽ……お楽しみに。

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