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ひとりぼっちの呪い

 その後はメリーとミュウとヨーコの三人揃って、近くの病院である、不死急患(ふじきゅうかん)病院へと担ぎ込まれ、距離を離した川の字でベッドに並ぶ。

 起きている間は終始激しい体調不良に見舞われて、呻きを上げる戦慄病棟と化す。

 陰気に誘われてあらぬお化け達が寄って集るが、あまりの凄惨に目を伏せて、近寄れば汚物を吐きかけられ、その内にお化けすらも寄り付かぬ隔離病棟と成り果てた。


 三日三晩うなされて、ようやく四日目には風邪なみの容態に落ち着いて、ヨーコは腰を上げると枕元の桶に嘔吐いた。


「うぅ……我ながら凄まじい破壊力だった……」

「ほんとよ。これを人にやろうってんだから、反省するのはあんたの方ね」

「メリーさん、体調はマシににゃったけど、なんだかとてもイライラしてるにゃ」


 メリーは口元に手を添えると、すぱすぱと息を吸って吐いた。


「これよこれ。隔離されてるものだから、たばこが吸えなくてイライラしてきた」

「はは、そんにゃことか。この際に禁煙したらいいのにゃ」

「無理よ。私の反骨の原点だもの」

「にゃんでメリーさんはたばこを吸いはじめたのにゃ?」

「ゴミ捨て場からたばこ屋へ……その時にむしゃくしゃしててちょっとね……」


 メリーの赤の瞳には暗い影が落ちる。

 ミュウは出掛かった言葉を一度止めるが、ごくりと唾を呑み込むと、思い切って尋ねてみることにした。


「メリーさんの怪談の原点。メリーさんがなぜ妖怪ににゃったのか、それを話してはくれにゃいかにゃ?」

「…………」

「この三日三晩。起きてる時はそれはもう辛かったにゃ。だけどメリーさんに限っては、寝ている時の方が辛いように……」


 病室をしんと静寂が包む。

 メリーはベッドから足を下ろすと、ふらふらと歩き出して、窓を開くとたばこを咥えた。


「一本だけ――」

「内緒にするにゃ」


 煙を吐き出すと、遠くを見つめながらに、メリーは重い口を開いた。


「私は元は西洋人形。マリアの誕生日にやってきた、父母からのプレゼントだった」


 懐旧を見つめるメリーの瞳は、紅蓮を湛えた恐ろしいものから、まるで幼子(おさなご)のように、きらきらと夢に輝いた。


「幸せだったなぁ……返事をしない私にずっと語り掛けて、どこへ行くにも私を連れて、マリアの成長をずっと見てきた。私とマリアは友達で、ままごとも沢山したし、何よりのお気に入りは、玩具の電話を使って私と話をすることだった」


 メリーは左手を胸に当てると、心を掴むように、ぎゅっとドレスを握り締める。


「私は(こいねが)った。どうかマリアとお話したいと。そしてそれは叶った。電話の時だけ、私はマリアとお話しできた。とてもとても嬉しかった。涙が出る程に嬉しかった。そんな私は次の日に――」


 ”ゴミ捨て場で涙に濡れた”


「最後に見たのはマリアの背中。私は必死に叫び続けた。だけど声は届かなくて、マリアは一度も振り返ることはしなかった。そこから先は恨みの人生。一時はあらゆる人を祟ったけど、未だにマリアの背は掴めていない……」


 メリーは携帯灰皿にたばこを押し込むと、それを胸のポケットにしまった。


「以上よ。湿った話をしてごめんなさい」


 話を聞き終えると、ミュウはつぶらな瞳を潤ませて、ヨーコは人目も憚らず泣きじゃくる。


「うぅ……可哀そうすぎるにゃ……」

「うぐ……ひぐ……私の整形失敗談が、笑い話に聞こえまぁす……」

「それ、整形だったのね……ブランド財布を持つユイや、厚化粧のヒラコといい、妖怪女たちは美意識が高いのね」


 メリーはふらふらと歩き出すと、ベッドに腰を下ろし横になる。


「はぁ……まだまだちょっと具合が悪いわ」

「うぅぅ……でも今回の不法侵入とは無関係……」

「まだ言うの? あれは異界から抜ける為の弊害だったのよ。証拠としてこの携帯電話を調べてみなさい。もっとも呪壊して電源は付かないけど。この妖界にはない機種には間違いないわ」

「なるほどでぇす。ではいったん押収させてもらいますが、次に公務執行妨害についてでぇす」


 むくと腰を起こすと、メリーは鋭い視線をヨーコに突き付ける。


「ちょっと……言い掛かりはよしなさい」

「いえ、言い掛かりではありませぇん。私の刑罰を妨害しましたぁ」

「私はべっこう飴を投げただけよ」

「口裂け女というものを知っていての行いでぇす。悪意があると判断しまぁす」

「検挙しなければ気が済まない訳? それとも賄賂でも払えと――」


 するとヨーコは首を振り、にやりと嫌らしい笑みを浮かべてみせる。


「汚職はしませんよぉ。ただね、今のあなたの話を聞いて、すこぉしお手伝いをして欲しいなぁって」

「それって脅迫じゃない」

「捜査協力って言って欲しいでぇす。もし協力してくれるなら、公務執行妨害も免責してあげまぁす」

「私は誰の指図も……」

「ならば豚箱に入るといいでしょぉ。例え逃げても全国指名手配して、捕えた際にはもう一度、死ぬほどの体調不良を味わわせてあげまぁす」

「くそが……また体調不良がぶり返してきやがったわ!」


 不貞腐れたメリーは、そっぽを向くと布団に被さる。

 代わりにミュウがヨーコの話を取り次ぐことに。


「いったいボク達に、何をさせるつもりにゃ」

「一つ、未解決の事件がありましてぇ。それの捜査協力をお願いしまぁす」

「警察でも手をこまねく事件を、ボク達で解決できるのかにゃ?」

「証拠を探せとか、犯人を探せという訳じゃありませぇん。というか、そもそも現場に入れない。強力な呪詛が張り巡らされ、今でも踏み込むことができないんでぇす」

「ひえ……呪詛……」


 もぞもぞと布団が蠢くと、メリーがひょこりと顔を出す。


「呪いには呪いをという訳? 酷い話だけど、いったいどんな呪詛なのよ」


 それは蟲毒(こどく)などよりお手軽で、誰でも家で一人でできる。

 いや、一人であることが必須条件。本来は二人以上でやることを、たった一人と一つで行う。


「一人かくれんぼ。家主はその呪術を行って、今も呪いは解けてませぇん。家から逃げた家主を探して、今も呪われた部屋の中で家主を探して彷徨っている――」

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