メリーVSスーパーヒラコ
黄金の闘気を湛え、真の力を引き出す超ヒラコ。
座敷わらしは基本的には軟弱な妖怪だが、しかし一万倍ともなれば、その力は想像を絶するものに。
「ではでは、ちょいと動くぞ。ほんのちょちょいちょいとな――」
「み……見え……」
瞬く間もなく間合いを詰めよると、力強いアッパーがメリーの顎を打ち抜く。
「うぐ!?」
すぐにメリーはカウンターの右脚を振り上げるも、空を切り手応えは感じられず。
「遅いわ!」
ヒラコの裏拳がメリーの後頭部を打ち抜いて、強烈に畳に叩き伏せられる。
「よくも背後を……」
「だからどうした!」
腹を蹴り上げられると、抜けた天井を越えて宙に浮かぶメリー。既に上空にはヒラコが先回りしており、両手を重ねて固めると、地上に向けて叩き落とす。
畳も床も貫いてメリーは地面にうずまった。それを見下ろすヒラコはまるでホバーするように、ゆっくりと両足を畳に着ける。
「言っておくが、我はまだ本気ではないぞ。五十”ぱぁせんと”といったところじゃ」
震える手が空いた穴の縁を掴み、メリーが顔を覗かせる。打った頭は血を流しながらも、不敵な笑みを浮かべていた。
「よ……良かったわ……その程度じゃ……つまらないと思っていたところよ」
「ほほ、強がりを。じゃが運と実力、双方とも我に軍配が上がっておる。先の例えで言うならば、絶好調の”ぷろ”に挑む”すらんぷ”の”あまちゅあ”といったところかの」
「おあいにく様。私は常に不幸であり、それがつまりベストコンディション」
メリーは穴から飛び上がると、追って来るであろうヒラコを上空から見下ろす。
しかしヒラコは直立不動で動く気配は見られない。
「空中戦に自信ありか? だが残念じゃったな。我はその上を行くのじゃ」
「だったら早くあなたも――」
「その必要はない」
ヒラコが右手を掲げると人差し指が立てられる。その狙いはメリーへ向いて、指先には迸るエネルギーが集束していく。
「な……なんなのこれは……」
「喰らうがいい、我が全身全霊のじゃじゃん波をな」
咄嗟にメリーは両腕を交差し、ガードの体勢を作り出した。
「じゃじゃぁああああああん!」
瞬間、閃光が煌めいて、直後にヒラコの指先から極太のビームが射出される。その破壊力はメリーのガードを易々と破壊する超威力。
メリーは影かたちもなく消え去ると、空まで突き抜ける光の筋は、雲すらも破り天に昇った。
「ほ、ほほほ……ほほほほほ! 勝った! これにて我の”はっぴぃえんど”――」
「私、メリー……」
力と勝利に舞い上がるヒラコは、それをすっかり忘れていた。
メリーの絶対の能力、アブソリュート・ビハインドを。
「あ…………」
「今ようやく、あなたの背後に立った!」
超ヒラコは一万倍の力を有している。それはメリーすら凌ぐ、途轍もない身体能力かもしれない。
しかし力だけ。常時は運頼みのヒラコは戦闘技術を持ち得ない。せっかく得た力も、ありあまるエネルギーを暴走させるのが限界で――
対してメリーは百戦錬磨。技術と努力が骨の髄まで刷り込まれたメリーと違い、ヒラコは反射的な行動に至ることができず――
「MARYYYYYYYYYYYYYYY!」
「ぎぃああああああああああああ!」
爆速の蹴撃がヒラコを襲い、飛び上がるメリーは両足でスタンピングの連撃を。
「MARYMARYMARYMARYMARY……」
「ぎょぎょぎょぎょぎょぎょぎょぎょぎょ……」
そして最後にバク宙し、慣性を伴った極超音速のサマーソルトがヒラコの顎に迫り来て――
「MARYAAAAAAAAAAAAAAA!!!」
「ぎょえぇえええばぁああああああああ!」
顎を破壊され吹き飛ぶヒラコは、御寝所への襖を貫いて、屋敷の最奥に飾られるオロチの紋章を突き破った。
めりこむ壁からずり落ちて、意識を失くしたヒラコは黒の垂髪で顔を覆う。
つまりこれにて、メリーの立ち位置の白黒は決着した。
「私、メリー。今あなたの上に立ったわ!」