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♪モリーニのステキなクリスマス☆☆☆

♪モリーニのステキなクリスマス☆☆☆


「ママ、今日のお話は?」

寝床に付くとモリーニはいつものようにママにお話をせがむ。

「そうねぇ・・・じゃ、そろそろクリスマスも近いので一つステキなお話をしましょうね。」


~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆


ここモンブラン市にはステキなイチョウ並木があって、みんなは木々が黄色く染まるのを楽しみにしていた。

ようやく黄色く染まった木々は、ちょうどシルビィーのいつもの学校からの帰り道だった。

カサコソと枯葉道をてくてくと進むと、やがて黄色いイチョウ並木に差し掛かった。

「寒くなったけどこの並木道はなんだかステキね」

木々を眺めながら進む。

ようやくいつものボンボニエールオバサンの店にたどり着く。

「おかえり、シルビィー」

おばさんは店の入り口でいつものように立っていた。

「今日はクリスマスイブね。今からケーキの予約のお客さんがいっぱいやってくるから大変なのよ。そうだ、もしよかったらシルビィーも手伝っていってくれないかしら?」

ボンボニエールおばさんにそう言われるとなんだか断れないで居るシルビィー。

だっていつもここを通るたびに飴ちゃんを貰っているんですもの・・・・

「よぅ、シルビィー!」

そこへフロリアンが通りかかった。

「あら、フロリアン!あなたも今日のお客さん?」

「え、なんの?」

「だって今日はクリスマスイブよ。知らないの?」

「うん、僕はクリスマスなんてちっとも知らないんだぜ。だって孤児だもん・・・」

そういうとフロリアンは振り向いて駆け出していってしまった。

思わずシルビィーはフロリアンに悪いことを言ってしまったと気づく。

そうよね、あの子、一人ぼっちで暮らしているんだもんね。

いつも学校にも行けずに仕事ばっかりで、可哀想なこと言っちゃった・・・

シルビィーはフロリアンにお辞儀をすると、ボンボニエールおばさんの待つ店の中へと入っていく・・・・


「さあさ、こっちこっちシルビィー。今日は忙しくなるわよ!」

そういうとシルビィーに前掛けをつけると厨房へと連れてゆく。

既にオーブンにいっぱいケーキのスポンジが焼かれている。

タップリの生クリームをこねるおばさん。

おばさんに言われるままにトッピングのイチゴのへたを採るシルビィー。

オーブンから取り出したスポンジにタップリと生クリームを塗りつける。

そしてシルビィーのイチゴを今度は砂糖と一緒に煮込む。

チョコレートの粉をケーキにまぶすとさらにホイップをデコレーション。

甘いイチゴを冷やして載せたら出来上がり。

「おばさん、さっきね、フロリアンに悪いこと言っちゃったの、わたし・・・」

「ええ、あの子可哀想よね。そうねぇ・・・・」

そういうとケーキを作る手を止めて、少しのあいだ思案に暮れたようなボンボニエールおばさんが何やら奥の部屋へと向かった。


しばらくしてオバサンが戻ってくると何やら可愛らしい赤いリボンで結んだ星模様の紙包みをシルビィーに手渡す。


「シルビィー、これは今日のお駄賃よ。ありがとうね」

シルビィーは手渡された紙包みをみつめる。お星様がいっぱいにちりばめられている。

「これはね、今日の飴ちゃんよ。ほら、フロリアンにもあげてね!メリークリスマス!」

そういうとオバサンはそそくさと厨房に戻った。


~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆


さきほどのイチョウ並木を過ぎたところでフロリアンの家が見えてくる。

まだいるかしら・・・シルビィーは玄関へと向かう。

玄関ドアをノックするとフロリアンが現れる。

「どうしたんだい、シルビィー?」

「さっきはゴメンね。はいこれプレゼント」

シルビィーはおばさんに貰った包みを手渡す。

「え?いいよぅ、僕何にもいらないよ」

「これね、おばさんからよ。今日の飴ちゃんだって」

シルビィーはフロリアンに包みを開けるように言う。

袋の中には星型のカラフルな飴ちゃんがギッシリと詰まっている。

「いいよぅ、これシルビィーのだろ、おばちゃんの手伝いした駄賃だろ」

「そうだけど、フロリアンにもあげてって」

「じゃ一個だけ貰う」

「うんう、いいの。私が一個だけ貰うから、後はフロリアンへのクリスマスプレゼントよ」

そういうとシルビィーは中からピンク色の飴ちゃんを摘むと頬張る。

それをみていて我慢できずにフロリアンもブルーの飴ちゃんを口に入れる。

すると~☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

なにやら先ほどまで晴れ渡っていた秋空が真っ暗になるや、雷が鳴り閃光が走ったと思うや否や、辺り一面が閃光に包まれてしまったではないか・・・


~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆


シルビィーが気付くと二人はフロリアンの家の庭の芝生に横たわっていた。

辺り一面は朝陽に包まれている―――

うつろなシルビィーは尚も横たわっているフロリアンをゆする。

「なんだよぅ~」

寝ぼけた様子のフロリアンが眼をこすりながら身を起こす。

「フロリアン、大丈夫?」

「あ、ああ・・・シルビィーこそ・・・」

「それにしても何だったのかしらね、あの閃光」

「僕たちどれだけの時間ここで倒れていたのかなぁ・・・・」


~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆


「さ、今日はもうおしまい」

モリーニがウトウトし始めたのでママが話をやめた。

「だめだよぅ、もっと聞かせてよぉ~」

「ダメよ、ほら明日はモンブラン遊園地でメリゴーラウンドに乗るんでしょ?」

「うん、そうだけど・・・」

「ほらほら早く寝なさい」

モリーニはウトウトしていたものの話を途中で遮られたので中々寝付けないまま窓越しの星空を眺めている。

一筋の流星が流れてゆく。ほら、また一つ・・・・

やがてモリーニは良い子にすやすやと寝付いてしまった。

~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆


「トントン、オハヨウ、モリーニ!」

部屋の外で誰かがノックする。すると中に入ってくる。

それは見慣れないちっちゃな女の子。

年の頃モリーニと同じくらい、5歳くらいだろう。

「きみだれ?」

「わたしネム」

「いったいどうして?」

「あなたのママから頼まれたの」

「ふーん、そうなの」

「さぁ早く起きて遊園地いきましょ」

「朝ごはんは?」

「いいの、そんなのあとあと!」


へんな子だなぁと思いつつもモリーニはパジャマを着替えるとネムに引っ張られながら家を出た。


いつもの遊園地のほうへと向かう二人。

モンブラン市の遊園地は次の角を曲がるとあるのだが、どういうわけかネムは森のほうへと引っ張っていく。


「あれ?こっちじゃないの?」

「いいの、こっちこっち・・・」

そそくさと引っ張り続けるネムに少し不安がよぎるモリーニ。

やがて黄色いイチョウ並木が続いている道を先へと進む。

パン屋さんを通り過ぎるとやがて一軒の小さな家が現れた。

ネムはどうしたことかその家の庭へと入ってゆく。

すると二人のやはり同い年くらいの男の子と女の子が呆然としている。


「オハヨウ、シルビィー、フロリアン!」

ネムがそういうと二人はキョトンとしたふうにこちらをみつめる。

こ、これは・・・・モリーニはハッとする。

だって、夕べのママのお話そっくりなんだもん!

イチョウ並木があって、パン屋さんにシルビィーとフロリアン!


「ネム、これって、どゆこと?」

「へ?何がよ?」

「だから~、ここはどこなの?」

「モンブラン市」

「それで彼らは?」

「シルビィーとフロリアン」

「ど、どういう関係?」

「お友達よ」

「君と僕は?」

「お友達」

「だって僕君のこと知らないし・・・」

「なにいってんのよ、友達でしょ」

「ま、そゆことにしとこうか・・・」

シルビィーとフロリアンも動揺を隠せずに居る。

フロリアンが切り出す。

「君は誰?」

「わたしネムよ。貴方達の友達」

「え?いつから?」

「遠い遠い昔から」

「なんですとぅ~!」

二人も信じられない様子で仰天する。

「さ、そんなこといいから早くついてらっしゃいっ!」


3人は見知らぬ友達に誘引されながら枯葉散る並木道を先へと進む。

すると真っ赤なオープンカーが枯葉を撒き散らせながら到着する。

それはボンボニエールおばさんだった・・・

「あ~ら、ネムちゃん、おはよう。今日はどちらへ?」

「あらおばさまお元気?きょうはね、お友達と皆んなで遊園地へ」

「そうなの、じゃあ気をつけてね!バッハハ~イ!!」

そういうと真っ赤なオープンカーは枯葉を尚も巻き散らかしながらすっ飛んでいった。

ことの事情に困惑するシルビィーとフロリアンが唖然とする。

ネムちゃんって一体・・・・


~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆


一同はようやく遊園地に到着する。

そこは誰しもが知っているいつもの遊園地ではない様子。

入り口のゲートから見える大きなメリゴーラウンド。

そのお馬さん達である筈が、ここではトナカイさんたちになっているではないか!

しかも遊園地だというのに他の遊具は何も見当たらず・・・・


「おやおやようこそ、ネム様!」

すると、向こうからサンタクロースの格好のコンシェルジュ☆ヤソキチが登場した。

不思議に思いながらもヤソキチの案内で一同はそのトナカイさんのいるメリゴーラウンドに跨る。

音楽が流れる。いつか聞いたリチャードクレイダーマンの「エレノア」。

ネムが好きな曲。

コンシェルジュ☆ヤソキチのお見送りでメリゴーラウンドはゆっくりと回り始める。

すると、さきほどまでそよそよとそよいでいた秋風が突風へと変化する。

皆は吹き飛ばされないようにとトナカイさんにしがみついた。

かぜはますます激しさを増してゆく。

次の瞬間、辺り一面が何と雪景色に変わってしまったではないか!

そして一同は気がつくとどうやらソリに乗っている。トナカイさんが引っ張っており、サンタクロースの格好のコンシェルジュ☆ヤソキチが手綱を引く。

ソリは雪景色の街道をシャンシャン鈴の音を響かせながら森のほうへと向かってゆく。

「ようこそ!トミマロランドへ!」

ヤソキチはそういうと尚もソリを突っ走らせてゆく。

やがて森に入ると鬱蒼と陰る木々によって先ほどまでの風は遮られた。

寒さで一同はぷるぷると震えている。まるで子犬のように・・・

やがて森を抜けると広い雪原がそこにはあった。まるで北欧のように。


ヤソキチはソリを静かに停める。

ふかふかの深雪に降り立つ一同はどういうわけか長靴をはいているではないか!

そしてフード付きのダウンコートを羽織っている。いつのまに?

「ようこそトミマロランドへ!」

ネムがヤソキチに質問する。

「ヤソキチさん、ここは何処なの?」

「ええ、ここには貴方のお父様のモンブラン市長様から案内するようにと伝えられまして。」

「嫌よ、こんな寒いところ!」

「いえいえ、大丈夫ですよ。ね、モリーニ。」


モリーニはヤソキチのその言葉にキョトンとしたまま突っ立て居る。すると・・・

すくすくとモリーニの体が育ち始めるではないか!

そしてどうしたことかモリーニは大きなお腹になって行き、お城の形に変化して行った。

モリーニはなんとなく思い出したようにはしゃぎ始める。


「キャハッ!今日は僕がお城だよ!みんな寒いから中に入っていいよぅ!」


するとコンシェルジュ☆ヤソキチは皆が城の中に入ったのを確認すると、一仕事終えた安堵感を憶えながらソリに飛び乗ってトナカイの手綱を引くと森の中へと消えて行った。


~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆


城の中は暖炉のおかげで暖まっている。

静かに焚き火の音と振り子時計のチクタク音だけが大理石のホールで響いている。

すると通路の彼方からなにやら一同のほうへと向かってくる。

それはキャタピラーのゴロでキシキシときしみ音を響かせながら現れた。

「ゴキゲンウルワシュウ!わたくしはロボトミーの新生トミマロと申します。」

一同は不思議そうに電脳ロボットのトミマロをみつめる。

シルヴィーがトミマロに質問する。


「アナタ誰?」

「トミマロ」

「ここは何処」

「トミマロランド」

「何でここに?」


「オーナーだから」

「あなたってお金持ち?」

「そんなもの必要御座いません」

「それは何故?」

「奥さんが美味しいご馳走を採ってくるからです」

「ステキな奥様ね」

「それはどうでしょう・・・それより本日から私がコンシェルジュ☆ヤソキチ様に代わってアナタ方のご案内をさせていただくことになりました。目的としましてはここ「トミマロランド」での宿泊研修となります」

「宿泊研修?」

「はい。ここ「トミマロランド」ではクリスマスに向けてサンタクロースを養成していまして、世界中の良い子達にこちらからプレゼントを配っているのです。」

それを聞いたフロリアンがつんと口を尖がらせながら言う。

「へぇ良かったね、どうせオイラは一人もんでプレゼントなんか貰ったことないぜ。悪い子だもんなっ!」

「いえいえ。めっそうもありません。それは何かの手違いかと・・・」

「じゃ、今年からちゃんとくれるんだね?」

「はい、あなたのここでの努力次第で・・・」

「努力って、何?」

「ここでは世界中の子供達に配るプレゼントをサンタさんが作っています。それを皆さんにも手伝ってもらうことになります」

「どんなプレゼントなんだい?」

「子供達がクリスマスイブの晩に長靴の中に入れた願い事の書いてある手紙をある方法で入手し、それを作っているのです」

「その「ある方法」って?」

「それは今は言えませんが、いずれ分かります、さ、こちらへ」


一同はトミマロの案内で暖炉のあるリビングへと通される。

すでに食卓の準備が整っていた。

「皆さん寒い中長旅お疲れ様。さぁどうぞ召し上がれ」

「これってなんだい?」

「トナカイ料理です!」

一同は思わず度肝を抜かれる。だってトナカイって・・・

複雑な心境の下、それぞれはトナカイスープをすすり始める。

「ん、うんめぇ~っ!」

「温まるでしょ?」

「ほんと、美味しいね」

残酷さも乗り換えたように美味しく戴いた。


食事を終えた一同はキシキシと動くトミマロの案内で通路の奥へと向かった。

突き当たりの大きな鉄扉を開くとそこは体育館のように大きな部屋となっていた。

部屋の中では大勢のサンタさんたちがプレゼントのおもちゃなどを作っている。

まさに「おもちゃ工場」だった。


「さて、皆さんもこれに着替えて」

トミマロはそういうや一同にサンタさんの衣装を身に着けさせる。

そしてちっちゃなサンタさんたちは机に座らせられると、トミマロがおもちゃの部品を机の上に置く。工具を使いながら作り方を皆に伝えると、何処かに消えてしまった。

「これって、私達に働けって話なのかしら?」

「なんだかひどくないかしらね」

「オレは作るの得意だから飽きないぜ!」

3人は夜が更けるまでもくもくとおもちゃを作り続けていった。


~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆


モリーニはすっかりうとうととし始めていた。

モリーニ城となった体はすっかり雪が積もっていた。

そこへ森の彼方から雪を掻き分けながらある老人がこちらへ向かってくる。

「おう、モリーニではないかい?」

その聞き覚えのある声にモリーニはピクッと目覚める。

「へ?もしかしてヨゼフ?」

「おう、やっぱり・・・探したぞよ。」

「ヨゼフは何でここに?」

「うん、道に迷ってしもた・・・・」

「ならヨゼフも僕のお城に入るがいいよ、ホホイッ」

そういうとどうしたことでしょう、ヨゼフのお腹の玄関扉が開いたではないか。

そんなこんなでヨゼフもここに泊まることとなった。


~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆


ヨゼフは勝手に城の中を物色する。まるでスパイにでもなったように。

通路を奥に進むと、一つの部屋の扉が開いている。

何やらひそひそした声で二人が会話している。

ヨゼフはその話に聞き耳を立てる。

「どうだい、今日の上がりは?」

「あんた、そう急かしなさんな。ほら、コンシェルジュ☆ヤソキチが市長から受け取った子供達の宿泊料は全部あるよ。そしてトナカイはアタイがしとめて来るからタダだし、サンタたちもボランティアだし、おもちゃだってこの辺の木っ端で作ってんだから無料だから丸儲けさ!」

「おぬしも悪よのう~イヒヒッ」

「あんたこそ子供達をこのままここに住まわせて奴隷にしようってんじゃ無いのかい?」

「いいんだよ、大丈夫。子供達も楽しそうに仕事しているからな。ほら、トナカイさえ食わしていれば満足なんだよ」

「わたしゃ料理する仕事が増えちまったけれどね・・・多少増えても一緒だがね」

「そうそう、これがギブ・アンド・テイクってやつさ!ハハッ!」

中ではトミマロとオオカミ女のトミマロの妻が悪巧みをしていた。

一部始終を聞いたヨゼフは思わずのけぞる。

するとそこへヨロヨロと突っ伏してしまった。

「ガタンッ!」

物音に気付いた二人が部屋の外に出る。

「誰だい?」

ついにヨゼフはひっとらえられてしまったのだ。


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~

「アンタなんでここに居るんだい?」

「ワシャ知らん」

「今の話、聞いていたんだろ?」

「ワシャ知らん」

「ケッ、しらばっくれてもダメだよっ!容赦しないよ!」

「ワシャ知らん」

「おいおい、そんなに責めるなよ。お年寄りだぞ。」

「ワシャ知らん」

「ほうら、もしかしてボケたのかもしれないぞ」

「ワシャ知らん」

「それもそうね・・・」


何とか切り抜けたヨゼフであったが、ついに城から追い出されてしまった。


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~


「どうしたの、ヨゼフ?」

「だ、ダメだった・・・・」

「何が?」

「と、トナカイ食いそびれた」

「キャハッ!」

「おい、何か食わせろ」

「なんかって?カキ氷?」

「○X△※%!!!」

「何それ?キャッキャ!」

「オマエ楽しそうだな」

「そうでもない」

「どうにもこうにも」

「どうしてこうして」

「どうやらこうやら」

そんなたわいの無い話をしていると、遠くからシャンシャンとトナカイの引くソリがこちらへ向かってきたではないか!それはコンシェルジュ☆ヤソキチだった。

「あなたは?」

「ヤソキチと申します」

「あんたここの住人?」

「いいえ。」

「では何用に?」

「チョット伝言し忘れたことがありまして」

「あんたここの中に居るロボトミー夫婦のこと知っているのかい」

「ええ。その方に伝言をと」

「ところで、ここの夫婦は子供達を奴隷にする計画のようだが」

「な、なんですとぅ~!」


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~


ヨゼフは事の次第を全てヤソキチに伝える。

ヤソキチは怒りに震えている。

「それでな、ワシに良い解決策があるから手伝ってはくれないか?」

「ええ、なんなりと」

ヨゼフとヤソキチはその計画を朝まで語り明かした。

モリーニは鼻ちょうちんを膨らませながら雪の中で熟睡している。

「では、いいね」

「はい、仰せの通り」

そういうとヤソキチはそそくさとトナカイを率いて退散して行った。

ヨゼフは覚悟を決めて計画を遂行する。


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~


モリーニ城の中の住人達は仕事の疲れも手伝ってぐっすりと寝入っている。

しかし何だか部屋の異常な暑さにオオカミ女のトミマロ妻は眼を覚ます。

「何だか暑いわねぇ、なんなの?」

「ワシャ知らん」

「なんか火事でも起きてんじゃないの?」

「ワシャ知らん」

「もしかして、あんたもボケちゃったんじゃぁないの?」

「ワシャ知らん」

「もう、役立たずなんだからぁ!」

するとトミマロ妻が飛び起きて部屋の外へ飛び出す。

部屋の通路は部屋以上の高温にさらされていた。

これは尋常ではない!

慌てたトミマロ妻はトミマロをたたき起こす。

「なんだをぅ、あちぃをぅっ!」

「いいからアンタ、子供達を見てきて。私はサンタさんたちのところへ!」

「それより、キャタピラーが溶けそうだよぅ」

「いいから、しっかりしなさいよっ」

サンタさんのいる工場の奥の部屋へと向かうオオカミ女。

子供部屋に向かうトミマロ。

しかしそこには既に誰も居なかった・・・

そればかりではない、昨日まで作っていたプレゼントは一つも残っていないではないか!

気になって二人は窓外を見ると、プレゼントを一杯に載せたトナカイのソリの列が森の中へと消えてゆくではないか。

慌ててモリーニ城の外へと駆け出してゆく二人。


~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆


すると玄関先には見たことも無い最新鋭のリニア列車が横付けられているではないか。

カラーリングは赤と白のラインで「Merry-X’mas!」と描いたデカールが貼られている。

最後端にはそれに似合わぬ木造りのトロッコ車体が連結されている。

リニアのハッチ越しにはヨゼフがこちらに手を振っている。

窓越しにはネムたちやサンタさんたちがこちらを伺っている。


二人の傍らに近づくコンシェルジュ☆ヤソキチが肩を叩く。

「あんた達、何を企んでいたんだね?優しいサンタさんを養成する優しい夫婦ではなかったのかい?」

「なによっ、わかったようなこと言っちゃってさ。あんたたちには分からないのよ。ここの暮らしは寒くて貧しいだけ。お金のためなら何だってやるのさ!ビジネスよ」

「だからといって子供達やサンタさんたちを奴隷のようにこき使ってはいけない」

「でもみんな楽しかったんだからいいでしょ!トナカイ美味しかったでしょっ!」

「じゃ、君達もトナカイのようになるがいいさ。では私はこれにて失礼する。」

「それより何なのよ、この暑さは?」

「そ・れ・は・ね、モリーニにちょいと我慢してもらって私の保存食の唐辛子を食わせたのさ!」

「何よ、あんただってチッチャイ子に酷いことしてんじゃないのよ、虐待よ!」

「へ、お互い様だね。それよりこの子はどう見てもチッチャくはないがね、ケッ!」

「何よ、インチキコンシェルジュめ。」

「おいおい、もういいだろ。俺たちだってインチキなんだから・・・」

「それよりこの子、美味しいって言って唐辛子一杯食べちゃったから屁には用心だぞ!」

コンシェルジュ☆ヤソキチはそう言い残すとリニアに飛び乗る。

ハッチは静かに閉まっていった。

「な、何ですって?」

すると、辛さのあまり真っ赤な顔をして我慢していた城であるモリーニが、とうとう思いっきり屁をこいたではないか!

「ブ、ぶぶっ、ブッブクブゥ~~~ プピッ!」

そしてそのあまりの勢いでリニア後端のトロッコに吹っ飛ぶや、見事に載っかったではないか。

「な、なによ~これぞ虐待よぅ~~~~」

トミマロ夫婦はその鮮やかさよりも屁の臭いの強烈さに雪の中に突っ伏した。


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~


そしてリニアは静かに滑り出して行った・・・・


~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~


「皆さんお待たせしました、さて皆さんには大変ご迷惑をおかけしまして、酷い宿泊研修となってしまいましたが、この機には「次元移転装置」が搭載されていますので、30分ほどで次の目的地まで到着いたします。しばしお寛ぎ下さい」

コンシェルジュ☆ヤソキチのカラオケで鍛えた流暢なベシャリによるCA顔負けのアナウンスが車中に心地よく響く。

モリーニは既にトロッコの中で熟睡中だ。



~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆


やがてリニアは雪の遊園地に滑り込んでいった。

何とか逃げおおせた一同はほっと肩を撫で下ろすと降車してゆく。

サンタさん達は何だかもどかしげで少し寂しげな様子が伺える。

モリーニは飛び上がると、トロッコから降りる。

ネムは何だか訳のわからぬアトラクションだったとため息をつく。

シルヴィーがネムにそっと口添えする。

「おもちゃ工房の体験みたいで面白かったじゃない。これであなたともお友達ね!」

フロリアンもネムに握手しながら

「なかなか楽しかったぜ。またご馳走してくれよな!」

3人はそれぞれの家路に着いた。


モリーニがヨゼフの元へ行く。

「ヨゼフ~、僕のお家どっちだっけ?」

「そうだな、よし、ワシが送って行こう。それよりモリーニ、今夜はクリスマス・イブだが、君は何をお願いしたんだい?」

「それはねぇ~、ガンダル大陸!」

「おっ、あの夏の海に呑まれてたどり着いた大陸だね。また一緒に行こうか!」

すっかり降り積もった雪の小道をそれぞれの帰路についてゆく。



~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆~☆


「アンタ、ところでちょっとは儲かったんじゃないの、今回は?」

「実はな、市長からの宿泊費が大分浮いたんで、大儲けさ!」

「それなら待望のハワイに行けるわね。そうだ、じゃあヤソキチさん呼んでリニアで行きましょうよ!」

「おいおい、あいつも悪よのうっ!てね(笑)」





~◆~◆~◆~◆~◆~◆~◆ fin ◆~◆~◆~◆~◆~◆~◆~





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