山の港町(4)
辺りが暗くなってきた頃、私はやっと家に着いた。
心が自然と休まる、思い出の詰まったこの場所に引っ越して早十年。たしかに不便なところではある。けれど、都会と違った時の流れ、そして昔のキラキラを眺めながら過ごせる場所。ここに引っ越してすぐ、私は前のマシンを売って、B.C.JOGを買った。昔の仲間と馬鹿騒ぎした街へ出ることもないように。でもやっぱりこうしてたまに山を降りたくなるのは、ここのキラキラとした記憶に、あの人がいるからなのか。そう思えば、マシンを買い替えた時、それでも山道をなんとか走れるこの子を選んだ私はあの時から未練タラタラだったのかもしれない。
まぁ、未練があろうとなかろうと、今更どうしようも無いことなのだけれど。あの時の仲間たちとも散り散り、あの人ももういないのだ。
でも、好きだった。あの時間も、仲間も、そしてあの人のことも。
スタンドを立てた時、この子は相当な熱を帯びていた。私もそうなのかもしれない。過去へと向かう道のりは、案外行きよりも帰りの方がきつい。押し寄せる、取り戻せない悲しみや後悔の向かい風を受けて、坂道を駆け上がるのだから。
もう、前には進めない。十年前のあの冬の日、私はキラキラとした記憶を失うことを恐れた。前に進めば、遠ざかる。けれど戻ることもできない。だから、あの日から立ち止まったまま、後ろを見て生きている。
玄関を開けた。ガラガラとガラスの揺れる音と、レールを転がる音とともに。