山の港町(2)
立ち上る湯気、店内に広がる活気とスープの香り、こだまする声。どれもラーメン屋の日常。ただ、ここに来る時はいつも、賑わいを見せるランチタイムを少しだけずらして食べに来る。
元祖を謳う醤油豚骨のラーメン、新商品もあの頃と比べると増えたけど、頼むのはいつも同じ。
「久々ですねー。いつものでいいっすか?」
「ええ、背脂多めのハリガネで」
「かしこまりました!」
パチンコ屋やボーリング場が併設された商業ビルの一階。いつも他のところには目もくれず、ここのラーメンを食べに来ていた。今日はいつもより空いている。カウンターへ案内され、注文を済ませる。
「最近来てくれなかったじゃないすかー。なにしてたんすか?」
オーダーをとってくれたのは華奢な女の子。昔から働いている子だ。あの頃は頭に巻いた黒のタオルから見える髪の毛がすごく明るかったけど、今じゃ大人になったのか。落ち着いた髪色になっている。
昔は毎週末立ち寄っていた。店員にも顔見知りが多い。よく話していたからこそ一見馴れ馴れしくも思える絡み方をしてくるが、この子は新人の頃よく言葉遣いで注意されていた。今でも若干治っていないのか、と少し微笑ましくも感じる。
「まぁ、そうですね。色々ありまして」
「ほー、色々っすか。お仕事の方は順調なんすか?」
「まぁ、そっちもぼちぼちですかね」
順調かと言われれば、決してそうではない。でも私は、既に自分の置かれている現状を諦めている。今後何があるにせよ、大きく変わるわけではない。もしもこれから変わったとて、それが自分の望んでいた未来になることは決してないだろう。だから、ぼちぼちなのだ。
「はい、背脂多めのハリガネです。ごゆっくりどうぞ」
久々の味。変わることのないそれを啜りながら、昔を思い出す。
私の日常は、常に過去を思い出す時間だ。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
それではまた、一久一茶でした。
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