何で俺だけ「あくまでも狙いは」
変わり身の術、とでも言えばいいのだろうか?俺が蹴り飛ばしたのは丸太だった。
確かに俺は忍者の顔面をちゃんと捉えて蹴り飛ばした。その手応えもあった。けれども、現実は違う。
忍者の姿は今どこにも見えない。完全に消えたと感じられる。この魔王の「眼」ですら何処にいるのか分からない。
「姿が完全に消せるのか、もしくはあの一瞬でこの部屋から逃げたか?ふむ?蹴られる瞬間に丸太とすり替わっていた?幻術を重ね掛けでもしていたか?」
スキルで消えているのであればこの魔王の「眼」で分からないはずが無い。しかし俺はそれを考え直す。
(もしかしたら一定の条件をクリアするとこの魔王にも見えなくなる様なスキルなのかもしれないなぁ。忍者スゲエぞ、そうなると)
だがやはり逃げたという可能性も否定はできない。こうして迷っている時間ですら、忍者が逃げるという手を選んでいたら、逃走を許す時間を与えている事になる。
「ミャウエル、ゲブガル、こうなっては仕方が無い。奴が後一分で出てこなければ炙り出せ。このまま消えたままで居られては一騎打ちにならん。これでは面白く無い。」
当然この城からはプレイヤーだけでは逃げ出せない。この城を出るにしても魔族が一緒でなければ門は開かないし、それ以外の出口は無い。
「そうだな?考えられる事はいくつかある。この城の構造を把握してより多くの情報を得ようとしている。もしくは宝物庫でも探しているか?その中の宝を盗んで自害してまんまと脱出成功、とかな?」
魔王のこちらから一騎打ちを申し出た。しかし忍者はそれに乗っては来たが、コレが他の目的のための目くらましの為だった場合は、真面目に勝敗を決めるつもりは最初から無かったという事になる。
「ふむ、やってくれるな。一本取られた、と言ってもいいだろう。まあ、それができればな。」
観戦をしていたプレイヤーたちの中からどよめきが走る。忍者がいきなり消えた事で、もしかしたら自分たちがマトモに戦っていたら勝てなかったのでは?と。
見えない敵とはもの凄く厄介だ。こうなると大幅に姿を消せる側が有利になる。
相手に後手に回させる事を強要するようなものだ。相手の動きを捉えられないから自分たちからの攻撃を仕掛けられない、そうなれば動きの幅も狭められてしまい身動きが取れなくなる。
あの鑑定ができるプレイヤーのパーティは心底、不戦勝になった事を喜んでいた。もしマトモにやっていたら勝ち目なんて無かった、と。
「さて、いい加減もう時間だな。奴はこの魔王からの一騎打ちを愚弄した。ミャウエル、ゲブガル、奴を消せ。もう付き合いきれん。時間の無駄だ。」
俺のこの魔王ムーブのセリフに応えて二人が動き出す。とは言え、この玉座の間に張り巡らしていた「糸」と「障壁」を狭めて行っているだけだが。
ここでこの忍者の隠形スキルが、透明と言えどもそこに存在する、見えないだけで物理的に拘束ができると言う事が判明した。
どんどんと狭まっていく「糸」と「障壁」で忍者が追い詰められていたようだ。微かに足音が響いていた。どうやら消えて動かなかった位置から移動を開始しているらしい。
部屋からは出ていなかったようだ。きっと姿を消している事で「逃げた」と思わせたかったのかもしれない。
そして隙を再び伺って俺へと暗殺を仕掛ける、と。何処までもその「暗殺」と言った事にこだわる所は別段悪くは感じないのだが、今はもうこの忍者に付き合っている時間が勿体ない。
「さて、武闘会の時間が余り長引いても白けてしまうからな。終わりにさせて貰おう。」
部屋の中心に透明な「人の形」が浮かび上がる。それはミャウちゃんの「糸」でできていた。
それがもごもごと動いてどうにか脱出しようと抵抗している。しかしやはり忍者の姿は見えない。透明なまま。
そのままの状態で一度地面に盛大に叩き付けられてようやっと忍者の姿が露わになった。
「さらばだ、暗殺者。なかなか面白い物を見せて貰った。本当はもっと私と相手をして貰いたかったんだがなあ?これ以上お前の流儀に付き合っている時間が無いのでな。」
俺がそう言い終わるとその忍者はキュっと「糸」に締め上げられて細切れになり、光となって消えた。
「さて、第四試合を見せて貰おう。ああ、楽しみだ。」




