何で俺だけ「1・1」
「コレは参った。逃げ出した臆病者だと思っていた四天王がこれほどに恐ろしい技を使って来るとは。」
一人残ったその忍者がそう言葉を吐きだす。しかしその表情がどうなっているのかは覆面で窺い知れない。でも声からはちゃんと驚いている事は分かった。
「最初から勝てる見込みが無かったな。これでは優勝を狙っていた方が幾分かマシだった。残念だ。」
落胆した声ではあったが、その抑揚は無く、先程の驚きはもうなりを潜めて冷静になったようだ。
この肝の座っている感じ、どうにもこの忍者パーティのリーダーである様に見て取れた。
「さて、ゲブガル御苦労。では、どうするかね暗殺者殿?このまま素直に殺されるか?・・・いや、そうだな。私の遊びに付き合って貰うとしようか。」
俺の労いの言葉にゲブガルが「は!有難うございます」と言いながら後ろに下がる。
そして「遊び」と言う響きに忍者が反応してきた。
「遊び・・・?何を考えている?この武闘会などと言うふざけた事以上に何をしようと・・・」
「ああ、お前らの目的は最初から暗殺だったのだろう?ならばここでムザムザ消える事を選ぶのか?機会を与えてやろうと言うのだ。文句はあるまい?優勝のパーティには私と戦えと言ってはあるが、今、一人だけのお前に決闘を申し込んでやろう。この我からな。」
この俺の、魔王のセリフにどうにも忍者パーティと戦う予定だったパーティが疑問を呈してくる。
「俺たちが戦うんだろコイツと?それを横から盗るように決闘?魔王が?俺たちは不戦勝、って事で良いのか?」
「ふむ、そうなるな。他の所と比べてしまうと少々不公平になってはしまうが。そうだな。どうだ?他の者たちは?何か意見があれば聞こう。」
俺が理性的にこの場の事を参加者のプレイヤーでの話し合いで決めようとするものだから、どうにも「魔王」のイメージが彼らの中で崩れ始めている様子だった。
「おい、魔王ってどうなってんの?」
「話の分かる魔王って事?じゃあ優勝賞品ってかなり良い物になる?」
「と言うか、ここで魔王を仕留めたとしたらかなり俺たちって有名になるんじゃないか?」
「でも、無理だろどう考えても。さっきの死に方見ただろ?」
「ああ、どうなるか分かったものじゃない。あんなの御免だぞ?」
「って言うか、どうする?私たちは消耗してるけど、あいつらは全くそんなの無しで勝ち上るの?」
「仕方が無くね?忍者ヤベーよ。だってさ、このイベントを丸無視で魔王狙ったんだぞ?」
「ガチ勢怖い。寧ろ今ここで消えてくれてオールオッケー。」
「なあ?不戦勝パーティって消耗した俺らでも勝てそうじゃん?レベル低いっしょ?」
「イケる行ける。勝てそうも無かったらもうちょっとイチャモン付けてたけど、ダイジョブっしょ?」
こうして意見が纏まったらしく、不戦勝でオッケーだとプレイヤーたちは言う。
この間忍者は全くその場から動いていない。不気味な程に口も開かずに意見なども無さそうだった。
「では、決まったな。さて、どうだ?私が決闘を申し込んだのだ。受けるかね?これ程のチャンスはこの先無いだろうよ。どうするかね?」
この俺の言葉に先程から微動だにしなかった忍者が大きく笑った。
「くっくっくっくっ・・・あっはっはっはっは・・・あーぁはっはっはっはっはっ!」
この本気の笑いの三段活用を目の前にして俺も、プレイヤーたちも全員ドン引き。
現実世界でお目にかかった事など無いこの笑い方って本当に実在するんだ、などと言った感想を共通で持った事だろう。実にファンタジー。
(いや、マジでホントに心の底からそう言う笑い方してるじゃん・・・あり得ないって、ドン引きだってば)
「今回のイベントで上位に入れば魔王の命を狙える絶好の機会を得られると思っていたんだが、こうして全て失敗に、いや、思い違いも甚だしかったな。良いだろう、その決闘、受けて立つ。」
カッコいい感じに纏まったんだが、まだまだプレイヤーたちの中の引いた心は元の位置に戻ってきていない。
こうしてこの玉座の間で俺と忍者の「一対一」が始まった。




