何で俺だけ「挟み撃ち」
フィールドボス、このゲームでは特定の領域を守ってその場所から動かないボスの事を言うのではなく、一定の領域を縄張りにしている魔物、モンスターの事を言う。
文字通り、徘徊、自らの縄張りを見回っているのである。その見回る範囲は膨大だ。だから、運が悪いと強力なそんな存在と冒険している時に鉢合わせする事がある訳だ。
しかしここでプレイヤーには選択肢がある。出会っても問答無用でそのボスと直ぐに戦闘に入る訳では無いという点だ。
ボスと言うくらいなのでその強さは折り紙付き。なので不意にそんな存在と遭遇してしまえば死は確実だ。
なんら準備をしていないプレイヤーには勝てる見込みの無い程に強いのだこのボスは。
だから逃げ道も用意してある。それが逃走だ。単純である。プレイヤーから攻撃を仕掛けなければ見逃されるシステムなのである。
当然ながらボスを倒せば良いアイテム、良い素材が手に入る。しかしそのハードルは高い。今のプレイヤーの力では到底勝てない強さなのである。
そんな存在が背後から強襲を仕掛けてきたのだ。これにはプレイヤーたちは堪ったモノでは無い。
しかし、この魔王の城の側で活動していたプレイヤーがこの場に居ない。いなかった。
なのでこの魔物がフィールドボスだというのを全く分からない。分からないからこそ、攻撃を仕掛けてしまったプレイヤーが居た。
初めて見る魔物、それが自分たちの走る前方に居た。別に接触はしない進路だったから見過ごせば良かったのかもしれない。
けれども、そのプレイヤーは、やってしまった。好奇心でちょっかいを出した。
走り抜けるそのプレイヤーたちをボンヤリと眺めて過ぎ去っていくのを眺めているだけだったその魔物に、その彼は初級魔法を放ったのだ。一番小さいダメージ、初歩の初歩。そんな魔法を。
もしかしたらその魔物がこちらに向かってきて、より混乱を引き起こしてくれるのでは?先頭集団へと割り込んで行って潰し合いの中に入って行ってくれないかな?そんな軽い気持ちで。
もし自分たちの所に攻めてきたら別段これだけの人数のプレイヤーが居るのだから返り討ちにできると考えて。
その魔物はミノタウロス、と言ったら分かりやすいだろうか?真っ赤な身体、巨大な体躯、立派で凶悪な角。
しかしそんな見た目とは逆で、本来なら温厚で草食と言う魔物であった。神話に登場するような、そんな狂暴凶悪なモンスターでは無い。
しかし一度暴れ始めたら手に負えない、目の前に居る存在が全て消えるまで暴れ尽くすといった、そんな強力な魔物だった。
そんな存在が、今こうして走り続け、争い続けるプレイヤーたちに地獄を見せる事になるとは誰も思いもしなかっただろう。
しかしまあ、この集団の側へとこの魔物を誘導したのは魔王ではあるのだが、その魔王ですら、この様な事になるなんて思ってもみなかったのである。
【あ、ヤバいな。確かフィールドボスってプレイヤーから積極的に攻撃を仕掛けなければ戦闘に入らないんだっけ?一番レベルが高い魔物が居たからそれを操作してみたけど・・・って、うわ!見る見るうちに青点が減ってくじゃん?あちゃー、誰かやりやがったか。まあ、そっちの方が俺には好都合か。運が良かったな。コレでポイントウハウハかな?】
そんな呑気な事を言っている魔王はこの後に、プレイヤーにとってより一層の地獄を生み出す行動を取る。
【あ、この赤点近い場所に居るな。こいつで良いか。先頭集団にけしかけちゃえ。あらよっと。】
ソレは隠密行動を得意とするタイプの「蛇」の魔物だった。コレに因りプレイヤーたちの地獄はより深みを増す事となる。
その事を今プレイヤーたちが気付けるはずも無い。魔王ですらそんな事に気付かない。こうしてプレイヤーはより一層の混乱と共に散っていく事になる。




