何で俺だけ「できる事、できなくなった事」
俺がこうして椅子から立ち上がれてできなくなった事がある。それは魔法が使えない、と言う事だ。
以前にプレイヤーを攫って魔王の強さを確かめようとした時は、掌を相手に向けて意識すると淡い紫色の光がプレイヤーを貫いた。
ソレは多分魔法だったんだと思う。しかし今はその魔法が使えない。
「そもそも背中に翼がある設定だったよな魔王?でも、今の椅子から立ち上がった俺の背中、翼無いじゃん?うーん、それが関係してるのかね?翼は封印されたまま?身体だけ切り離されて椅子から立ち上がれたッて、それはそれでおかしくね?」
能力の一部がまだ解放されていない状態と言って良いのだろう。
「とは言え、こうして動けるようになったんだから大暴れしたいよな、この魔王で。俺ツエエムーブかましたい。で、やった事と言えば招待状をばら撒いたんだけど、上手く行くかな?」
ミャウちゃんに頼んで俺は五十枚程「招待状」を作った。便箋で蝋封の結構凝った見た目の。その蝋印は何故かミャウちゃんが持っていた「竜」。肝心の中身はと言うと。
『武闘大会を開催いたします。提示する条件を満たし、生き残ったプレイヤーに豪華プレゼントをご用意しております。ご興味のある方は始まりの街の噴水前にお集まりください。』
簡素で居て怪しい内容の招待状をばら撒いた。一応はプレイヤーの活動する街や拠点などに満遍なく。
コレでプレイヤーが集まったりする方が逆におかしい、と言ったレベルの雑なやり方だ。
集合時刻は今週土曜の昼である。これを拾い読んだプレイヤーがどれだけの数集まるかが分からない。
もちろん戦う場所は玉座の間、そして集まったプレイヤーの相手はこの俺「魔王」である。
「こんなので集まるかなあ?それにこんな思い付きがここまでいきなりで形になるのって、やっぱりゲームだな、って思うよねえ。」
招待状を生産するうえで、ミャウちゃんが必要な物一式を用意してきたのはびっくりした。
頼んで直ぐにそれらを持ってきてくれたのだから驚くなと言う方が難しい。なにせ思い付いた本人の俺がこんな事言うのは何だが、無理だと、無茶ぶりだと思っていたからである。
しかしそんな問題など無かったかの如くに招待状作りは済んで、こうして各地にばら撒いたのだから俺もどうかしている。
「あとは何人集まるかなあ?ゼロだったら流石に虚しくなるけど。かと言って集まり過ぎたら「お前らの頭の中どうなってるの?」って思っちゃうだろうし。まあでもコレを企画して実行しようとしてるのは俺なんだけどねぇ。」
このゲームは自由度が高い。魔王をやっている俺がこんな勝手な真似をしても運営からは未だに何も連絡がこないのだ。
逆にこれだけ一切運営からの接触が無いと怖くなってくるくらいなのだが。それでも来ないなら来ないで、俺のやりたいように遊べばいいだろう。
アカウントを停止させられたらその時はその時だ。後の事は考えないで今はこの「魔王」を思う存分に遊べばいい。
「イベントの演説の時はあんな風に魔王ムーブかましちゃったけど、今回もそれでいこうかな?それとも逆に魔王らしからぬ言動をしてプレイヤーを困惑させるのも面白いかな?中に人が居ますってネタバレ?どっちもいいなあ。」
俺の心は少しづつソワソワし始める。何をどう取り繕っても「楽しみ」であるのだ。
この試みがどう転ぶのかは分からない。成功と呼べるものになるか、失敗だと判断するものになるかはやってみなければ分からない。
久しぶりに俺はゲームでこれほどのワクワクを感じている。こんな気持ちになったのはかなり久しぶりだった。
「その時までは無様な姿を晒さない様にミャウちゃんにキッチリと鍛えて貰わないとなあ。」
こうして当日まで俺はミャウちゃんに日課でみっちりと気合を入れて稽古をして貰うのだった。




